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虫歯は奥から2番目の歯が多い?予防歯科のこれまでとこれから

こんにちは。メドレーの取締役医師の豊田です。

2022年1月20日に弊社から歯科医療機関向けの「Dentis(デンティス)」という新しいサービスがリリースされました。
(プレスリリースはこちら

このシステムは「治療(キュア)から予防(ケア)へ」というコンセプトを掲げた歯科向けの業務支援システムで、これまでに存在する歯科向けシステムよりも、予防歯科を重視したプロダクトになっています。

ただ、多くの方が

キュアからケアへとはどういうこと?
予防歯科ってどのくらい重要なの?

と思うのではないかと思います。

Dentisがなぜ開発されたのか、またどんな世界を目指しているのか。ぜひ多くの方に知ってもらうため、歯科診療の変遷や、予防歯科について簡単にご紹介したいと思います。

なぜ虫歯は奥から2番目の歯が多いのか?かつての「Drill, Fill, Bill」の歯科治療


「歯医者には歯が痛くなったら行く」

まだまだ多くの方がそのように思っているのではないでしょうか?世界的に歯科の治療は治療から予防へとシフトしてきているわけですが、まだまだ日本ではその普及は十分とはいえません。

予防歯科と対極にある古い歯科治療の考え方は「Drill, Fill ,Bill」と言われます。これはDrill(削って)、FIll(詰めて)、Bill(請求する)という昔の削り中心の歯科治療を揶揄した言葉です。虫歯を見つけては削り、詰め物をするという治療です。

そこで虫歯が自分の歯にある方、どこの歯か鏡を見て確認してみてください・・・

後ろから二本目の奥歯(親知らずは除く)を治療していませんか?
(ちなみに私は虫歯3本すべて奥から2番目です。)

この奥から2番目の歯は、小学校に入るくらいに生えだす永久歯で「6歳臼歯」とも呼ばれます。
ここの虫歯がなぜ多いのか?そこには家庭でのケアとかつての歯科治療が関係しているようです。

小さい子供が歯磨きした後、最後に親が膝のうえで行う「仕上げ磨き」。これ、いつまでやるのが良いとされているか知ってますか?私の親に聞いたところ、「小学校に入るくらいまでやってたよ」とのことでしたが、おそらくかつては大体それくらいの時期までだったようです。

しかし、小学校低学年くらいの子供は、生えかけの奥歯までなかなか綺麗に磨くことはできません。その結果として、この歯に虫歯ができやすくなってしまうのです。(現在、調べてみると仕上げ磨きは少なくとも9歳くらいまで行うことが推奨されているようです)

さらに、ちょっとくらいの虫歯であれば、見つけたとしてもメンテナンスによる「削らない治療」が近年は一般的になってきていますが、昔は虫歯が見つかると、すぐに削って治療されてしまうことも多かったのです。

その結果として、奥から2番目の歯を治療した方が、特に30代以降の人には多くなっているというわけです。さらに、歯を削って詰め物をすることでその隙間からさらに虫歯や歯周病ができやすくなってしまうので、大きくなってから同じ歯をもう一度治療したことがある、という人も多いのではないでしょうか?

しかし、若者の虫歯はこの20年で半減しています。

例えば15-19歳で虫歯のある人の割合は、88.9%(1999年)→47.1%(2016年)と半減しているのです!

なぜこんなにも虫歯の子供が減ったのか?

これらの考えを大きく変えるきっかけとなったのが、「8020運動」です。

「8020(ハチマルニイマル)運動」とは?

これは厚生省(当時)と歯科医師会が1989年から推進を始めた「80歳になっても20本以上自分の歯を保とう」という運動です。歯が抜けてしまう、または抜かなければいけなくなる原因の多くが歯周病と虫歯ですが、これらはしっかりと歯のメンテナンスを行うことで予防できることが知られています。

この運動は着実に成果をあげ、75歳-79歳の人で20本以上自分の歯が残っている人の割合は1993年にはたった10%だったのが、2016年には56.1%と大幅に上昇しました。

フッ素入りの歯磨き粉の普及など、さまざまな要因があるわけですが、「虫歯や歯周病はきちんとケアすれば予防できる病気なんだ」ということが広く知られるようになり、日本の歯科治療は大きく変わったわけです。

