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「茶色の朝」

2004年前に書いた書評でした。こんなに真実味を帯びるなどとそのときは思いませんでした。でもあきらめてはいない。

「茶色の朝」


フランク パヴロフ・物語 ヴィンセント ギャロ・絵

高橋哲哉・メッセージ

藤本一勇・訳



フランスでベストセラーとなり、同国や欧州で台頭する極右勢力の動きをけん制した寓話・「茶色の朝」の邦訳版が2003年暮れに出版されました。茶色はかつてナチスの象徴とされたファシズムの色。原文わずか11㌻の寓話です。
舞台はフランス名物のカフェ。どこにでもいる友人同士のたわいない会話が綴られています。友人が飼い犬を安楽死させたといいます。政府が毛が茶色以外の犬や猫はペットにできないという法律を定めたためです。しかし「いつかはそんな時もくるさ」としたり顔をする主人公。
ネット制限を批判した新聞の廃刊、その系列出版社の処分が続きます。しかし主人公は、「(政府の認めた)『茶色新報』も競馬とスポーツネタはましだから」と、さして不自由のない生活に納得するのです。
ある日、友人が逮捕されます。過去に茶色以外の動物を飼っていたことまで犯罪と見なす法律ができたためです。そして「茶色の朝」、前に白黒の猫を飼っていた主人公にも危険が迫ります。
邦訳に「メッセージ」という形で解説を寄せた高橋哲哉・東大大学院教授は、「フランスの極右はナチスに協力した歴史を持つ。国民戦線は1972年に結成されたが、勢力を伸ばしたのは80年代。失業の増加や欧州連合(EU)統合問題で不満を募らせていた国民の一部が移民排斥を掲げた彼らに共感を抱き始めた」と同書の歴史的背景を語ります。
ことはフランスでの過去の話ではありません。戦後初めて「日の丸」をつけた自衛隊が、軍靴で日本国憲法を踏みにじり戦地に派兵されました。卒業式・入学式の「日の丸」「君が代」をめぐる教職員の大量処分問題も浮上しています。「日の丸」「君が代」はまさに「茶色の旗」であり、「茶色の歌」となっているのではないでしょうか。
高橋教授は、「ファシズムの危険は市民の事なかれ主義に潜む」と指摘しています。そして 「一人ひとりが「(小さな変化を)やり過ごさないこと」「思考停止をやめること」とが大切だと訴えています。日本国憲法12条の「憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない」をあらためて読み返し、「一人一人の力」の大切さに思いをはせています。(A5判・1000円 大月書店)


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