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アニメ、「Extreme Hearts」を知っているか。

 

 私は率直に言って「佳作」が好きだ。名だたる名作でも大作でもなく、佳作が良い。

 それも、
 「誰も知らないんじゃないか?
 「このアニメ見てるのなんて自分とあと五人くらいしか世界にいないんじゃないか?

 そんな風にすら感じる、誰も知らない、自分だけのひっそりとしたお楽しみ……砂利の中でひと際輝く原石のような作品を、見つけて、自分の中で磨いて、それが宝石になる瞬間がたまらなく楽しくてうれしい。
 小学生の頃に中古のゲームショップの棚を見たときの、あの宝箱を前にしたような感覚が、私のアニメ視聴体験へ臨むひとつの原動力となっている。

 
 そんな、大作のようには目立たない、けれど宝石のようにキラキラしたとあるアニメが、今放送されている。
 ちっぽけな自分がメチャクチャにされてしまった出会いと、その顛末を語ろうと思う。

☆はじめに

 ある日、当時はFGOの最新シナリオ6.5章がリリースされプレイの真っ只中。
 ネタバレ回避のためTwitterその他諸々を絶ち、せっせと攻略に勤しむ私のもとに、いつもお世話になっている知人から連絡が入った。

「君向けのアニメがやってるよ!ぜひ見てみてほしい!」

 具体的にどうオススメなのかという情報はなかった。
 公式サイトを見ると、可愛い衣装を着た女の子達が青空を背景に飛んでいる。

 あらすじを読んでもピンとこない。
 近未来?ハイパースポーツ?最高の仲間と出会っていく物語?
 なんだなんだ。ジャンルもなにもさっぱりわからない。というか君向けってそもそもどういう意味だろう。
 疑問点に首を傾げながら、アマゾンプライムの新作項目をチェックすると、丁度そのアニメの名前が載っていた。

 数件しか視聴者レビューが投稿されていないその作品は、誰がどう見たって話題作でもなければ大作でもない。
 まだどこにでも転がっている、石ころのひとつでしかなかった作品。

 でもそれは確かに、今はまだ石ころでしかなくても、宝石になる可能性を秘めたアニメだった。

 「Extreme Hearts」

 結論から言ってしまうと、今現在「Extreme Heartsは、私にとっての宝石になりつつある。

☆「Extreme Hearts」というアニメを知っているか


公式HPの画像だと何アニメかまるでわからないエクストリームハーツくん。

 
 「Extreme Hearts」
というアニメを、あなたは知っているだろうか。
 原作者としてあの「魔法少女リリカルなのはシリーズ」「DOG DAYSシリーズ」などで有名な、都築真紀氏が手がける、新作TVアニメシリーズ。

 2022年7月から、地上波にて放送、そして各種媒体でネット配信されており、全国的に一番見やすいのは、おそらくBS11にて土曜深夜25時30分から放送している枠。
 もちろんAmazonプライム会員や、AbemaTVなどでも視聴可能だ。

 ご存じないかたも多いだろうと思うので、まずは簡単に、エクストリームハーツというアニメがどういう作品なのか、ざっと説明させてほしい。


☆「Extreme Hearts」とは?

 現在よりそう遠くない未来。サポートアイテム・エクストリームギアを駆使して遊ぶホビー競技「ハイパースポーツ」が幅広い世代から支持されていた。
 そんなスポーツとは無縁だった女子高校生・葉山陽和はシンガーソングライターとして、自身のファンである小鷹咲希に支えられながらも地道に活動を続けていた。
 ある日、一定の評価を得られていないことを理由に所属事務所から契約終了を宣告されるが、同時に芸能人が参加するハイパースポーツの大会「Extreme Hearts」への参加を勧められる。
 勝利していくとステージで歌を披露する権利を得られることを知った陽和は、自身の夢を続けていくために参加を決意する。

