一校正者と誤脱衍

書店員10年(理工/人文)→2024年9月より校正者として独立。 妻と猫と生活していま…

一校正者と誤脱衍

書店員10年(理工/人文)→2024年9月より校正者として独立。 妻と猫と生活しています。 本は死なない/変わらないから信用できるし、人は死ぬ/変わるから信用できない。だからこそどちらも尊く、愛おしい。

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【読書遍歴】こんにちは代わりの本の話

書店で10年弱働き現在は校正者なので「小さい頃から本の虫だったの?」「学校の図書室に通い詰めてたタイプ?」と聞かれることが多い(し、実際に同僚の書店員には本の虫タイプが多かった)。 が、「アフターゾロリ問題」代表例のようにゾロリから活字に移行せず漫画ばかり読んでいた少年時代だったので、10代はほとんど読書という読書をせずに過ごしていた。 そんな自分にとってターニングポイントとなった本たちを、「書評」というよりも「読書遍歴」として辿りながら紹介する。9,000文字近くあるの

    • 【校正雑記】図書館に行かずに奥付の書誌情報に辿り着くTips

      先輩から聞いた作業を少し効率化するTips。 ある書籍のシリーズ名やサブタイトル(またそのアキなど)、国会図書館リサーチの情報が少し不安なときの調べに便利なので是非どうぞ。 例として古川日出男『ベルカ、吠えないのか?』の奥付を検索。 Googleで書籍のタイトルを入力>画像検索>ツール>色>白黒を選択。 メルカリなどにアップロードされた画像が多いです。ものによっては全く見つからない場合もあるので参考までに。 『ベルカ、吠えないのか?』についてはこちらでも紹介しているの

      • 【読書録】古川日出男『超空洞物語』(講談社)

        『超空洞物語』を読んだ。自分はもう古川作品の良い読者ではないのかもしれない。 予習だと思って手に取った角川ソフィア文庫の『うつほ物語』、面白くなさすぎて読みきれずに断念。 そもそも古川作品のなかでも古典に材を取った『平家物語』(河出書房新社)、『女たち三百人裏切りの書』(新潮文庫)、『紫式部本人による現代語訳「紫式部日記」』(新潮社)の3作品は最後まで読み切れていない。個人的に古典は「難解だが何度も読めば咀嚼できる」といったものではなく、そもそも必要な前提知識/予備知識が

        • 【校正雑記】校正者になったらとりあえずブックマークしておきたいWebサイト一覧

          膨大な知識、図書館に足繁く通う、ネットの知識は全て疑う……みたいな校正者ステレオタイプをもっていたが、いざ作業に着手するとバリバリにネットを使う。 ということでよく使うサイトを一覧にしてみた。良いサイトがあれば随時追加する。オススメがあったら是非コメントで教えてね。 常用漢字チェッカーhttps://joyokanji.info/ 入力した漢字が常用漢字か常用漢字外かチェックできる。全部頭に入ってるのが楽ではあると思うので、使いながら徐々に覚えていきたい。 ISBNの

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        【読書遍歴】こんにちは代わりの本の話

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          【読書録】円城塔『コード・ブッダ』(文藝春秋)、末木文美士『草木成仏の思想』(サンガ新社)

          帯文に惹かれて購入。「対話プログラム(≒生成AI)」というホットトピック×関心領域である仏教×SFシーンの泰斗である円城塔、ということで期待して読んだ。円城塔作品は初。 SF要素を加えることで仏教の新思想の発展が描かれるものだと期待していたが、基本的に実際の仏教思想(上座部・天台思想・密教・禅・浄土教)をなぞった上で、そこに機械仏教的な用語を当てはめただけの言葉遊び(「草木国土時空間悉皆成仏」「分散型OS曼荼羅」「printf("ナム・アミダブツ";)」など)に終始していて

          【読書録】円城塔『コード・ブッダ』(文藝春秋)、末木文美士『草木成仏の思想』(サンガ新社)

          【読書録】ハン・ガン[著]斎藤真理子[訳]『すべての、白いものたちの』(河出書房新社)

          ハン・ガンがノーベル文学賞を受賞した。 仕事から帰宅して、急いで本棚から『菜食主義者』(きむ ふな[訳]、CUON)を引っ張り出し、表紙を撫でた。とても嬉しかった。妻に「ノーベル文学賞を受賞したの、この本の著者なんだよ」と伝えたが、彼女は文学にあまり興味がないので喜びを分かち合えなかった。 翌日、話題の種にしようと職場にその『菜食主義者』を持っていくと、向かいのデスクの同僚が「誰か興味あるかなと思って」と『すべての、白いものたちの』(斎藤真理子[訳]、河出書房新社)の単行本

          【読書録】ハン・ガン[著]斎藤真理子[訳]『すべての、白いものたちの』(河出書房新社)

          【読書録】大山顕『撮るあなたを撮るわたしを』(講談社)

          2020年に刊行された『新写真論』(ゲンロン)と話題/論旨は概ね変わらず、①高性能で②低コストで③抜群に普及していて④自撮りができる、スマートフォンの革新性(と、それによって逆に浮き彫りになる今までのカメラの特殊性)についてが話題の中心となっている。 出だしの猫写真についての話でグッと引き込まれ、四人称視点や「経験を確定させるものとしてのシャッターボタン」の話なども感心したけれど、『新写真論』を読み返してみるとほとんど同じことが書かれていた。たった4年でこんなに忘れるものか

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          【校正雑話】失われた「ビャン」を求めて

          嘘みたいな本当の話だが、校正者として初めて指摘した脱字は「ビャン」となった。 まだまだ校正者として修行中の身、今は正ゲラを通しで見ているわけではなく、プロダクションの事務所で付物校正や外部校正者さんから戻されてくる校正ゲラのチェックをしている。いきなり在宅校正だとこんなにたくさんの校正ゲラを見ることはできないので、キャリア一年目から得難い経験をさせてもらっている。 そんななか、校正者から戻ってきたあるゲラで「ビャンビャン麺」(「ビャン」は漢字。以下同)となるべきところが「

          【校正雑話】失われた「ビャン」を求めて

          【読書録】柄谷行人『憲法の無意識』(岩波新書)、隈研吾『日本の建築』(岩波新書)

          國分功一郎「天皇への敗北」(『新潮』2024年9月号)にて引用されていたことをきっかけに繙読。日本国憲法第一条と第九条に関する考察は慧眼。「交換様式D」についても簡単に説明されているので、初めて柄谷に触れる一冊としても良かった。 書名には「日本の建築」とあるが、筆者である隈が建築史上に自身をどう位置づけているかというところに明らかに力点がある一冊。とはいえ「八年かけて、この一冊を書き上げた(p245)」というだけあって、コンパクトながらも濃い。 日本建築史/建築業界の歴史

          【読書録】柄谷行人『憲法の無意識』(岩波新書)、隈研吾『日本の建築』(岩波新書)