また、8020運動は口の中だけの話ではありません。歯がしっかりと残っている人のほうが健康寿命が長い、認知症になりにくいなど、全身の健康状態に関係するという調査結果などが数多く出ています。今後の高齢化社会に向けても、歯・歯科医院の重要性はとても高いのです。

北欧との差は定期メンテナンス

8020運動など、予防歯科の普及に頑張ってきた日本ですが、それでも欧米諸国に比べるとまだまだその普及の可能性は残されています。たとえば「実際何本の歯が残っているか」を年代別に比べると、年齢が上がれば上がるほどその差が開いてきます。

残存歯平均の推移

(80歳の人は「20本以上残っている人」は半数以上いますが、「実際の残っている歯の平均本数」は20本を下回っている、ということです。)

この差を生み出している違いの一つが、「定期メンテナンス」という習慣です。

永久歯の抜歯原因

歯を失う理由で最も多いのは虫歯ではなく歯周病が原因です。この歯周病予防は、もちろん日々の歯ブラシやフロスといったセルフメンテナンスが重要なのは言うまでもないのですが、実はそれだけで防ぎ切るのが実は難しいのです。

歯周病は歯の表面や歯茎との間に細菌がたまり引き起こされる感染症ですが、この歯の表面や歯茎との間にいる細菌をしっかり取り除くことは、家庭のケアだけではなかなか困難です。

そこで必要なのが、「定期メンテナンス」なのです。みなさん自身、または周りの人で年に数回のメンテナンスに通っている方はどのくらいいるでしょうか?

色々調べてみると、おそらく日本で定期的にメンテナンスに通っている人は10%程度のようです。(私の周りでもそんな感じでした)

一方、スウェーデンはというと、90%の人が歯の定期メンテナンスに通っているそうなのです。スウェーデンは、例えば23歳までは歯科診療が国の補助で無料になるなど、国民全体に歯科メンテナンスという習慣が深く浸透しているのが特徴です。

なんとなく「歯の病気」というと虫歯のイメージが強いですが、実は自分の歯を維持するためには歯周病対策が重要で、それには家庭だけでなく歯科で定期的にメンテナンスをすることが重要になるということを、ぜひ知っていただけたらと思います。

インターネットサービスが歯科診療にできること

というわけで、歯科診療の変遷や、歯のメンテナンス(ホームケアと歯科医院でのメンテナンス)の重要さをお話してきました。

もしこれを読んで、「口腔ケアのグッズ(フロスなど)を見直してみよう」「定期的に歯医者さんに行って定期メンテナンスをしてみよう」と思う人が一人でもいたなら嬉しいですが、そもそもこれはDentisというサービスが開発された背景についてご紹介する記事ですので、最後にDentisが目指すものについてもお伝えしようと思います。

私としては、これからの医療(これは歯科だけでなく医療界全体として)は、「つらい」「痛い」などの症状がある人が医療機関に来るのを待つ時代から、積極的に医療側から手を差し伸べたり働きかけをしたりすることによって予防や早期治療をすることが当たり前の時代になってほしいと思っています。

この新しい文化をつくるためには、「便利であること」はもちろん、「医療機関だけでなく患者の意識を変える」ことが当然重要です。つまり「効率化」と「行動変容」なわけですが、これはインターネットサービスが最も得意とする分野だと思います。

例えば生活習慣病は、「無症状だから」「病院行くの面倒だから」という理由できちんと治療をしていない人が多くいます。オンライン診療があることで、全く通院をやめてしまうのでなく、「忙しいときはオンラインを使いながらきちんと治療を続けませんか?」と先生に提案されたら継続できる人が増えるはずです。

歯科の世界でもDentisがあることによって、これまで歯科医院からハガキで受け取っていたような定期メンテナンスのお知らせが、患者一人ひとりの状況に併せてSMSやアプリなどできちんと伝われば、そのまま予約をしようと次の行動に繋がるでしょう。

大切な歯を守ろうと一人ひとりの意識がきっと変わると思います。そういった少しの変化の積み重ねを大切にすることが、医療の課題を解決していく一番の近道です。

医科と同じように、歯科業界にはまだまだDXの余地がたくさん残されており、システムやサービスが文化づくりに貢献できるチャンスが大きいとも捉えています。

効率化だけでなく、患者と医療がもっとつながる世界のために、Dentisが大きな役割を果たしていってほしいと思っています。