「乙女ゲーの世界はモブに厳しい世界です」を見てほしい、という話

☆はじめに



お世話になっております。ほとんどの方が初めましてになるかと思います。

本日は表題にもあります通り、どうしても「乙女ゲーの世界はモブに厳しい世界です」という作品をいろんな人に見てもらいたくて、記事を書きました。

このまま七月になって更新されていく最新アニメ潮流の中に押し出されていくのは忍びない、もっともっといろんな人に見てみてほしい!!作画の良し悪しなんて関係なく、モブせかをまだ見ていない人に、まだあなたが見ていないアニメにこんなのがあるよ!!!まだまだ春アニメだって楽しめるんだよ!!!と伝えたい・・・・・・そんな気持ちで、筆を執りました。

「モブせか」の魅力を伝えるには自分の筆力に難もありますが、私にできることを、やれるだけやろうと思います。頑張ります。
なお、若干のネタバレを含みます。


……実はこの文を書くのにいっぱいいっぱいで、折角購入した原作の単行本をまだ読むことができていないので、以下はあくまで、アニメのみの範囲を対象としたものであることを事前にお伝えさせていただきます。

原作を読んでないのに何をやっているんだ早く読め!!!というお声もあるかと思いますが、アニメを見ただけの私がこんなにも夢中になっているので、どうかその気持ちよ誰かに伝わってくれ…!という願いの下の行動、どうかご容赦いただければ。


⭐︎どういう作品なの



元々は、「小説家になろう」で連載され、完結後に書籍化を経てアニメになった作品だそうです。
最近では、もうそんなにめずらしくないウェブ出身のコンテンツ。


ある理由でプレイしていた架空の乙女ゲームそっくりの世界に、キャストとしてクレジットされるまでもないその他大勢、モブの中のひとりとして主人公が転生してしまう、というのが本作の導入です。
それぞれのキャラクターが、ゲームシナリオ内での本来の流れを外れていく中、そもそもシナリオで描かれるべくもない「モブ」に過ぎなかった主人公は、この世界でどんな役割を担うことになっていくのか──というのが、本作の見所となっていきます。

ここだけ聞くと、似たパターンから始まる作品を何作も思い浮かべる人は多いでしょう。実際、異世界転生モノとしてのお約束に乗っかった展開は、本作にも数多いと思います。
本作が、そういったお約束を生み出した偉大な先駆者達の作品と少しカラーが異なるのは、ひとえに作劇の比重の置き方の部分になるかと思います。

私見が大いに混じる話になりますが、世に出る異世界転生アニメの多くは、結果(無双、ハーレムなど)を出力する為に設定や展開が駆使される事が多いと感じています(勿論!例外もたくさんあります!)。

本作はそれらの中でも、用意された物語内の設定、展開によってどういった結果(無双)になるかではなく、行動(無双)した結果、登場人物達にはどのような変化が生まれるのか……という点に拘って作劇が作られているのが、とてもステキな点だなぁと感じるのです。



⭐︎それはそれとして、アニメーションとしてはどうなの?



強みを活かすべく、限られた予算の使い道は極限まで尖らせられています。
作画コストの高いキャラデザながら、動画としての質よりも止め絵のクオリティ維持にリソースを割き、メインキャストの多くは、作品の規模からすればかなりコストオーバー感のある、安定感の高いベテランで固める。
主人公が搭乗するロボットすらマトモに動かすことができない限られた予算の中でのこの大胆なステータスの割り振りは、単純に話題性だけを求めたものではなく、どちらも「話は面白いのだから、見てさえ貰えればそれだけで十分勝負ができる」という明確な自信があってこその采配に感じます。

……綺麗な言い方をしましたが、ぶっちゃけていえば低予算制作故に、作画レベルは低く、画面のどこかに、常に省エネのための血の滲むような工夫が施されています。

それはキャラの場所移動をカメラの切り替えの合間に行なったり……ドアの開閉音をさせてからカメラを向けることで部屋への入室を省略したり……ロボットバトルは揺れるコクピットの裏で激しい戦闘音と声優さんの鬼気迫るボイスを流して緊迫感を演出したりなど……とにかく、限られた力の出しどころに集中させるため、あらゆる人の深い努力の爪痕が残されているのです。

副次的な効果もあり、物語に大きく揺れ動く登場人物達の心理描写と反比例するかのようにロクに動かないハイテクロボット達のコントラストは、視聴者の精神にある種の「何が来ても許せるだけの余裕」を生み出してくれますし、そして、その余裕をきちんと超えてくれるだけの楽しさを、この作品はしっかりと与えてくれるので、安心できます。

