とんだ災難
最初のワクチン接種からあっという間にもう一年が過ぎてしまって、今はあの頃とは随分と状況が変わってしまったようだけれども、はたして四度目をいつ・どこで・どれを接種するか、あるいは未だ折々にこうむるところの移動その他の不自由を許容して接種はナシにするか、一度目で心身ともに死にかけた身としては、この悩ましさは当時とちっとも変わるところがない。
思えば当時…と言ってつい去年の今頃は、ワクチンの不穏な噂はジョー・ローガンなりドクターキャンベルその他もろもろの定番どころから、けっこう早い段階からちらほらとは耳にしていて、それなりに不安が無かったといえば嘘になってしまうけれども、それ以上に当時ワクチン無しでは地元に帰れないわたくしに選択の余地は無くって、更には最初のロックダウンから宙吊りとなっていた引っ越しの問題も重なって、ええいままよ、埒があかんと苛立ちに任せ、とりあえず可能なチャンスに飛びついたのだった。
いくつか前の記事で書いたように、コロナ緊急体制として久しぶりに日本へ戻っていたわたくし、家族全員がそれぞれ自営業であるから、無数の課題と共にしばらくの助け合いはともかくとして、絶対に迷惑とリスクだけは与えてはならんとかたく決意し、今思えば信じられないほど不合理でとっ散らかった---もちろん当時も呆れを通り越してほとんど激怒していたがーーーワクチン予約でとりあえず最速のものを…というよりシステムとwebサイトの機能していたものを利用した結果、自衛隊の大規模接種会場となった。
ちなみに、このパンデミックは予想よりも大ごとになるかも知れんと、帰国前に納税も保険料も全部止めて、一度日本に住民票も移して保険証も新たに取ったからこそワクチン予約が出来たように見えるわけだが、そうでない人や外国人なんかはどうしたんだろうとちょっと心配になる。事情に素性・国籍問わずの無料ワクチンなんて日本に無かったんじゃないかと思ったりも。
で、一度・二度目は自衛隊提供のモデルナとなった。
mRNAワクチンに対する不安や疑問などは、今でこそそれなりにオープンな議論も許容されるようになってきているけれども、当時はもうほとんどファシズムーーーこれに関して日本はその特有のグレー感と冷静・達観ぶること好きが幸いして、実はかなりマシであったーーーのようで、純粋な質問をするだけでも頭にアルミホイル扱いを受けたもんであるが、その辺りの話は長い上にひどく脱線することは明らかなので、また別の回に書こうと思う。
とにかく一度目の接種を終えると、噂に聞いていたいわゆる”副反応”をめでたく経験することになり、翌日から多少の発熱が二日ほど続いて、おお、これがウワサのアレか…フフ、血がたぎってござるのよ…なんと面白がっていたのも今は平和な思い出。
やがて発熱がおさまると、あれ?なんかおかしいぞと、えもいわれぬ違和感といい不安といい、また原因のまだ不確かであるところの居心地の悪さとでもいったようなものが、こう、ちらほらと顔を覗かせ始めたような感じが1日ほど続いて、そうしてとうとう内股から下の下半身、特に左足の膝から下が顕著に麻痺してしまった。
この感覚を伝えるのが結構むつかしくッて、実際に義理もへったくれもないところに苦労をして言葉にしてみても、大抵はわたくしがまるきり勘違いをしているか嘘をついているかのように扱われて、それはもう随分と歯がゆく、かつは悔しさの極みとでも言った思いをしたもので。
まぁ簡単に言ってしまうと、長く正座をしてから立ち上がった時のあの痺れから、意地悪で突っつかれてうひゃぁとなる、あのこそばさを無くしたような状態と思って差し支えないだろう。
指で突っついてみると、なんというか、感覚がすごく遠いというか、皮膚よりもえらく離れた奥の方でかすかに感じるといったようで、かつは足首から先は完全に動かせずに、両手で足を持ってえいやっと押し込まねば靴も履けなくなった。
あとは左半身が全体的に動かし辛い感覚があって、特に脇の下から腕の内側に沿って手首までに、何かワイヤーでも通したような硬さというか張りのようなものがあって、時々ビキッとなる感覚にも悩まされ。
それに加うるに左胸のちょっと上くらい、その奥の方が頻繁に、こう、やわらかでありつつもグッと握られるような感覚が頻繁にあって、これも実に気味が悪い。
いよいよ不安が現実的になったところでも、まぁ1〜2週間ほど様子を見てみりゃ治るだろうよと楽観していたものの一向に改善せず、しかし一度目の接時に確定した二度目の接種日が迫っている上に、そもそも二度の接種でなければ渡航に色々と支障が出るとあって、なるほど思いもしなかった結構なハードルが突然に現れた、ちょっと見たところにはどうやら今こそは、我が人生をかけて嫌いに嫌ってきたところの根性論の出番ではなかろうかと奮い立って、とりあえず無理くりにでも日々の運動を再開。けれどもう全然にダメで、足を引きずりながら手も思うように振れずに、それだけでもいくらか奥歯がなくなりそうなくらいにはギリギリと悔しいところに、ほんの先日まで日課のジョギング中によくすれ違っていたところの見知った顔の人たちは、一体何ごとだとばかりに目を丸くして、なんとも惨めな思い。
とはいえ、わたくしももうかつて無いほど意固地になっていたし、それにこの感じは血流全般とあと肝臓・メタボリズム界隈がトラブルを招いているのだろうとの直感もあり、コロナ騒ぎ以来は大きく妥協していた食事内容も再びマシなものに戻し、そうして引き続き這うようにしてリハビリという名の抵抗を続けること四週間、まだまだ回復には程遠いとはいえ、全神経を歩くことだけに集中すれば、内股の動脈周りが悲鳴をあげるほどに張るまでなら、なんとかびっこを引くだけで歩けるくらいにはなってきた。
