The Water method man

平穏な生活を送っていると、それを破壊するかもしれない少しの歪みに敏感になり、微かな兆しにも怯えてしまう。仕事で失敗すれば、クビになることを恐れ、恋人と喧嘩をすればそのままフラれるのではないかと心配する。世界は不安に満ちていて、ありったけの知恵で予防線をはらずにはいられない。
でも、仮に不安が現実として迫ってきても、なんとかやり過ごせるものかもしれないし、それほど不幸ではないのかもしれない。この本はそんな気分にさせてくれる。
主人公のトランパーはさえない大学院生だ。借金ばかりでお金はなく、これといった収入源もない。研究テーマはマニアックで将来性がない上に、論文が完成する見通しもない。親には勘当されているし、別れた妻との間には子供もいる。放尿のたびに激痛が走る病気も抱えているのに、トランパーはなんとなく時をやり過ごすだけで、何に対しても真摯にならない。
ただ、彼は楽しそうに生きている。
問題は次々と起こるけれど、自分で見つけた仲間や彼女と一緒に大騒ぎしながら日々刹那的に過ごす。その様子は文句ナシに面白いし、潔くてかっこよくて、読んでいるとつい彼らの世界に引き込まれ、憧れてしまう。
現実と回想が入り交じれば時系列もバラバラで、ストーリーを追うのは容易ではないし、その後のアーヴィング作品と比べるとかなり荒削りで破天荒な印象は否めないが、その分勢いがあってイキがいい小説。私はこの作品ですっかりアーヴィングにはまった。

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