⭐︎キャラクター達について



キャラクターについても、それぞれ少しだけ言及させていただきます。

主人公であるリオンは、例に漏れず事故によって異世界転生を果たした、スローライフを夢見る所謂「転生主人公」です。故あって自分が望んでいたスローライフ計画から大きく道を外れざるを得なくなりますが、なにか行動を起こす度、紆余曲折を経て彼の境遇は彼自身の望まない方向へとどんどん傾いていき、その過程で、彼の「物語への向き合い方」もまた、彼に影響を受けた周囲の人間の存在によって、大きく様変わりしていくことになっていきます。

リオンには、転生による生来のボーナスギフトのような物はありません。ゲームシナリオに関する知識と、それを使って手に入れた、本来もっと先のイベント等で入手するはずだったアイテムやゲーム内課金要素が彼の武器(その為リオンはアイテム無双こそするものの、自分がメインキャラクター陣に劣っている事を自覚している)。

作中でのリオンの振る舞いは、裏工作をしたり、ヒール役として相手を焚き付けたりなど、所謂ダークヒーロー系俺TUEEEE!に分類されるものですが、どちらかと言えば、彼自身の素材は転生モノの主流である『強過ぎて力加減がわからずやり過ぎてしまう』タイプではなく、少し前に流行った「やれやれ系主人公」のそれに近いものです。

「どうして俺がこんな目に…」とぼやきながらも、目の前で看過されようとする理不尽に見て見ぬ振りは出来ない、自分が一番大事で捻くれてはいるがどこかお人好しという、どこか親しみ深い、昔懐かしいラノベ的造形。
そんな男が、自己の利益のため傍若無人な振る舞いをする度、結果的に望まないカタチでの昇進を果たしていく、というお話の構造は、成り上がりモノと自業自得系の要素を併せ持っていて、視聴後の気分をどちらか一方に極端に偏らせないようになっています。


また、相方であるAI、ルクシオンの存在も忘れてはなりません。
ルクシオンはリオンが冒険の末に手に入れたロストテクノロジー的AIであり、リオンの悪巧みのサポートを一手に担うスーパーマシーン。これ系の作品によくある、いわゆるチート能力の具象化的存在です。
ルクシオン本人は命令に忠実ですが、道理的にやり過ぎる傾向のあるリオンに対して、彼が逐一冷静に、指摘や反論を繰り返すことで、作中の倫理観が片一方に傾斜しすぎないよう、ここでもバランスを保っているのです。

主人公の振る舞いを単純に全肯定しない、非人型相棒キャラクターの存在は、作品内のガス抜きとして非常に上手く作用しており、このテの話に在りがちな、主人公の主張万歳!な雰囲気を緩和するように働いているのが、この作品の良い点でしょう。石田彰氏の、無感情で皮肉屋な、しかしどこか愛嬌のある演技も、とてもルクシオンにマッチしていて、今期に限って言えば1番上手く石田彰さんがハマっている役だと思います。

主人公の暴挙、活躍に対する「寒さ」。
繰り返しになってしまいますが、視聴者へ与える印象を緩和するギリギリのバランス感覚が、このお話が「しっかり作られている」と安心させてくれる部分です。



ヒロイン達にも触れます。
1人目は、本来の乙女ゲームのシナリオであればプレイヤー達に倒され失脚する悪役、アンジェリカさん。

彼女は、昨今の悪役令嬢ブームの例に漏れず「実はとても良い人」な悪役令嬢で、途中、リオンが加担することになる本作のヒロインの1人なのですが、後述する本来の主役枠のオリヴィアさんが他の女性キャラに主役の役割を奪われている関係で、アンジェリカさんは物語の中で、本来のゲームシナリオ以上の苦境に立たされることになります。
このアンジェリカさん、本当は誰よりも喧嘩っ早く、言葉より先に感情のまま暴力に訴えてしまいたくなる気質を、公爵令嬢という立場から来る自制心でなんとか抑え込んでいるきらいがある……というような理性系ゴリラ女子な彼女なのですが、そんな直情的な自分を内心では嫌悪してもいて……そういう気が強いのに内省的なヒロインが好きな人には堪らない、なにやら負けヒロイン属性の強いキャラクターとなっており、とても私の性癖には合っています。

彼女の魅力は、やはり誰よりも誇り高く、感情的な自分を押し殺してまでなにより常識的であろうとするところ。そして、そんな彼女の固い自制心を壊す、強い感情が発露されるシーンは、張り詰めた委員長系お嬢様キャラにピンと来る人なら、ステーキを頼んでちゃんと美味しいステーキが出てきたような、そんな満足感を得られるのではないでしょうか。

