見出し画像

Terra vs Maker: ステーブルコインの世界大戦

今回は僕が愛読しているニュースレター「Dirt Roads」からアルゴリズム型ステーブルコインのUSTとMakerDAOが発行する暗号資産担保型ステーブルコインのDAIの間で始まった戦争についての翻訳記事をお届けします。

白状すると僕はつい数ヶ月前までクリプトをほとんど知らなかったような新参者です。ただ、Web3という言葉が流行るにつれ、自分の中に特にDeFiに物凄く大きな興味が湧きました。

元々フィンテックが好きであったこともあり、自分が調べるならDeFiだろうなと思っていたのですが、コンポーザビリティが生み出すイノベーションの速度とその世界の複雑さにあっという間に魅了され、徐々に調べる量もかなり増えていました。

そんな中、日本ではNFTに関する詳しい記事はあれどDeFiの最新動向についてのものがないことに気が付きました。そこで自分が翻訳をすることで何かそんな現状に少しでも貢献できるのではないかと思い、今回、著者であるLuca Prosperiさんに許可をいただいて当該ニュースレターの記事を翻訳していくことになりました。

前述の通り、今回はUSTとDAIのステーブルコインの覇権争いに関する記事です。著者の意図を正確に翻訳するように心がけていますが、正しいことは保証できませんので、気になる方はこちらの原文もチェックしてください。

また、同ニュースレターのDirt RoadsはDeFiの最新動向についてかなり詳しく、かつ上級者向けに書かれています。(僕のような初心者も時間をかけて読むことでついていけます。)まだ登録していない方はぜひ登録をしてみてください。

本記事は著者の許可を得て翻訳するものです。
本記事は8,000字ほどのボリュームとなっています。
僕のTwitterでは国内外のフィンテック情報(最近はクリプト系もちょこっと)を中心に毎日発信をしています。主戦場はTwitterですので、ぜひ覗いてみてください。

1938年10月30日(日)、火星でガス爆発が起きたというニュースがアメリカに流れ、次いでニュージャージーに奇妙な隕石が落下したとのニュースが流れた。記者たちが現場に駆けつけると、金属製の円筒のネジが外れ、中から恐ろしい怪物が顔を出していた。停戦の旗を振って奇妙な存在に近づいた勇敢な警察官は地球上のものではない熱線によって残酷にも消滅させられた。その後何が起こったかは不明だが、少なくとも5台の巨大な機械がハドソン川を渡ってニューヨークに到達し、何千人もの人々が侵略されたマンハッタンから逃れようと必死になってネズミのようにイーストリバーに飛び込んだようだった。

その夜、オーソン・ウェルズが「ダントンの死」のリハーサルを終え、マーキュリー放送劇場を去った後にタイムズスクエアで見たものは銀河系を相手にする準備ができておらず、憤慨した国民であった。火星人の地球侵略が現実ではなくフィクションであろうと当時はどうでもよかった。人々を麻痺させるのは真実ではなく恐怖だったのだ。ラジオ放送を人類滅亡の年代記と皮肉な誤解をした話自体が、現実ではなくフィクションであるかどうかは、今日でも問題ではない。歴史的な結果を残すのは神話であり真実ではないからである。

——-

物語を語ることと物語を作ることの間に起こっている自己言及的な効果は歴史家にとって探求することが難しく、特に劇中で演じる同じ登場人物がそれを十分に認識していることを受け入れるときにその効果は顕著になります。私たちは自分自身に影響を与え続ける、少なくとも二次的なカオス的システムを生きているのです。それは東洋と西洋、世界とメタ世界、教会とカルト、部族と他の部族との対立です。信念は皆の血管の中に強く流れているが、信仰を維持するのは易くありません。世界大戦を始めるのは簡単ですが、それを生き抜くのは全く別の話なのです。

おい、3pool-Ers、戦利品をよこせ

4月1日、@ezaanは$USTのマルチチェーン利用を促進するためにFraxと[REDACTED] Cartelと提携するというアイデアをTerraのフォーラムに投稿しました。それはエイプリルフールのネタではなかったため、私の他の執筆計画は窓から飛んでいきました。

