生活が苦しいわけを整理してみる

 「デフレ脱却」の道半ばと見るか、「アベノミクスが失敗」と見るかは難しいが、最近、欧米からは、「アベノミクス」はチグハグな事をやっていると批判を受けている。簡単に言うと、緩和政策を片方でやりながら財政再建のために緊縮財政をやっているのはおかしいだろう?円安が進んだおかげで中国や韓国はかなりの影響を受けているし、株価も上がっている。米国への影響も少しは配慮しろよ、こんなトーンの印象だ。世界からなんと言われようが、日本はデフレから脱却してみせるんだと政府が必死になっているのなら、国民としてはそれを信じながら支持するというもの。たとえ投票率が少なく、国民の審判を十分に仰いだ政党とは言い難いとしても、それでもだ。が、生活の苦しさや先行きの不安は、硬くもないこの意思をグラグラと揺らす。そこで、本当はどうなのか、少し真面目に整理することにした。

 ここへ来て、インフレ政策の生活への影響が大きくなってきているのは確かだと思う。「アベノミクス」の最大の特徴は、金融緩和と年金基金による株の購入で、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は昨年、資産構成の割合を国内債券を60%→35%に、国内株式を12%→25%、外国債券を11%→15%、外国株式を12%→25%の割合に変更した。その結果、債権合計71%が50%に減り、株式の合計が50%に増えた。日銀の投資信託買い上げを含めると、国内で10兆円以上が株式に回ると見込まれている。また、国内債券は、国債や地方自治体などが発行する債権で賄われているため、低利とは言え、デフォルトに陥らない限り元本と金利は保証されている。株価が上がっている原因は、この債券分を民間株の購入に回したためで、加えて、国内外の投資家の便乗投機を促してバブルが生じているかと思われる。

 大幅な円安にもかかわらず、最近の数字では輸出がさほど増えてもいないのに株価だけが上昇している現象の背景だ。ぶっちゃけGPIFは、厚労省や財務省の天下り機関である以上、官邸の意向で動くと思われる。

 また、国民の貯蓄の変化を見ると、2000年にゼロだった世帯の割合は12.4%で、2014年には38.9%へと3倍以上になっている。不思議なことに、2014年の「家計の金融行動に関する世論調査」では、2人以上世帯の平均貯蓄額は1182万円で、前年比81万円増で過去最高をマークしている。これを金融資産を保有している世帯だけに限ると、中央値は500万円で前年と変わらない。金融資産を保有している世帯の回答で、金融資産残高が1年前と比較して「増えた」割合は41.3%、逆に「減少した」割合は24.5%となっている。

 これは「アベノミクス」による株高の影響としか思えないが、多くは、老後や将来不安を起因とする貯蓄への衝動に動いているのではないかと思う。

 このところ、株高と円安を受けた大企業は一部で賃上げを行っているが、中小企業に反映される気配はまだない。まあ、実体経済の成長が無いのでそれが妥当ではないだろうか。となると、労働者の多くは、増税や支払い保険料アップ、物価高の影響だけを受けることになる。高齢者については、ごく一部の資産家は恩恵を受けるが、大半の人は自己負担増の方が大きくなる。

 食糧価格の上昇は世界的傾向で、日本も不可避の情勢だと思うが、日本は何が違うかというと、農業従事者の超高齢化や米価格の低迷、TPP(リスク)があって、将来、主食の穀物などが自国で調達できるかは定かでではない。また、年齢別人口構成や、保険料だけでは賄えない社会保障、税収の倍額で組まれる国家予算などから、インフレ懸念も増してきそうな状態だ。

 政府は労働人口を増やすために、高齢者や女性の就労率を上げることで生産力を上げ、実体経済の向上を目指しているようだが、60代後半の男性の就労率は45%を超えているし、70代前半の男性でも30%に達している。因みにこの数字はイギリスの2倍で、欧州諸国の3倍以上である。にも関わらず、もっと増やそうなど、現実問題無理じゃないだろうか。

 また、女性の就労だが、労働時間規制が殆ど機能していない現実に、さらに規制を緩めて、将来的には残業代をも無くそうとしている。この状態で結婚や子育てと両立させることは無理だと思う。これは都市部の話だが、ついでに言うと、「地方創生」の段階的な試みとして、地方の女性を地方に留まらせ、子育て支援によって働く環境を整えるという構想もあるようだが、都市部でできないことが地方でできるわけもない。

 日本が創生できるかどうか、ざっとその要因を拾いだしてみたが、どうだろう?

 ここでの結論として、現政権党の施策ではこのまま少子化が進行するものと覚悟したほうが良さそうではないかな。実体経済の成長のない株価上昇に頼っているため、このままでは投資家の判断によっては株が売られ、バブルが崩壊する可能性が高くなっている。株の相場とはそんなものなので、避けられないことでもある。ただ一番気になるのは、今回は国民の年金積立金が国債購入に使われているだけに、年金基金が直接的なダメージを受けることになる。そうなれば、年金支給額が減少し、もっと最悪を言えば、制度の破綻となる。といっても月賦で収めているため、全くなくなるわけではないが、政府の賭けが敗れた後、誰が払い続けると思う?

 こうなるともう、「景気回復」などと、途中経過を目指すような中途半端な気持ちじゃ甘いのかもしれない。

 色々整理しながら考え進めた結果、「国家の財政破綻」を避けるためにはインフレ政策しかないと、言い換えたほうが良さそうだ。ただ、国民がそれを理解して「我慢(安心)」できるように、政府はもっと説明すべきだと思う。この説明不足が原因で不安が募り、統一地方選で共産党支持に回るお年寄りも少なくないと、昨夜ちょっと思う記事に遭遇したのも付け加えておこう。

参照記事:「保険・年金・物価、負担増の春 子育て支援は拡充」(2015年4月1日05時13分)

 追記:このnoteをアップロードした後、Twitterで「<浜田宏一 VS 浜矩子>アベノミクス徹底対論2015年04月13日」を紹介されていた。聞いてみると、私がここに書いていることが正に題材となって論争が展開されている。

#経済

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