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

 詳細は、上記ウィキペディアの引用丸写しを読んでほしい。
 必要な情報は大体これだけです。

 とはいえ、ここには時速170kmの剛速球をブッタ斬るサムライの存在や、身長195cmの承太郎と同等のフィジカルをもったスーパーバスケットガール氷柱を素足で粉砕するカラテマン(!)などに関する情報はないので、そのあたりは追々、可能なら本編を見ていただきたく思う。

 その点においては、公式HPの説明も、ウィキペディアの解説も、情報が不足していると言えるだろう。

 ちなみに私は「Extreme Heartsを見るまで「フットサルはメンバー交代の時、タイム取ったり審判が交代宣言とかをしない」ということを知らなかった。
 てっきりサッカーと同じものとばかり思っていたので、情報不足というのは怖いものだ。
 尚、この知識はエクストリームハーツではまあまあ重要な知識になる。

 「Extreme Hearts」は、

 憧れのステージに立つために、近未来スポーツで勝ち上がれ!
 ライバルチームとスポーツでガチンコ勝負!勝てばステージでアイドルライブ!

 という、どこか「ラブライブ×ウマ娘」的な、ざっくり言ってしまうと流行りの潮流をダイレクトにキャッチしたコンセプトの青春スポーツ根性(アイドル)アニメである。

 運動神経と根性に自信はあれどもスポーツ未経験なプロシンガー主人公・葉山陽和が、各分野のスポーツスペシャリスト達と出会い、障害を乗り越え、仲間となり、共に芸能人スポーツ大会優勝を目指しスポ根的に頑張っていく。
 ストーリーラインは、問題山積みの弱小チームが勝ち上がっていくアップ系の物語。

 具体的に名前を出して言ってしまうと、かの不朽の名作、「アイアンリーガー」のアイドル版のようなイメージが近いだろう。
 伝わる人には、それで大体伝わるのではないかと思う。

1993年放送。二頭身大のロボット達がアイアンリーグと呼ばれるスポーツトーナメントを繰り広げる熱血スポーツモノ。登場するロボット達が人間以上に人間味にあふれ、熱いドラマを展開する。 過去のトラウマを克服したり、己の過去に立ち向かっていく姿は、老若男女問わず幅広い年層に受け入れられ、後にOVA化やドラマCD化もされた。名作。

 
 ここまで読んで、ツッコミどころや既視感に辟易としてしまった人は、もう少しだけ待ってほしい。
 フィクションをフィクションとしてまろやかな気持ちで受け止める懐の深さを、あなたは持っているハズだ。
 どうか、かの先駆けとなった数々の名作達を受け入れたときの、あの雄大な気持ちを思い出してほしい。

☆「Extreme Hearts」のどこが魅力なの?



 群雄割拠のアイドルアニメ戦国時代が始まって久しい。
 右を見ても左を見ても女の子アニメが目に入る現在において、既存の名作、人気アイドルアニメ達の中で個性を発揮しようと思えば、半端な覚悟ではままならない。
 では「Extreme Hearts」が、なにをもって「此処に在り」と自己の存在主張を行っているのか。
 その個性として主張の強い、世界観について、まずは少し紹介しようと思う。


 「Extreme Hearts」の世界は、現代から数十年後。テクノロジーが進化した近未来が舞台となる。

 労働力として人型ロボットが存在しており、様々なカタチで人間の活動をサポートしてくれている。
 現代科学では考えられないスーパーテクノロジーで生み出されたロボット達だが、彼女らは一般人にも比較的身近なものとして受け入れられていて、作中でも、時に練習相手やチームメンバーとして活躍する。

色々と出番のあるスポーツ競技用ロボたち。他に事務用のロボットなども。アイアンリーガーと違い、人間に混ざって競技に参加する関係で、その性能は厳しく制限されている。ハイパースポーツ大会自体が、アイドルによるロボット等の工業製品のプロモーションを兼ねているという設定だ。