また、貴族としての立場を重んじ、規律と秩序を守ろうとする彼女の振る舞いをレンズにして、この物語世界の道理を視聴者が少しだけ覗くことが出来るようにもなっていたり。作中、既に深く愛した男性がおり、リオンが彼女の手助けをしても、安直なよくあるハーレム要員のようにならず、良き隣人という立場に落ち着くのも非常にポイントが高い。あと、とても大きい。


もう1人のヒロイン、オリヴィアさん。
平民出身で、本来の乙女ゲームのシナリオにおいては後に聖女として覚醒するゲーム主人公=プレイヤーの分身であるはずのオリヴィアさんですが、リオンが転生した世界では、何故か彼女が座るべきであった「ゲーム主人公のイス」に、他の女性が座っている…という状況でした。
そのために、彼女は物語開始からしばらくの間、お話には特に関係ない、まるで画面に映っているだけの賑やかし要員……モブに近いような立場で過ごすことになってしまいます。

役割を簒奪されたゲームヒロインがモブ扱いで、モブであった転生主人公がまるで主要キャストのヒーローのようになっていく……そんな正反対の関係の歪さが物語に影響を及ぼしてくるのには、TVシリーズ後半まで待たねばなりません。

オリヴィアさんは、一見するとふわふわとした印象ながら、理不尽や悪意に対してキチンと怒ることができる強い女性なのですが、貴族社会における、身分にまつわる慣例に馴染めず孤立し、平民である自分を更に過小評価する傾向が有り、打ちのめされがち。

普段の明るく可愛らしい(アザといとも言える)振る舞いからの、打ちのめされ自己嫌悪に陥っている時の落差がとても激しく、そういう「虐められ可愛い」的な曇らせが好きな層に、彼女はきっとベストマッチしているであろうというのは想像に難くないのですが、私はオリヴィアさんはやはり笑顔が1番魅力的で綺麗だと思うので、出来る限り笑っていて欲しいと思うのです。でも泣いている顔もとっても素敵なんだよな……

本作は、二大ヒロイン両方が自己嫌悪にハマる傾向にあるので、持たざる者に共感できるタイプの視聴者には、割とどちらもウケが良いのではないでしょうか。



このほかにも、リオンと同じく異世界転生を果たし、ゲーム主人公の座を簒奪しようと画策する意外と努力家なマリエや、マリエに攻略された乙女ゲーム攻略対象の愛すべきバカ王子五人組(大好き)、出番は少ないながらもコレ系の作品では存在そのものが珍しい「正しい大人」であるアンジェリカさんの父と兄、王妃様、登場の度に懲りずにアンジェリカさんにボコられるイカリングお嬢様など、ツッコミどころと愛し甲斐のあるキャラクター達がまだまだ登場するのですが……それもまだまだこの作品の魅力の一部に過ぎません。
スコップで戦うゴツい重機系ロボットのカッコよさや、リオンが相手を打ち負かしていく痛快さ、ヒロイン達の可憐さなど、この作品が持つ魅力というのは、言葉を尽くしても尽くしても、まだまだ足りないでしょう。


⭐︎でも敢えて言うなら何が魅力なの?


この作品では、立場、役割という言葉が何度も繰り返し語られます。
作中のキャラクター全てに、描かれ方に差はあれど大小様々な立場があり、役割があって、それぞれがその上でもって行動しています。

けれどそんな中でも、本来取るべき立場や役割を越えてまで通したい、気持ちというものが彼らにはあって。

「モブ」である主人公。
「主人公」ではなくなってしまったヒロイン。
「悪役」ではなくなってしまったライバル。

彼ら彼女らが、自分の役割を越えて、何を望んで、何を願いたいと思うのか。

そういった、キャラクター達の変化の描き方の中に、やはりこの作品が持つ良さ、その根っこが繋がっているのだと、私は思っています。


☆おわりに


2022年7月2日現在、本作はAmazon primeなど各種配信サービスで配信が行われ、ウェブ連載分は完結済み、原作単行本は10巻まで、コミカライズは8巻まで刊行されています。

この記事を読んでくださったかたの中で、ほんのわずかでも、モブせかの良さに触れていただけるかたがいらっしゃったら、なにより幸いです。

長文を読んでいただき、ありがとうございました。
もし次の機会がありましたら、その際は何卒よろしくお願いいたします。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?