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和らぎ水がなぜ市民権を獲得できたのかという話

春の陽気さが心地よくなってきました。
相変わらず「まん延防止措置」などで自粛を余儀なくされていますが、せめて自宅では楽しいお酒をいただきたいものです。
その際はぜひお水を飲むことも忘れずに。

お酒のご紹介です。

奥能登の白菊(おくのとのしらぎく)

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石川県輪島市にあります白藤(はくとう)酒造店の銘柄です。
1722年、廻船問屋として創業し、江戸時代末期には酒造業を営むようになったとのこと。
2006醸造年度より現在に至るまで9代目となる白藤喜一杜氏が中心となって酒造りを行っています。

飲んでみましょう。

上立ち香はナッツのような香りですが、梨のような果実香も感じられます。
口に含むと舌先に甘み、サイドから酸が感じられ、その刹那プリンを思わせるような含み香が抜けていきます。
奥のほうに渋を覗かせる中間。輪郭は比較的シャープで、軽く感じます。
渋で締める後口ですが、ふんわりと漂う甘い香りが余韻を作ります。さっぱりと切れるので、口内に未練が残りますね。

含んでから喉を通るまで、総じて非常に柔らかい酒質です。
吟醸香もありくっきりした輪郭と恬淡とした余韻が魅力的。

ラベル情報を記載しておきます。

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特別純米酒
アルコール分:16度
原料米使用率:五百万石73%・山田錦27%
精米歩合:55%
原材料名:米(国産)・米麹(国産米)
製造年月:令和3年4月

購入は新潟県長岡市のカネセ商店。

価格は1,800mlで3,465円(税込)でした。

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日本酒を飲むときは合間合間にお水を飲みましょう
と、さまざまなネット記事や居酒屋・酒販店でおススメされています。

合間合間に飲むお水を和らぎ水なんて呼んでいますね。
和らぎ水を適度に飲むことでアルコールの過度な吸収を防ぎ、深酒になったり二日酔いになったりするのを予防するわけです。
また、合間に水を含むことで口内をリフレッシュさせ、食事や次の一杯の味を際立たせる効果もあります。

この和らぎ水、つまり日本酒とお水を交互に飲む文化は歴史が浅いようです。

野口万紀子の日本酒のいろは
第五話 土地の歴史やエピソードから日本酒を知ろう
https://www.sakenomituwa.com/f/column/column_noguchi_190320

きき酒師の野口万紀子さんのこちらのコラムでは、石川県金沢市にありますやちや酒造の神谷社長が和らぎ水の発案者だと記載されています。
詳しくはぜひコラムを読んでいただきたいのですが、日本酒を飲むとすぐ酔っぱらってしまうこと・つい飲みすぎてしまうことを解決する方法として発案されたとのこと。
記事からは、この発案時期が2000年頃であることも読み取れます。

日本酒を飲むとき和らぎ水を挟むかどうかで確かに酔い方に大きな差が出ますから、これは素晴らしいとても大きな発明だったことは疑いようがありません。

ただ、その理由だけで和らぎ水が今ほど市民権を得るようになったとは考えづらい。
和らぎ水を飲む動機が悪酔いしないようにするためというそれだけでは、おそらく酒飲みは合間合間に水を飲むなんてことはしない
なぜなら和らぎ水が口内で日本酒を薄めてしまうからです。水は飲みこんでも口内に少し残ります。その残った水が、次に口にする日本酒の味をぼやけさせてしまう。

また、和らぎ水を発案した当初を思うと、日本酒に対してすぐ酔う・深酒してしまうという理由であまり良い印象を持っていなかった人たちが、お水を合間合間に飲みながら日本酒を飲むことで日本酒に対するイメージが好転したとは思えないんです。

私は、和らぎ水が浸透した最大の要因は、多くの銘柄を扱う日本酒専門の居酒屋が増えたことだと考えています。
居酒屋としてはたくさんお酒を飲んでもらいたいですから、和らぎ水を広めたいわけです。
そこで日本酒メニューの豊富な居酒屋は、提供する1杯あたりのサイズを小さくしたのです。
これが結果として和らぎ水が飲まれるようになるきっかけを作ったのではないかと思います。

酒飲みは、グラスに注がれた日本酒を飲み終わり、次の(別の)お酒を注文するときに、口の中をリフレッシュする目的でお水を口に含む。
グラスサイズが小さくなっているため、水を飲む頻度が上がります。
つまり水を飲む合間を居酒屋が作り出したと言えます。

さらに、少量ずつ提供することでお酒に弱い人でも多様な日本酒の魅力を楽しめるようになったからこそ、和らぎ水の酔いづらい・深酒しづらいという効果が認められるようになったと思うのです。

グラスサイズは、現在でこそ半合(90ml)とか120mlという容量で提供されるお店が多いですが、私が日本酒を飲み始めた2000年代中頃は、日本酒を正1合(あるいはこぼし酒で実質1合以上の場合も)で提供する居酒屋がほとんどでした。
そして水は別途お願いしないと出してもらえませんでした。
和らぎ水という言葉はすでに日本酒飲みの間で周知されていましたが、大きなコップになみなみと注がれた日本酒とお水を交互に飲む人なんていませんでした。

日本酒を専門に扱う居酒屋が増え、グラスサイズの小容量化が和らぎ水の浸透を促進した。
そんなふうに考えています。

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奥能登の白菊を購入したのは数年ぶりです。
以前飲んだ時は石川県のお酒らしい甘みとコク、ふんわりとした輪郭があり、多少強めのアテと合わせるととても美味しいお酒だと感じていました。

今回久しぶりにじっくり飲んでみて、以前と同様の甘みは残しつつも、輪郭はくっきりと酒質は非常に上品に洗練されており、以前にはきっと無かったであろう果実味も感じられるお酒に仕上がっていると思いました。

正直なところ、今の奥能登の白菊のほうが個人的には好きですね。
ずっと飲んでいても飽きない。自分にとって和らぎ水を忘れるタイプのお酒です。
意識的にお水を飲んで、深酒しないよう気を付けます。

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