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低精米なのにやたら美味い酒を飲んで思うこと

2度目の緊急事態宣言が明けません。
飲食店も大変ですが、酒販店も酒蔵も大変です。
少なくとも、酒飲みは酒を飲んで応援するしかないと思っております。

お酒のご紹介です。

王祿(おうろく)

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島根県松江市にあります王祿酒造株式会社。

創業は明治5年。現在の杜氏は6代目となる石原丈径氏。
こだわりぬいた酒質設計で、ひと際異彩を放つ有名蔵です。

飲んでみます。

上立ち香は穀類と果実の中間のような香り。
口に含むとチリっとしたガス感、サイドから酸。舌の中心線には甘み。
粘度の高いとろみのあるテクスチャ。
甘みに引っ張られてせりあがってくるどっしりした旨味。
若干セメダインを伴った含み香はエッジが利いていて全体を両サイドから引き締めるかのようです。
渋みをちょこんとおいてスッといなくなります。あれだけ強い中間から一転して捌けの良い、短い余韻。

熟成による味のふくらみと、デリケートな保管方法により生かされている生酒さながらのフレッシュ感が共存しています。
文字通りの「いいとこどり」。
酒蔵だけでなくそれを販売する酒販店の協力がなければ実現できないであろう酒質です。
素晴らしいお酒ですね。


ラベル情報を記載しておきます。

純米 ハチマル
H30BY仕込32号
原材料名:米、米麹
精米歩合:80%
アルコール分:17.5%
仕込み水:自然湧水 通称“黄金井戸”
杜氏名:石原丈径
製造年月:R2.12

購入は東京都多摩市にあります小山商店。

価格は1.8Lで3,487円(税込)でした。

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王祿には数多くのラインナップがありますが、今回ご紹介のお酒はハチマルと銘打っている通り、精米歩合80%の低精米酒です。
前述の王祿酒造のホームページを見ると、低精米であっても美味い酒を造るという信念で7年の月日を費やし納得のいく味に育てたことがわかります。

実際に飲んでみると、クリアながらふくらみのある味わいと爽やかな余韻で精米歩合80%の面影は全く感じられません。
この設計で、酒質をコンスタントに守り出荷しているのですから、王祿酒造の技術たるや素人ながら瞠目すべきものがあります。

低精米でも美味しいお酒が造れるのですね。

それでは、米を多く削る、高精米酒を造ることの意義とは、何なのでしょうか。

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高精米で造る日本酒。
その目的は、綺麗で繊細な酒質を求めること。
雑味の無い澄んだ酒が磨きに磨いた米から造られる。

しかし高精米で造るぶん、より多くの原料米を必要とします。
単純な話、精米歩合35%のお酒は、精米歩合70%のお酒の2倍以上の玄米を必要とすることが多い。
したがって、高精米で造られた酒は価格が高くなる
その価格高騰は、原料米+精米費用が加算されたものと言えます。

高精米酒のひとつの意義は、単純に原価がかかっているということに価値があるからでしょう。
飲む前からわかる付加価値であり、贈答用としてはうってつけの情報です。

そしてもうひとつ、綺麗で繊細な酒質を確実に味わえることにも、価値を感じる人もいるかもしれません。
高精米なら絶対美味しいだろうというブランドイメージは強いのです。


日本の米の消費量は年々減っていっています。
農林水産省のHPには、以下のように書かれています。

国民1人・1年あたりの米の消費量は、1962(昭和37)年度の118.3kgピークに一貫して減少傾向にあります。
1990(平成2)年度には70.0kg、2005(平成17)年度には61.4kg、2018(平成30)年度には53.5kgまで減少しています。

このような減少傾向の中、米を原料として造られる日本酒において、実は高精米で造る高級酒は救世主の一人なのだろうと思います。
高精米で造る日本酒は、それだけ原料米を多く必要とするからです。

言うなれば高精米酒は、地方創生の一助を担っているわけです。

王祿酒造も低精米酒しか造っていないわけではありません。
それどころかラインナップの半分以上は純米吟醸以上の規格です。
自分のところに米を卸してくれる契約農家さんを多数抱えるなか、低精米ばかり造っていては地方創生にはならない、そういう意識で酒造りをされているのかもしれません(酒を愛しているが故、いろいろな規格を造っている側面もあると思います)。

低精米のお酒にも、高精米のお酒にも双方異なる魅力があると思います。
さまざまなラインナップがそれぞれの特長をもって選べるのが、日本酒の楽しいところですね。

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