 
 また、人間の身体能力を強化するアイテム「エクストリームギア」の登場によって、本世界観におけるスポーツは、

 ・機械補助を受けない、従来と同様の競技として発展した「リアルスポーツ
 ・エクストリームギアによって、誰でも手軽に超人のような身体能力で運動を楽しむことができるホビー系スポーツである「ハイパースポーツ

 このふたつに分けられている。
 リアルスポーツの権威はそのままに、大衆向けのホビー系競技として発展したのが、作中におけるハイパースポーツだ。

 作中で描かれる、音楽系芸能人によるハイパースポーツ大会「エクストリームハーツ」は、各試合で別種目のハイパースポーツを行う総合競技大会として開催される。

 なので、フットサルもバスケットも野球もバドミントンもバレーもハンドボールも全部やる。

 トライアスロンとまではいかないが、ハイパースポーツの大会の中でも出場者達にとても負担の大きい大会なのだそうだ。

 練習次第では魔球が投げられ、サッカーやドッヂボールでは相手を吹き飛ばすブローアウトといったテクニックは日常茶飯事と いろいろと物騒でエクストリームなスポーツである。

 第一話の序盤で、アスリートでもない主人公が出場を表明した際に、ファンから強い反発の声があったのも当然といえよう。
 (ちなみに作中では少し頑張れば魔球が投げられるみたいに言われるが、今のところ魔球らしきものを投げたのはそれを言った本人しかいないので、普通は投げられないようだ)

魔球。

 

 そんな突飛な前提から放たれるスポ根アイドルモノがエクストリームハーツなわけなのだが、
 ずばり、エクストリームハーツの魅力は、

 ここまで色々と用意された突飛な舞台設定から放たれる、
 「あえて捻らない王道の展開」
 と、
 「一度好きなモノや夢から離れてしまった人が、第二の夢を追いかけ、再起する自分を肯定する物語」

 この二点であると思う。

 各所で披露される素敵な楽曲や、キャラクター達の可愛らしい外見、関係性の描写やスポーツ部分などももちろん魅力ではあるのだが、私にとって大きく刺さったのは、この二点だった。

 とにかくこのアニメ、良い意味でも悪い意味でも設定にリアリティがない。
 ボールを蹴れば人が吹っ飛び、バットを振れば170kmの豪速球をもホームランする非常識な女子高生がいる。
 頭数が足りない場合はロボットが穴埋めするので3人しかいないチームでも野球が成立する。でも対戦相手は普通に11人チーム。なにィ!?
 というかそもそもアイドルステージに立つためにスポーツで勝負するってどういうことなの?これって初期の仮面ライダー鎧武……?


 ……と、パッと見るだけでオイオイなんだそれは!となるツッコミ要素がたくさんあるのにも関わらず、お出しされる展開はあくまでも王道かつ、しっかりとした作劇。

 それどころか各エピソードで描かれるキャラクター達の悩みや苦しみ、そしてその解決方法も全然エキセントリックなどではなく、等身大の少女達が、挫折し、当たり前のように悩む普遍的な感情をベースに、それに各々が真摯に向き合っていくというもの。

 夢を諦めてしまった自分が、もう終わってしまった自分が、もう一度歩き出すためにはどうすれば良いのか。

 登場人物それぞれが、悩み、変化を受け入れることで先へ進んでいく物語が展開される。


 奇をてらったような展開はない。インパクトのある絵面やハッタリこそ利かせはするが、根っこにあるのはどこまで行っても王道路線。
 このテの作品でよく見る「本来でしゃばるべきでない問題に首を突っ込むヒーロー」はいないし、「挫折や苦悩に悩むヒロインが大々的に救われる」こともない。
 各人が、自分で、自分の心に決着をつけていく。


 ウソだろ……こんなわけのわからない設定で囲んでおいて、どうしてこんなにも真っ直ぐな展開を投げ込んでこられるの……?

