サイダーハウスルール
例えば、「助けて」と本気で叫ぶとき、誰の顔を思い出すだろうか。例えば、自分の歩いている道に自信が持てなくなったとき、誰の言葉を検索するだろうか。この本を読んで、そんなことを少し考えた。
主人公ホーマーは孤児だ。引き取られることを拒否したり、拒否されたりを繰り返しているうちに、孤児院で最年長になり、「役に立つ人間」になるべく、親代わりの3人の手伝いをするようになる。孤児院の「主人」であるドクター・ラーチの手術の助手をし、子供達に本を読んで聞かせたりしながらホーマーは大人になるが、外の世界のことを何も知らない。ある日、ドクター・ラーチは手術に訪れた若いカップルの車にホーマーを乗せて、外の世界へと送り出すことを決意する。
ホーマーはあまり乗り気ではないが、孤児院を出ることを恐れてもいない。むしろ最も怯えていたのは仕掛け人であるドクター・ラーチだった。ホーマーが元気でいられるようにと「大事な保険」をかけ、去り行くホーマーを遠くから見守りながら、こっそり呟く。Please be healthy, please take care, Please be happy.
ホーマーの親代わりをしたドクター・ラーチと、共に働く二人の女性は無尽蔵に愛情を注ぐことができる素敵な才能を持つ。だから「外の世界」でいろいろな出来事に遭遇しても、ホーマーには思い出せる顔がある。彼らが教えてくれたことを思い、自分の位置を確認しながらホーマーは「役に立つ人間」として生きる方法を模索する。
この本には悲しい場面もたくさんあるけれど、やさしい場面もたくさんある。特に私が好きなのは、孤児院を「去る」子供に、みんなでお休み前に唱える「さようなら」の定型句だ。
「今日は、ホーマーがおうちをみつけました。みんなでホーマーの幸せを祈りながら、おやすみを言いましょうね。」
「おやすみ、ホーマー」