冷や汗はどうしようもないけれども。
ああ驚いた、根性論もたまには役に立つもんだと、そういえば大昔にファミコンで熱中していた男塾で、天井から落ちてくる岩を’’根性’’って持ち上げてたっけなぁ、久々の実家だし、探せばあれまだどこかにあるんじゃなかろうか、なんと思っているうちに、はや二度目の接種日に。
接種会場は一度目と同じ、梅田から歩いても近いが直通バスもあって移動の問題はない。
ただわたくし特有のバカな問題として、もう本当に、ビシッと背筋を伸ばして歩けないのが嫌でたまらない。人柄は歩く姿に出るもんだから気をつけなさいと、物心ついた時からばあちゃんと母に厳しく教わって、そんなもんは時と場合によるなんという事は百も承知だけれども、それでも数十年と守ってきた言いつけはもう血肉となってしまっているものだから、ダラダラ歩かねばならないくらいならそもそも外出を取りやめると言ったような長年の習慣といい、またある種の鉄の掟とでもいったもので、こんなバカなりに結構な苦労はある。
まぁなんにせよ、前回と同じように受付を済ませて、さて接種前の問診となった時、色々とドクターに聞きたいこともあったので、待ち時間に前もって頭の中にまとめていた事を遠慮がちに話してみるも、まるきりわたくしが思い込みか妄想の類いでも話しているかのような反応で、仕舞いには、きっとわたくしが気付かぬうちに腰の持病なり問題なりをを抱えていて、それがたまたまこのタイミングで悪化して発現してるんじゃないかと言われてしまう。
……もうほんとうに’’ハァ!?’’と思わず口から出てしまうくらいには衝撃的であったけれども、それ以上にちょっとした恐怖を覚えるというか、こう、典型的なホラープロットのアレのような、村人全員が結託して何かを隠そうとしていて、そうして本当の事を言っている主人公がまるきり狂人のように扱われ、かつやがては主人公も本当に自分の方が狂っているんじゃなかろうかと疑念と混乱に苛まれるところのアレのような。
ワクチン接種の状況についてはそれなりに日々フォローしていたし、ドクター達が示し合わせたかのようにワクチン後遺症は存在しないと完全に前提としている不可解さとちょっとしたホラー感は当時(2021夏時点でもすでにCDCやNHS絡みだけでなくどこであれ)でもよく話題にのぼっていたが、いかんせん日本での状況については全く知らなかったから、さすがにちょっと驚いてしまった。
そんなこんなで、もう何を言ったとして大した意味も気の休めもなさそうに見えたから、実はドクターのアドバイス次第では二度目の接種は保留して帰ろうと思っていたけれども、まぁなるようになれと、こんなことで死にたくはないがまた予定も未定もひっくるめて伸ばし伸ばしとなるのも同じく死ぬほど耐え難いと判断して、さっさとそれらしく問診を終えると、にこやかに二度目をうっていただいた。
ただのアホに見えるこの男が、しかし結構な決死の覚悟をもって接種を受けた事を、あのドクターは知るまい。
もうすでに半身麻痺に近いところで、さて二度目の接種後はどうなるだろうと不安に思っていたところ、例のお約束である発熱は一度目よりずっと酷く四十度ほどになったものの二日ほどでおさまり、肝心の痺れの方はというと…正直なところ悪化したのか変わりないのか判然とせず。
というのもここまでのリハビリによって多少なりとも回復していたから、そこから二度目の接種で悪化したのか、それとも単に元に戻っただけなのかは知りようがない。
と、まぁここまでがワクチン二度目までのざっくりとした顛末で。
そうしてここからは、ようやく二度の接種が終了したとあり一転して時間との闘いとなって、再びリハビリを続ける事二ヶ月弱ほどでようやくびっこ歩きの状態にまで戻り、よしこれでもう十分とフライトを手配したわけだが、これ以上続けて話すといっこう終わりどころに難儀するから、ちょっと尻切れトンボのきらいはあるけれども、今回はここいらから段々に〆切っていきたい。
そんなこんなでちょっと質問してみると、”いいから打ってけ”見たようなノリになり、さらにその場でファイザーかモデルナかを選べたので、どうしよう、モデルナで本当に死にかけて、というか今もまだ麻痺が残って走れない・信号の変わり目なんかについ習慣で急ごうとすると、あっ…しまったと、躓いたような格好になって、まったく…こんな事も出来なくなったかと悲しくなるのもまだまだ日々に直面しているところの現実であるから、どっちもどっちかも知れんがとりあえず今回はファイザーにしようとそちらを選択。
かくあって、特に事情も何も話す事なく、保険も未更新の市民IDもなしに接種完了。
まさかこんなところでよきサマリア人に助けられるとは……これもご利益かと、ちょっと感慨深い。
と、このままではまた脱線が過ぎてしまい収拾もつかないから、一度ここらで無理くりにでも終えて置こう。
三度目の正直か、ファイザー接種後に後遺症が悪化する事はなく、それどころかむしろマシになったような気さえ……こう、なんというか、壊れたテレビを叩いたら映るようになったという類の感じで説明のしようがないんだけれども、ほんとうに、すこしばかりマシになったと思う。もうわけがわからん。
さて問題は四度目で、今これを書いている時点でも、実は下半身・特に内股の妙な硬さというか違和感が結構残っている……ふむ、さてどうしたもんか知ら。
では、さようなら。
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