 はじめは、ネタ的に楽しむような目線で見ていたはずだったのに。

 気が付くと、まるでグローブを構えたところにバッチリとストレートが投げ込まれてくるようなそんな素直さ、ギャップに私は釘付け、もとい・・・・・・メチャクチャにされてしまった。

 そしてその時、漫画「おおきく振りかぶって」で読んだ話を思い出した。
 (ストレートという球種は、本来放物線を描いて落下する投球にバックスピンをかけ下降しずらいよう変化をかけたボールである、という論説)


 全力で投げ込まれる「ストレート」という変化球が活きるハチャメチャな設定。
 真っ直ぐなストレートが「ただの王道」ではなくなる舞台。


 美少女達がアイドルをやるのも、スポーツをやるのも今やアニメとして当たり前のこの時代。
 更にトンデモ要素を舞台装置として詰め込んでチャンポン状態にしながら、それらはあくまで王道を通すためのオードブルという、二重の意味で贅沢なノリ。

 いつしか私はこの「Extreme Hearts」に、原石の輝きを見出してしまったのである。

自分の中の「誰も知らないんじゃないか」という声は、いつのまにか、「なんで誰も知らないんだ」というものに変わっていた。

 そして見つけてしまったのだ。
 葉山陽和という少女を。



☆キャラクター達について


 「Extreme Hearts」に登場する主要キャラクター達は、ほぼ皆、かつてなにかしらの分野で成功したり、夢を追っていたものの、
 それぞれの事情で、挫折したり、そこからやむを得ず離れざるをえなくなってしまった面々ばかりである。

 成績の低迷であったり、性差による競技シーンからの卒業であったり、あるいは家庭の事情であったりと理由は様々。
 独り悩み、燃え残ってしまった情熱を燻ぶらせて行き止まりになっている少女達。

 物語は、中学生にしてデビューを果たしたプロのシンガーソングライター、葉山陽和の歌手としての夢が潰えるところから始まります。

 ……このキャラクターにこんなにもメチャクチャにされるなんて、本当に当初は思ってもみなかった。


主人公 葉山 陽和(はやま ひより)

 主人公の葉山陽和は、幼いころから歌うことが好きで、中学3年生の時にプロシンガーとしてのデビューが決まり単身北海道から上京。
 後ろ盾のない中、毎朝の配達などのアルバイトをしながら高校生活と歌手活動を行う二足の草鞋生活を送っていたが、リリースされたシングルの売れ行きは低迷。
 歌手として結果を残すことができず、入り口に手が届いたはずであった彼女の夢は、プロダクションからの契約終了という現実に押しつぶされかけてしまう。

 歌を歌う仕事がしたいという夢を諦めたくない彼女は、藁にも縋る思いで、経験したこともないハイパースポーツの世界へ足を踏み入れるが、小さな頃から歌の技術を磨いてきた彼女にはもちろんアスリートとしての下地などない。
 そのため彼女の選択は、歌手としての自分の、数少ないファンからも否定されてしまう。

 応援してくれる家族も、支えてくれるファンもいない、葉山陽和の孤独な道のりが始まるのだが……

 この葉山陽和だが、主人公に多いエネルギッシュな光属性ポジションのタイプではない。

 儚げな、少し幸の薄そうな見た目。
 穏やかな気質で人当たりも良く、努力家で人望も厚いが、どこか目線は幸福の向こう側にある遠くの闇を見据えているような……不思議な魅力を持った人物として描かれている。
 (声を担当する声優の野口瑠璃子氏いわく、「オーディションの際には、光よりもどちらかというと闇寄りというディレクションがあった」という)

 そのあたりは第一話序盤、契約終了の知らせを受けた際の彼女の描写や、「他人からの助力を自分からは決して請わない」という何かを思いつめたようなスタイルに、ほんの少しだけ片鱗を垣間見ることができる。

 彼女は本当に夢が叶うと信じて努力しているのか?
 そもそもの話、勝手も知らないスポーツの世界に無謀にも飛び込んで、そうまでして歌を歌おうとする行動力の動機、源泉はどこからくるのか?

