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日本酒と火入れの話

2022年になりました。
昨年中にもう1本記事をと思いながら達成できず年が明けましたが私は元気です。
まだまだマスクが手放せない状況が続いていますが、せめて心は豊かに一年過ごしたいものですね。

お酒のご紹介です。

大黒正宗(だいこくまさむね)

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兵庫県神戸市東灘区にあります安福又四郎商店。
1751年創業、兵庫県産の酒米と灘の名水として知られる「宮水」を使用して酒造りを行っています。
かつては2万石を数える大手の蔵元でしたが、1995年の阪神淡路大震災で木造蔵が全壊、廃業寸前に追い込まれました。
現在は白鶴酒造の二号蔵を借りて酒造りを続けています。

飲んでみましょう。

上立ち香は穏やかな熟成香。
口に含むと舌先に酸、少し遅れて苦みが立ち現れてきます。
若干の果実味も伴った含み香とミネラル感のあるテクスチャ。
さらっと軽快なのにどことなく艶があり、奥底に甘みが控えているのに掴もうとするとするりと逃げていく、そんな感じの中間。
後口は苦みで〆。余韻は短く、非常にキレが良い。

個人的にはかなり好きなタイプ。
たくさんのフックを持っているお酒です。
何かを食べながら飲んでも良いし、何も食べずにそのまま飲んでも良いお酒。
温めれば隠れていた甘みがしっかりと主張をはじめ、また違う顔を見せてくれます。

ラベル情報を記載しておきます。

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大黒正宗
一ツ火
兵庫夢錦 百%使用
アルコール分:15度
原材料名:米(兵庫県産)・米麹(兵庫県産米)・醸造アルコール

購入は大阪府茨木市のかどや酒店。
価格は 1,800ml で 2,530 円(税込)でした。

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日本酒の瓶に明記されている「生酒」「生詰」「生貯蔵」の文字。
これらは日本酒の加熱処理の種類です。

日本酒の伝統的な製造工程には2回の加熱処理のタイミングがあり、それぞれを行うか・行わないかによって酒質や品質に差が出てきます。

「生酒」「生詰」「生貯蔵」は、2度ある加熱処理を行わなかった日本酒に付けられる名称です。
「生酒」は加熱処理をまったく行っていない日本酒。
「生詰」「生貯蔵」は1度だけ加熱処理を行っている日本酒で、それぞれ加熱処理のタイミングが違います。

加熱処理、日本酒では「火入れ」と呼ばれるこの工程は、室町時代の文献「御酒之日記」にもみられる日本酒古来の伝統技術のひとつであり、日本酒製造において欠かせない工程のひとつです。

火入れの目的は殺菌です。
発酵を止め、品質の劣化を防ぐ。
ですが敢えて火入れの工程を行わないことで搾ったままのフレッシュな味わいを残したお酒もたくさんあります。
冷蔵庫の普及に伴い、品質を維持しやすい環境が広まったことによって、生酒のまま流通させるという日本酒のバリエーションが生まれました。

火入れの有無はそのお酒の個性を決定します。
そう書いても過言ではないほど、火入れは日本酒の味わいに決定的な影響を与えます。
だから瓶に明記される「生酒」「生詰」「生貯蔵」の文字はそのお酒がどういうお酒なのかを知るためにとても重要なのです。

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今回ご紹介の大黒正宗。
一ツ火」と記載されています。
字面をそのまま読めば、2回ある加熱処理のうち1回を行ったお酒ということです。

「生詰」「生貯蔵」とは書かずに「一ツ火」と書く。
「生」であることを主張するのではなく、「」にフォーカスを当てる。
日本酒の伝統技術のひとつである「火入れ」への敬意が読み取れます。

そもそも「火入れ」という工程がなぜ欠かせないものになったのか?
上述した通り現代では殺菌がその目的であると考えられるわけですが、室町時代の当時、菌という概念すら無い。
そして「火に当てる」ではなく「火を入れる」という表現。
火には神性があり、酒に火を入れることで酒自体も神性なものになる。
今の時代に失われた意味がそこにあるのだと思います。

ちなみに「ひとつび」という言葉を併記した日本酒は大黒正宗以外にもあります。

上段でも書きましたが、大黒正宗の一ツ火は燗にして(つまり飲むときにひとつ火を入れて)飲むと一層味わいが膨らみます。
これって、ダブルミーニング。

他の酒類よりも歴史的に早く加熱処理を取り入れた日本酒。
そして飲むときにも加熱して楽しむ文化がある日本酒。
私はいま、大黒正宗の一ツ火で暖を取りながら、そんな日本酒が傍にある幸せをかみしめているのです。

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