基礎研究に投資して!7月26日放送サンデーモーニング「風をよむ」を参考に

全身を鎧で覆ったような姿、
ボールのように身を丸めるその仕草など、
ほ乳類の中の異色の存在、アルマジロ。

そのアルマジロが、今、世界が直面する課題を考える上での、
ヒントになるかもしれない。

オックスフォード大学
ポラード主任研究員は
「これはワクチン開発の大きな一歩。そして急速に前進しています」
とコメント。

イギリスのオックスフォード大学と
製薬大手「アストラゼネカ」が共同開発中の
新型コロナウイルスのワクチンについて、
初期の臨床試験で強い免疫反応が確認されたことを公表。

新型コロナとの悪戦苦闘を続ける世界が、
注目しました。

オックスフォード大学ジェンナー研究所サンディ・ダグラス氏は
「ワクチンは年内にイギリスの高リスクグループの人々に使用できると思いますが、
すぐに国民全員が対象になるわけではありません」とコメント。

このワクチンが、すぐに多くの人が使えるようになるわけではない。

しかし一方で、既にイギリス政府が1億回分、
アメリカ政府が3億回分、またドイツやフランスなどがつくるワクチン同盟が、
あわせて4億回分を確保。日本も、供給するよう申し入れているという。

コロナ禍で始まった、有望なワクチンをめぐる、大国の争奪戦。
各国が競って有利な立場を得ようとする様相は、
「ワクチン・ナショナリズム」とさえ呼ばれ、危惧する声も上がっている。

フォンデアライエンEU委員長は
「自国民だけワクチンを接種すればいいと考える大国を説得している。
この試練は、我々が連帯できるかどうかが試されている」と指摘。

ノーベル医学・生理学賞の受賞者・大隅良典さんは、
「過去に感染症に対して共通の人類の問題として
解決しようっていう試みがなされていくつかの成功例もある中で、
今回、みんなが自国を優先するような雰囲気になっている。
いろんな国が疑心暗鬼で、一刻を争う開発競争みたいなことになっている。
それは大変憂うべきこと。」とコメント。

さらに、この背景には、
世界的な科学に対する考え方の変化があると言いう。
大隅良典・東京工業大学栄誉教授
「科学は答えが見えるもの、
答えが分かっていることにチャレンジして、
答えを出すという作業ではなく、
何が問題かという問題自身を発掘してチャレンジするというのが科学的精神。
1年2年で成果を上げなさいという精神とは違う。
基礎研究というのは科学そのもの。
自分が知りたいこと、やりたいと思うことが追求できる、
というのが、基礎研究の大事なポイント」とのこと

地道な基礎的研究よりも、
現実的な成果を追求し始めた科学。

この変化を、どう考えたらいいのでしょう?
そのヒントになるかもしれないのが、アルマジロ。

1970年代、世界中の科学者が、壁に突き当たった難病「ハンセン病」。
日本では、かつて「らい病」と呼ばれた感染症である。

ワクチンや薬剤の生産に繋がる医学的な研究には、
菌やウイルスを増殖させる為の「培地(ばいち)」、つまり、マットが必要。

病気を引き起こす「らい菌」は、すでに発見されていましたが、
適当な培地が見つからなため、培養が困難で、研究が行き詰まっていた。

手がかりは、この菌が低体温の人に増えやすいという傾向である。

そんな中、1930年代の基礎研究から「平熱が低い動物」がいるという
データが見つかった。その動物こそが、アルマジロ。

ネズミやサルなどの体温は37~38度ですが、
アルマジロの体温は34~35度と低体温。

植え付けられた菌は、期待通りに増殖。
これにより、ハンセン病研究は劇的に進み、治療法が確立した。

歴史上、差別の対象とされ、様々な悲劇を生んできたハンセン病は、
医学とは別の、動物学の基礎的な研究で積み上げられた知識により、
克服された。

地道に積み上げられた基礎研究の礎。
しかし今、その基礎研究に異変が起きているという。

大隅良典・東京工業大学栄誉教授は
「残念なことに、日本でウイルスの研究者は、実はどんどん減っている。
そういう基礎的なことに関しては、国から研究費が下りてこない。
感染症だったらお金がぽんと出るが、基礎的なウイルス自身の研究には、
なかなか研究費が下りてこないという状況。憂慮すべき事態です」と警笛。 

例えば、「基礎研究」を支える場となっている大学。
国から国立大学に支払われ、研究費を支えている運営費交付金は、
この16年間で1600億円以上も減少。

その一方で、存在感を増しているのが「競争的資金」と呼ばれるお金。

世界最高水準の研究成果を目指し、研究者の実績などを評価して、
選択・集中的に資金を配分するという、この成果重視の仕組みが、
短期間では成果が出しにくい基礎研究への、逆風となっている。

新型コロナから垣間見えた、基礎研究の危うさ。
大隅良典・東京工業大学栄誉教授は
「この問題は、コロナが解決すれば終わるというような問題ではない、
対策ができて、ワクチンができたらおしまい、というような問題ではない。
これから人類が何度も直面する課題だと思っています。
やっぱり、地球の成り立ち、
地球上の生命のあり方というようなことをきちんと知らないことには、
本当の意味での解決はないと思っています」

→番組内で関口さんが「費用対効果」という言葉を出していた。
すぐに儲からないことにはお金をかけない。

現在、各国で新型コロナのワクチン開発が急ピッチで進められており、
1番に開発できた国や会社が巨万の富を得ることができる。
しかし、ワクチンの開発には長年地道に研究してきた
基礎研究があってこそワクチン開発に生かされる。

今回の教訓を生かし、
目先の利益を考えることも重要だが、
長いスパンで「教育」に投資するマインドを
国のトップは持つべきなのではないのか。

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