 何故、どうして、と視聴者が彼女に対して思ういくつかの疑問。
 「助けて」と言うことができない、どうみたって「強い女の子」ではない葉山陽和という少女の中にある「芯」の部分に関して、具体的な答えが描かれることはないまま、彼女はその直向きな姿勢でもって様々な人たちの助力を得て、大会に臨んでいく。

 葉山陽和とはどういう人物なのか。
 我々視聴者も、作中の登場人物達も、主人公・葉山陽和をシリーズを通して同じ目線で追いかけ、少しずつ理解していくのだ。


 彼女を取り巻く状況や内面の一部については、本編の端々で匂わせられると同時に、公式チャンネルで展開されるサブエピソードや、作中に登場する「葉山陽和が作詞作曲した」とされる楽曲の歌詞、本編前に彼女が投稿したブログ記事などで、断片的に触れられる。
 (これらの前日譚、後日譚サブエピソードや楽曲は公式サイトから確認、視聴することができる。このほかにも各キャラ達が投稿しているという設定のブログなど、本編と併せて見ることでコンテンツへの没入が深まること請け合いなので、気になったらチェックをオススメしたい。特にライバルチーム達のエピソードが充実しているので、テレビアニメの範囲では描き切れなかった各チームのフォローとしてもとても楽しめるだろう)

 


 この、「葉山陽和をどう追いかけるか」という視点があるかないかで、「Extreme Heartsの味は大きく変わってくるように思う。


 というのも先ほどにも書いた通り、本編内で主人公である葉山陽和という人物の精神性について主体的に描かれる機会は少ないのだ。


 第一話においても、物語を引っ張るのは葉山陽和のファンである天才サッカー少女の小鷹咲希(こだか さき)の目線であり、彼女や彼女の友人を通して、主人公の輪郭が映し出されていくという構成であるため、注意してみないとうっかり見落としてしまいがちになる。


 その辺りに気を遣って、前日譚である「Extreme Hearts S×S×S」#00「小鷹咲希×葉山陽和」を見ると、全く違った味わいになってくるハズだ。


 ええーーーーーっ!!??そういうコトーーーーーっ!???
 

 なんで!なんでこんな話を本編の外、番外編でやるんだよ!!!!



 彼女を、ただ「頑張り屋で一生懸命で健気な女の子」としてだけ見るのは、この作品を楽しむ上では少しもったいない。

 本当に面白いキャラクターなので、どうか一度、雰囲気や言葉遣いなどから受ける印象と練習に明け暮れるアグレッシブな側面、さらにひとつひとつの言葉の中に潜んでいる底の見えない何かが同居している不思議なバランスの感覚をご自身で感じてみてほしい。

 シナリオが進む過程でリリースされていく、葉山陽和が作曲した楽曲達の持つ雰囲気の変化なども含めて、変わっていく彼女の心境を辿るのが、私はとても楽しい。

 だってつまり「名もなき花(第一話で出てくる曲)」ってつまりそうっ……そういうことじゃん……ふ、ふざけやがって……!教えはどうしたんだ教えは……!!


 ……と、まあこんな調子で、私はすっかりメチャクチャにされてしまったのである。骨抜きといってくれてもいい。




 作中で仲間になるメンバーが全員、各分野における学生リアルスポーツ界のトップクラスのプレイヤー達ばかりということもあり、他チームとのスポーツ対決時において、主人公である彼女が決定的な勝因にはならない、というラインを守り続けるのも絶妙なところ。


 しっかりとチームの中心でありながら、試合中は常に地味な縁の下の力持ち的役割に徹し続けるところにも「良さ」がある。
 作中のバスケシーンには往年の名作「スラムダンク」のオマージュ部分もあり、知っている人はニヤリとできるだろう。

