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寄り道も力に変える?陸上・寺田明日香選手が体現する「遠回りだけど最短」なアスリートキャリア

GODAI note編集部です。

6月24日から、東京オリンピックの代表枠を争う「日本陸上競技選手権大会」が始まります。

かつてないハイレベルな争いが期待される男子100メートルをはじめ、見どころがたくさんあります。
そのなかで、GODAI編集部では、ここ最近テレビで見かけることも増えた、あるアスリートにとりわけ注目しています。

寺田明日香選手。女子100メートルハードルの選手です。
(※ちなみに面識はまったくありません)

23歳で引退、出産、ラグビー転身…驚きのキャリア

今年の6月1日、寺田選手は大阪市で行われた大会で、12秒87の日本新記録をマークしました。

目標としていたオリンピックの参加標準記録12秒84には、わずかに100分の3秒届かなかったものの、日本陸上競技選手権大会での記録更新にも期待がかかります。

寺田選手は現在31歳。6歳の娘さんを持つ「ママさんハードラー」です。
それだけでもすごいのに、実は(ご本人には失礼ですが)、ジェットコースターのようなめまぐるしいキャリアを歩んでいるのです。(以下、「Number Web」などの記事をもとに作成)

・2008年に日本選手権で史上最年少優勝。以降、2010年まで3連覇を果たす。
・しかし、2012年のロンドンオリンピック出場がかなわず、23歳の若さで陸上選手を引退。
・結婚・出産を経験した後、大学に進学(専攻は「子どもの健康福祉学」)。
・2016年、日本ラグビーフットボール協会のトライアウトに合格し、突然7人制ラグビーに競技転向する形で現役復帰。
・しかし、怪我に悩まされラグビーを断念。そして、2018年に再び陸上競技への再挑戦を表明。
・翌2019年9月の大会で、12秒96の日本新記録(当時)を樹立。

「Number Web」の過去記事がこちら。ラグビーに転向したときの記事もあります。

寺田選手をサポートする「チームあすか」

さらに寺田選手のユニークなところは、彼女のサポート体制にあります。
2018年に陸上競技に復帰してから「チームあすか」を結成。コーチ、トレーナー、管理栄養士、応援団長(=娘さん)などがそれぞれの役割で寺田選手をサポートする体制を組んでいるそうです。

最近もテレビのニュース番組で、オリンピックの参加標準記録である「12秒84」に到達するために、「0.01秒」を削り出そうと奮闘する「チームあすか」の様子が採り上げられていました(寺田選手が「1つのハードルにつき0.01秒縮められれば……」という趣旨のことを話していたのが印象的でした)。

「出力割合」を高めてフィジカルを補う

今日、これまでの常識では考えられないくらい、さまざまな競技で選手寿命が延びています。サッカー、野球、バスケットボール、テニス……息長く活躍するアスリートを各競技で挙げることができるでしょう。

それでも、陸上の短距離種目という、とりわけフィジカルの強さが求められる世界で、出産まで経験して、30代の今なおベストタイムを更新し続ける寺田選手。その活躍には驚嘆しかありません。

素人が軽々な発言はできないのですが、おそらく科学的には、フィジカル面でのピークは過ぎているはず。
それなのに、なぜこれほどのパフォーマンスを発揮できるのでしょうか。

単純な数式ですが、アスリートのパフォーマンスが、そのアスリートのフィジカル的な能力(走る・跳ぶなど)と、その出力割合のかけ算だとしてみます。

アスリートのパフォーマンス = フィジカル的な能力 × 出力割合

ここでの「出力割合」の大きなファクターは、技術とメンタルでしょう。さらに、特にメンタルの場合は副次的なファクターとして、応援してくれる人の存在や、将来への不安の有無などがモチベーションに影響を与えるものと想像されます。

……と考えると、寺田選手の場合は(本人の頑張りはもちろんですが)「チームあすか」の存在が、この「出力割合(≒技術&メンタル)」を高めることで、フィジカル的な能力の低下をカバーしているような気がします。
(たとえば「応援団長」である娘さんなどご家族の支えが、大いに力を与えていることは間違いありません)

さらに、「チームあすか」のフィジカルトレーナーや管理栄養士スタッフなどは、「フィジカル的な能力」の維持・向上にも直接的なインパクトを及ぼしていることでしょう。

「寄り道」が、アスリートの力になる?

この「チームあすか」のサポートに加えてもうひとつ、寺田選手の「出力割合」を高めている要素が隠れているような気がします。
過去の記事の中にあった、寺田選手の次のコメントにヒントがあります。

アスリートの多くは、「あれだけやってきたのに上手くいかなかったらどうしよう。結果が出なかったらどうしよう」という想いを少なからず持ちながら生きていて、私もそのうちの一人です。
しかし、さまざまな経験をしたあとに走るのが楽しいと気づいて戻ってきた陸上競技の世界。結果が求められるのは当たり前ですが、自分の中の“楽しい”は絶対に忘れてはいけないと思っています。

↓出典はこちらの記事

23歳でオリンピックの夢を断念した挫折。
結婚・出産でアスリートから離れたこと。
大学で勉強し、学位を取得。
陸上とはまったく異なるラグビーへの挑戦。

決して順風満帆なアスリート人生を歩んできたわけではありません。それどころか、寄り道に次ぐ寄り道ばかりです(あくまでも陸上選手としては、という意味での「寄り道」です)。

でも、これらの挫折や寄り道があったからこそ、「さまざまな経験をしたあとに走るのが楽しいと気づいて……」と本心から言えるのだろうな、と思うのです。そして、その「楽しい」と思える気持ちが、アスリートとしての寺田選手の「出力割合」を高めていることは間違いないでしょう。

タレントや芸人などでも、売れなくて不遇の時期を長く過ごした人ほど、その生き様が魅力や芸事に表れていると感じることがあります。それと厳密にはイコールではないかもしれませんが、アスリートにも「寄り道が力になる」ことがあるのだな、と思わずにはいられません。

「失敗や挫折を糧にする」と言えばたしかにそうなのですが、そんなきれいな言葉では語り尽くせない気もします。
アスリートとして必要なことをやっているだけでは、本当の強さは生まれない。一見不必要なことが、本当の強さを生む。
遠回りなことを繰り返すことが、結果的に目標への最短ルートになる。
なんだか哲学的ですが、これもスポーツの、人生の妙ですね!

日本陸上競技選手権の女子100メートルハードルの決勝は6月26日の予定です。相手がいることなので結果はわかりませんが、本番当日は寺田選手がベストの走りをできるよう、陰ながら応援したいと思います!

↓こちらは2018年、寺田選手が陸上競技にカムバックしたときの記事。当時から高いモチベーションで目標に向かって歩み続けている姿勢、すばらしいですね!




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