では具体的にそれをどのようにして実現しようとしたのでしょうか。それは新しく配備された4poolという名のCurveプールを通じてでした。この4poolは$UST, $FRAX, $USDC, $USDTで構成されています。その通り、$DAIはいません。彼らはまずFantomとArbitrumのチェーンでテストし、最終的にメインネットでアクティベートする予定です。4poolは、Terraの意図通り、Curve上の新しいベンチマーク流動性プールになり、現在イーサリアム上のTVLが$3.3Bである3pool ($DAI + $USDC + $USDT) を追い出すことになります。この動きの複雑さを理解するためにはCurveのモデルとその内容をある程度理解する必要がありますが、すでにCurve Warsについてはここ(未翻訳)で書いているので、ここでそれを繰り返すよりも現在のCurveのスナップショットを見てそれを解読しようとする方がより面白いでしょう。

上記のリストにはTVLが$1Bを超えるすべてのメインネットのCurveプールが含まれています。そこから何が分かるでしょうか?

  1. 3poolは流動性プールのビルディングブロックである
    $3.3bのTVLを持つ3poolはCurveで最大のステーブルベースのプールであり、Frax + 3pool, Terra + 3poolやMIM + 3poolなど、他のプールのベースブロックとして使用されています。。

  2. これらのプールは取引所というより駐車場に近い
    大きなステーブルプールは取引活動が比較的限定的です。
    例) 各プールのLiquidty Utilizationは3pool: 0.42%, Frax's: 0.37%, $UST: 1.90%…

  3. 3poolベースのプールは$CRVの新規発行による補助が大きい
    3poolベースのプールは$CRVの新規発行による補助を大きく受けており、長期ロックによる$CRV発行により最大10%程度まで利回りを高めることができます。FraxとTerraが$CVXの最大のプロトコル所有者であるため、新規発行$CVXを彼らのGaugeに大きく配分できる権限を持つことは驚くことではないでしょう。

  4. 市場の利回りは何かを物語っている
    Curve gameを行うステーブルコイン発行者には持続的なArb (アービトラージ?) があるようです。言い換えれば、預金者が自分のステーブルコインをCurveのプールに置くことはレンディングに比べて合理的ではないようです。

特に4の点はこの後の議論において重要です。$USTの例で見てみましょう。Terraのステーブルコインである$USTの保有者はそれをAnchorに預け、約19.5%のAPYを得るオプションを持っています。これは明らかに合理的な選択と思われ、実質的に$12.4Bがプロトコルにデポジットされています。$USTはCurveプールの50%を占め、残りの$USDC+$USDT+$DAIは約2.5%ほどの預け入れ金利をもつトークンで構成されています(ex. Aave)。したがって$USTの預金者にとってはすべての条件が同じ場合、混合利回りが11.0%より高い場合にのみプールにLP提供することが合理的であることとなります。

(ここの)プールからの利回りはそれほど高くなく10%未満です。加えて、主に$CRV建てのAPYで構成されており、それは4年ロックによってのみ達成可能です。これでは意味がありません。しかしもう一段階上のレベルに行くと状況は違ってきます。Convexを通じてCurve poolの(間接的な)預金者は約14.6%を達成することができます。(この差額分は$CVXの形で与えられます。)Convexのレベルに追加的な収益源がない場合、Convexを通じて達成可能な14.6%の金利とCurve poolからの約10%の金利の差はオッカムの剃刀を適用すればある種のレバレッジに過ぎません。約10%の利回り(Curve全体の利回り)と0.35%の利回り(Curveのベース利回り)の差については議論が分かれるところです。私は、これは多くのリスク転嫁とある種の市場の非効率性だと思います。数字が飛び交いましたが、下の図が私の言いたいことをより良く説明してくれます。

色々な数字がありますが、要約するとこんな感じです。

投資家にとって
ConvexのMeta-poolに預けることで、投資家は$LUNAのボラティリティの一部をより安定した(しかし収益性の低い)$USDC+$USDT+$DAIに分散し、代わりにCurveの基本利回りをCurveやConvexの希薄化的な発行でレバレッジをかけることで利回りを増幅させることができます。このレバレッジは$CRVと$CVXの価格により時価評価されます。これはどちらが正しいということはなく、単に投資家の好みの問題です。

$USTの発行体にとって
Terra (Anchor) は$USTの貸し出しで稼いでおり、Anchorは$USTの駐車場として機能している一方でTerraにとっては維持費が高くついています。(しかしこの4poolにより)その一部をAnchorからCurveのプールに転嫁するTerraのコストを下げています。Terraにとってはとても良い動きだと言えるでしょう。

