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日本酒の未来と品質保証期限の話

3度目の緊急事態宣言中です。
日本酒に限らず、アルコール飲料を取り巻く環境はひとえに厳しい状況にあります。
つい日本酒の未来について考えこんでしまいます。
私にできることは、火種を絶やさぬよう楽しく飲むこと。

お酒のご紹介です。

新政(あらまさ)

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秋田県秋田市にあります新政酒造株式会社。
創業は1852年。現在は、初代の佐藤卯兵衛氏から数えて8代目となる佐藤祐輔氏が代表となり、新政を世界に知られる有名ブランドにまで育て上げました。
前衛的なアイディアでゼロ杯層の開拓を続ける、現代日本酒を牽引するトップブランドのひとつだと思います。

飲んでみましょう。

上立ち香は桃とラムネの中間のような甘い香り。
口に含むとチリっとした炭酸ガスと舌先にはさらっと流れるような甘み。遅れてキュートな酸がサイドから立ち現れてきます。
ブドウを思わせる果実味のある含み香と、甘酸の輪郭が特徴的なジューシィで軽快なテクスチャ。
喉を通るときに渋みを置いて引いていきます。
さっぱりとした後口はとても爽やか。

まるで重さを感じず、かといって薄かったり淡麗な味わいでもなく、爽快感のある素晴らしい舌触りです。
アルコール感も全く感じられません。
かすかに残る渋みがジュースではないことを認識させてくれますが、およそ日本酒とは思えませんね。

ラベル情報を記載しておきます。

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No.6 R-type
生酒 常時要冷蔵
原材料名:米(秋田県産)、米麹(秋田県産米)
精米歩合:麹米60%、掛米65%
原料米名:酒造好適米100%使用(2020年秋田県収穫)
使用酵母:きょうかい6号
醸造年度:令和2年酒造年度(2020-2021)
杜氏名:植松誠人
※当蔵作品は必ず正規特約店でお買い求めください。

購入は新潟県長岡市のカネセ商店。

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製造年月:2021.03
出荷年月:2021.04E
品質期限:2021.07

価格は720mlで1,500円(税込)でした。

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日本酒には賞味期限がありません
それは、日本酒に限らずアルコール類には腐るという概念がないからです。

時間経過や保管環境によって味わいに変化は起きますが、誰にとっても飲めなくなるような明らかな劣化は起きないとされています。
ただし日本酒に賞味期限が設けられるようになるのも、遠くない未来なのかもしれません。

日本酒にはさまざまな味・方向性の商品がありますが、それらは大きく2種類に分類することができると思っています。
その2種類とは、昔ながらの味わいのクラシックタイプのお酒と、20~30年前から台頭してきたモダンタイプのお酒です。

このクラシックとモダンという分類は、以前(今も?)住吉酒販が提案していたものです。

昔ながらのクラシックタイプのお酒は熟成による付加要素が欠かせないものが多いです。
時間経過や保管環境によって起きる味わいの変化を楽しむことも魅力のひとつですが、発売された時点ですでに熟成させてあるものも多い。
また飲用温度帯も幅広く、燗映えするものが多い印象があります。

翻ってモダンタイプのお酒は、メーカーによって推奨される飲み頃があります。
さらにはいつまでにお飲みくださいという飲み頃をメーカーが指定しているというお酒もあります。
もちろん、出荷時点で熟成期間を経ていないというわけではないのですが、発売後の時間経過による酒質変化を推奨していない。
また基本的に要冷蔵であり、燗よりは冷酒でおススメされることが多いと思います(すべてが燗上がりしないわけではありません。念のため)。

また、この2種類はおおまかに飲まれるシチュエーションが異なります。
クラシックタイプのお酒は、普段から家で晩酌をするときに日常品として飲用されます。
モダンタイプのお酒は、デートやパーティといった特別な日に特別なお酒として飲まれているように思います。

そして売られるタイミングも大きく異なります。

クラシックタイプのお酒は、一年通していつでも手に入るものが多い。
もちろん地酒など特定の地域でなければ手に入らないなど、地域の困難性はありますが、それは日本酒全般で言える話。

モダンタイプのお酒は季節商品の割合が多く、同じ規格のものは年に1回しか発売されなかったりする。
たとえば去年たまたま飲んで美味しかったモダンタイプのお酒を今年も買おうと思うと、いつ出荷されるのかの綿密なリサーチが必要となるのです。

つまりモダンタイプのお酒をしかるべきタイミングに最高の状態で楽しむためにはけっこう準備が必要。

まず保管に冷蔵庫は必須。
ですが一升瓶で用意してしまった場合には、家庭用の冷蔵庫に入れるのはかなり厳しいことになります。

非加熱(生酒)の商品だったりすると、冷蔵保存であっても酒質変化は意外と早く進みます。
購入してから数か月経っていたら、もはや購入時の味ではないと思っておいたほうが良い。

そしていつ買えるのか?
出荷時期も毎年異なる場合があるので、何度も酒屋さんに行って確かめる必要があります。

こんな扱いの難しいモダンタイプのお酒が、数多ある日本酒銘柄ランキングの上位を総なめしているわけです。
ある意味、日本酒を難しくさせている要因の一つなのではないでしょうか。

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新政には、品質保証期限が設けられています。

日本酒なので消費期限/賞味期限ではありませんが、メーカーとしてこの期限までに飲んでくださいという指標ですね。
さらに首飾り(?)の裏面には細かく注意書きがあります。

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冷蔵庫の保管温度だけでなく、飲むときのグラスまで指定されています。
このお酒は非常にデリケートなので守らなかった場合の品質は保証しませんよというクレーム対策の意味もあるのかなと思います。

日本人はそもそも生が好き。
そして鮮度の良いものが好き。
そして新政が現代日本酒を牽引するブランドであることは前述したとおり。
今後、同じような品質保証を施す蔵が追随してもおかしくありません。

これだけデリケートな日本酒はきっと国内でしか飲めませんから、輸出を奨励している日本酒業界からすると、時代とは逆行する商品なのかなとも思いますけどね。
日本酒の未来を考えると、日本酒に賞味期限が設けられるのはデメリットも大きい気がします。
とはいえ新政はとても美味しいお酒ですし、この繊細さが逆に人気を裏から支えている気もします。

今後どうなっていくのでしょうか。
今後も機会があれば新政を購入して楽しみつつ、日本酒の行く末を見据えていこうと思います。


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