パスカットとリバウンドに徹する主人公


 また、若くしてデビューした元プロシンガーということもあり、歌が非常に上手い。
 (これは設定だけのことではなく、実際に演じていらっしゃる野口瑠璃子氏が本当にもうめちゃめちゃに歌が上手いため、歌唱シーンになる度に私はテンションがアガっている)

 メンバー内で唯一芸能側の人材として歌唱指導を行うパートがあり、そこでの指導も割と普通にレッスンしており、以外とこういうシーンってアイドルものでも貴重だよなーと思える瞬間があったりも。

 とはいえとはいえ、ここまで書き連ねたのは葉山陽和の魅力、その一部にすぎない。

 正直な話、この作品を見守るうちに、すっかり「葉山陽和のファン」にされてしまったことが、ここまでこのアニメを激押しする理由のひとつにもなっている。
 リアルタイムの醍醐味だ。私たち視聴者は作中のモブ達とすら同じ時間を共有し、彼女達の魅力に惹かれていく。
 

 意味は、このアニメを見てくれたかたであれば、きっとわかっていただけるだろう。
 


 まだ見ておられない諸兄には……
 ショッピングモールの催事場、小さな小さなライブステージ。
 女学生の身の丈にあった素朴な衣装での出演で、キラキラしたドレスなんてまるで遠い世界のような、
 けれど彼女達にとって大切な夢の一歩目を踏み出す瞬間までは、どうかそこまではこのお話を見届けてほしいと思う。




 書き出すと膨大な文章量になってしまうため、今回は主人公の葉山陽和に焦点を絞っているが、この他にも、

 ・初期メンバー三人のうちの一人、小鷹咲希。
 歌手、葉山陽和の本編開始前からのファンであり、ある理由で競技から離れてしまった元U-12サッカー日本代表FWというとんでもない経歴を持つ、とても可愛らしい勝気なスーパーサッカーガール。
 この子、はっきり言って本当にめちゃくちゃ可愛いんですが、昔サッカーちょっと真面目にやってました→お前まさか日本代表なんて思わんやんけ!というエクハギャップ一発目をかましてくる子でもある。
 公式からエピソード0として前日譚が公開されており、第一話の視聴後に見ると多分色々と頭がすっきりしてエクハを見やすくなるので絶対に見よう。見てください。
 歌が得意ではないという風に言っているがバリバリOPを歌っている。もちろん上手い。


 ・初期メンバー、前原純華。
 中学野球で男子に混じってピッチャーとして全国大会に出場し、優秀選手として表彰された右腕。高校進学を機に野球から離れてしまったスーパーピッチャー前原。
 コミュ強でムードメーカー、チームの大事な役割のほとんどをいつの間にかやってくれている上にそもそもこの人がいないとマトモに大会出場さえできていなかったというチーム内重要度SSRな人。
 誰でも魔球投げられるよ、とかいいつつ結局この人しか投げないのでやっぱりヤバイ人。
 カラオケ風に歌うのが上手。


 ・剣道出身、お淑やかサムライバッター橘雪乃。
 めちゃくちゃ美人で性格がいいのに、更にメジャーリーグクラスの速球も余裕でスタンドへブチ込むパワー&テクニック、そして工藤新一ばりの頻度での「ああ、それ昔習ってました」の一言でなんでも請け負うとてつもない人。
 アスリートとしてもアーティストとしても必要なものをほとんど全部自前で持っているので、あまりにも隙が無さすぎる完璧超人さん。ファンサービスも良い。
 エクストリーム野球はするがエクストリームケンドーはしない。
 でかくておおきい。
 
葉山陽和直々のスカウトによって加入する追加戦士枠だが、こう、「陽が雪を解かす」的な趣があってその……いいよね……そして華……


 ・氷柱を素足で粉砕するパワー系空手ユーチューバー中学生の小日向理瀬。追加戦士。
 明らかに作中のリアリティラインを大きく飛び越えたスペックのファイターで、カラテ家なら蹴りは得意でしょ!みたいな、意味のわからない理由でものすごくサッカーが上手。カラテ家をなんだと思ってるんだ
 更にべらぼうに力が強く、小学生の頃からリンゴは素手で握りつぶせるし垂直跳躍力は2メートルを超える。この子エクストリームギア要らないんじゃないか


