平安時代のメンヘラメール
紫式部のことがもっと知りたい!
と思って『紫式部集』を読んでいる。
『紫式部集』は『源氏物語』作者の紫式部の詠んだ歌を集めた和歌集です。
詠まれているのは、幼少期や藤原宣孝(のぶたか)との結婚・宣孝の死や宮中の出仕など、彼女の生涯を通して詠まれた和歌130首ほどです。
https://www.iwanami.co.jp/smp/book/b245761.html
その中の一首で、おもしろい和歌があった。
文の上に、朱(しゅ)といふ物をつぶつぶとそそぎかけて「涙の色を」と書きたる人のかへりごとに
紅の 涙ぞいとど うとまるる 移る心の 色に見ゆれば
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手紙の上に朱というものをボトボトと注ぎ掛けて「涙の色を見てください」と書いて送ってきた人がいたのでその返事に
紅の涙なんてますますイヤな感じ!!紅は変わりやすい色で有名なんですよ。あなたの心もどうせ移り変わりやすいんでしょ。
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とバシッと紫式部先輩は返します!
先輩、カッコいいです😭😭😭
(注のみで現代語訳がないので私訳です)
ていうか、真っ赤な色つけて「血の涙です」っていって手紙出すのって、今のメンヘラ女子がリスカして彼氏に送りつけるのと変わらんやんけ!!
と思ってしまった。(まぁこれは男女反対だけど)
男は「あなたを思うが故に流す血の涙」に焦点を当てたけど、紫式部の歌は「染料としての紅の色の移り変わりやすさ」に焦点をすり替えるんですね!カッコいい!!
私の気を引きたい、構われたい気持ちは分かる。
でも、どうせ本気じゃないんでしょ?
冷静な紫式部の声が聞こえてくるようです…。
紫式部の知性はこんなところにも表れます。
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物の怪のついた女の後ろに、夫の元妻が鬼になったのを坊主がしばり、夫はお経を読んで物の怪を退散させようとしている絵を見て詠んだ歌。
亡き人に 託言(かごと)はかけて わづらふも
おのが心の 鬼にやはあらぬ
亡くなった元妻の恨み言にかこつけて物の怪がついたって言うけどあなたの心の中の鬼じゃないんですか??
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平安時代は怨霊が大暴れした時代です。病も、怨霊(物の怪)が取り憑いてかかると考えられていました。
しかし、紫式部は「鬼の正体は自分の心が見せている」といったのです。
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私、最近誰かに呪われているのかな?とでも思いたくなるほどうまくいかないことが続きました。
でもそんな時に彼女のこの和歌を読むと、ドキリとさせられます。
あの時悪いことしたバチが当たったのかな?そう思ったその罪悪感に、鬼はやってくるのです。
鬼退治は自分の心から。
紫式部の声は千年の時を超えて、伝えてくるようです。
サポートいただけましたら、勉強会や本の購入にあてたいと思います。よろしくお願いします。