冷戦と問題

資本コストを下げるためにCurveを狙っているのはTerraだけではありません。Do Kwonは”彼ら”が議決権の50%を支配していると公言し、この発言は$CVXのリーダーボードと一致しています。またプロトコルとして最大の$CVXホルダーはFraxです。(Frax:16.9%, Terra: 13.1%, [REDACTED]: 11.3%, Olympus: 6.7%、合わせて48%)仮に投票率が100%だとすれば報酬の排出量を増やすには十分な数字ですが、事態はもう少し複雑です。CryptoCondomは別の計算を行い、Terraが新たに結成したカルテルの議決権比率は最大13.8%であると指摘しています。戦略的な賄賂の存在はTerraがCurveエコシステムの構造的な議決権の過半数を所有していないことを確かに示唆しているかもしれません。Llama Forceによると、FraxとTerraは4月4日の投票サイクルでゲージの重みを自分たちに割り当てて3poolを飢えさせるために、Votiumを通じてそれぞれ$7.8Mと$5.1Mの賄賂を贈ったとのことです。同時にUSDC-USDTの2poolの実装の提案がCurveで投票され、Curveの流動性ビルディングブロックから$DAIを外す動きを加速させています。

注意:
これはDeFiにおける戦術的な腕前やガバナンス機構の複雑さについての投稿ではなく、部族政治や創設者の融通性についての投稿でもありません。私たちが関心を持っているのは複雑なシステムの構造的特徴、そして多様な性質の力の蓄積と解放です。最終的にはボールから目を離さず、周りの世界を黙視し、シンプルな質問に答えようとすることが報われるというのが、DRの確信です。そこで、私の質問を紹介します。

Q1. なぜTerraは4poolを提案するのか?
Q2. なぜFraxと[REDACTED]は参加するのか?
Q3. 預金者は何ができるのか?
Q4. ステーブルコインの状況にはどのような影響があるのか?

Q1:なぜTerraは4poolを提案するのか?

$USTはTerraの基軸通貨であり柱となるものです。$LUNA保有者のボラティリティ吸収役(詳細はこちら)でありエコシステム全体の中核をなします。現在$USTは完全中央集権型のweb2.5ステーブルコインの$USDT, $USDC, $BUSDに続く第4位に位置し、分散型ステーブルコインの中では$DAIと$FRAXを大きく引き離して第1位となっています。今回は実際に$USTがどの程度分散化されているかという議論は置いておきますが、それでもUSTがUSDのような世界的な基軸通貨になるには競争力が足りていません。歴史を見ると、基軸通貨としての地位は軍事的優位性によって獲得されてきましたが、Terraにはそれがないため、それを得るためにはお金を払わなければなりません。しかし経済的なインセンティブによって通貨をそのような地位に引き上げるにはコストがかかります。現在流通している170億ドル相当のUSTのうち124億ドルはAnchorに預けられており(Curveプールにはわずか7億ドル)、プロトコル/エコシステムのコストは19.5%という高額なものとなっています。DAIの15億ドルの3poolをうまく置き換えることで、Terraは年間約3億ドルの利息を節約することができます。これは賄賂のコストを正当化するには十分すぎるほどですが、トレジャリーの減少を補うだけでは十分ではありません。

長い道のりですが、Terraの方向性としては合理的です。特にこの効果によって$DAIだけでなく中央集権的なカウンターパーティー(USDT, USDC)の取引量も時間とともに吸収できるとDoが信じているのであればなおさらです。しかし、彼の限界突破のターゲットが$DAIであったことは偶然ではありません。MakerDAOのステーブルコインは分散型基軸通貨の候補の中で$USTの1番の競争相手です。

Terraは持続可能性と拡張性を重視しており、CurveハックはTerraのReasonable Strats Part 5のPoint 1に過ぎません。彼らは流動性の問題を主張していますが、私は主に負債コストの問題だと考えています。

上のグラフの注意点:
計算はキャッシュベースで、一方では$ANCのインセンティブを無視し、他方ではCurve<>Convexのエコシステムに多額の資金を固定する機会費用を無視しています。しかし、投資家が喜んでCurve gameに参加し続け$USTに保有を移すことに抵抗がないと仮定すればこの状況は大きく変わるとは思えません。USDTのサクセスストーリーは通貨保有者がガバナンスの懸念にうるさくないことを物語っています。

Q2:なぜFraxと[REDACTED]は参加するのか?