 などなど、細かく書くとキリがない、それぞれ魅力濃い目でリアリティライン真上ギリギリの、しかし彼女達なりの「挫折」や「諦め」を抱えた主要キャラクター達が多数登場する。
 ライバルチームの面々も、登場頻度の割りに個性が強めで印象に残る人たちばかりなので、もしかしたらグっとくる子がいるかもしれない。

左から、カラテの小日向、野球の前原、サッカーの小鷹、剣道の橘。
いずれもとてつもないフィジカル強者たちである。

 
 夢を目指す舞台から降りてしまい、孤独を抱えた彼女達が、違う場所で、また違ったステージを目指す物語として、どうかエクストリームハーツを楽しんでもらいたい。

☆とはいえ、とっつきにくさは勿論ある


 長々と「良さ」を語ってきたが、勿論エクストリームハーツは「ウケない」要素も当たり前だがてんこ盛り。
 近未来トンデモスポーツモノというフィクション全開の設定にとって宿命である「そうはならんやろ!」という視聴者の懐の深さ次第なツッコミ部分。
 
 私がこの作品の魅力として語った、「リアルの延長線上として少し捉えにくい舞台設定からの現実的な挫折経験のシナリオ」や、
 「家族の問題は主人公達ではなく家族同士できちんと解決する展開」など、そういった点がむしろ気になって、視聴を断念してしまう人も少なくはないと思う。

 欠点がはっきりとした、合う合わないの別れる作品で、決して万人受けするものではないと、私自身視聴しているのでとてもよくわかっています。
 イマドキ、「細かいことは気にしないで楽しむ」というタイプのアニメは、どうしたって肩身が狭い部分があるので。

 ただ、そういう人たちの中にも、ほんのちょっとでもこのnoteを読んで、面白そうだな、面白いかも、と、そう思ってもらえたらいいなと考えて、今回私は色々頑張って書かせていただきました。

 デカデカと空に輝く太陽のような作品たちの影に隠れてしまいがちですが、こういうものもあるよ、やってるよと、一人でも多くの人に伝わってほしかったのですが……いかがでしたでしょうか。

☆最後に


 生きているうち、時間と共に夢や目標、環境や楽しいことはどんどん変わっていってしまうもので、
 それに取り残されたり、大好きだったものを失うことによる空虚さに苛まれて、日々をごまかして過ごしていってしまいそうになることも多い。

 ひとつの夢が終わっても人生は終わらない。
 でも冷めてしまった熱も、胸に空いた穴も埋めようがない。
 それでも終わりではない。夢の先には、別のなにかがあるかもしれない。

 代わりのものを見つけるのではなく、違うなにかのことも心から大切だと思えるように、
 そのためにもう一度、新しい一歩を踏み出す勇気のお話。
 そんなメッセージを感じる作品が、「Extreme Hearts」だと思います。




「佳作」なのか、「名作」なのか、「大作」なのか。
 それを決められるのは、作品を見た人の心だけです。
 どこにでもある石ころが宝石に変わる瞬間を目の当たりにすることができるのは、いつだって「あなた」だけが持つ特権なのです。

 はたして「Extreme Hearts」は、あなたにとって、どんな作品となるでしょうか。

 


 以上が、私がこの夏に見つけた宝石のお話です。

 たくさんの作品が放送され、皆さんがそれぞれ愛する作品にメチャクチャにされたり、ぺしゃんこになったり、お腹いっぱいになったりする中で、数多くの、最高で素敵な作品に出会っていけますように。

 
 そして願わくば「Extreme Hearts」が、その素敵な出会いのひとつに入っていますように。


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