簡単なものからクリアしていきましょう。[REDACTED] Cartelがなぜこの分野で最も強力なプレーヤーでより大きなカルテルを作ることに魅力を感じたのかを説明するのは難しいことではありません。[R]はメタ・ガバナンス・プロトコルで、集中を促進するガバナンス機構によってさらに価値を引き出そうとするものです。したがって大規模なプレイヤーと提携することでその影響力を高めることができます。もしあなたが勝利の後にのみ報酬を得る傭兵であるならば強い側と提携することは理にかなっています。

一方でFraxはここで部分的にしかカバーできないより包括的な答えに値します。FRAXの発行残高28億ドルのうち、14.5%は非担保で(つまりFXSのようなプロトコルのトークンで担保されている)、残りはホワイトリスト資産で担保されています。CurveのAMO(Algoritmic Market Operations)は担保されている部分の75%に相当します。簡単に言うとAMOはFraxがペグと担保のレベルを管理するために公開市場操作を実行する場ということです。CurveベースのAMOを4プールに拡張することはFraxにとっていくつかの意味があります。①$FXS価格に建設的な影響を与える担保として使用できるCurve Warsの戦利品を増やす、②通貨を支える資産プールに$USTを入れる、③流動性を高めペグのスリッページを少なくする、 ④効果的なマーケティング、などです。私は③と④が好きですが、①の持続可能性はよくわかりませんし、②に関しては非常に不安です。私にとっては$FRAXはオーバーコラテラリゼーション、中央集権型ステーブルコインの上にアルゴリズムによるレバレッジを(少しだけ)加える美しくエレガントな方法と考えているからです。 

Q3:預金者は何ができるのか?

USTホルダーがAnchorからブースト付きCurveプールに資金を移動させることはリスクシフトに相当すると前述しました。具体的には$LUNAのロングエクスポージャーを減らし、CurveのベースAPU(0.4%)に上乗せされた(膨大な)レバレッジを優先し、$USDTと$USDCの4poolのコンポーネントにはTradFi的な担保が追加で組み込まれているということです。このようなレバレッジ利回りを市場がどのように評価しているかは$CVXの時価総額の動きから読み取ることができます。これが合理的なのか近視眼的なのかは私にはわかりませんが、USDステーブルスワップにおけるUniswap v3の拡大を見ているとこの城がどの程度持続可能なものなのかはわかりません。AnchorからCurveへの移行が成功するのはUSDTやUSDCがDAIとUSTと変わらないと考えられていることが前提であり、これが投資家にとってどれだけ良いトレードなのかはわかりません。個人的にはマーケットタイマーが苦手でレバレッジが非常に高い私には向かないトレードです。

Q4:ステーブルコインの状況にどのような影響があるのか?

MakerDAOは以前からDoのターゲットであり、その理由は上に述べたとおりです。しかし$DAIのミンターはTerraの動きに反応していません。それは@jofo_real最近の素晴らしい投稿で述べたように、$DAIはUniswap v3とPSM(Peg Stability Module -  $DAIと$USDCなどの1対1のゼロスリッページ)を通してその取引の代替可能性を維持するための貴重な(そして安い)代替手段を時間をかけて開発してきたことは議論の余地がないことでしょう。Makerと$USDCのような中央集権的なステーブルコイン発行者との間の緊密な関係(現在$DAIの背後にある約152億ドルの担保のうち約470億ドルは$USDC)は最近精査されていますが、このような流動性の場の利用が戦争中にMakerに大きな保護をもたらすことは紛れもないことです。しかしDeFiの分散型基軸通貨となるための闘いは先手必勝です。MakerとTerraは互いに異なる競争優位性を持って対峙しています。Makerにとってはじっくりとした消耗戦になるし、Terraにとってはできるだけ早く$DAIから力を抜き取り無価値な存在に追いやりたいという意図があるのでしょう。このようなレンズを通して見るとレトリックは理にかなっていると言えます。興味深いことに最終的に闘争を決定するのは、PSMの一部としてのMakerと将来的な4poolの一部としてのTerraの両方の重要な同盟国である、Circle(USDC)と呼ばれる旧式の企業かもしれません。分散化に神の祝福を。

免責事項:
私がステーブルコインジャンキーであることは周知の通りです。長い間Terraに魅了され、Anchorプロトコルに預けた$LUNAと$USTを大量に保有しています(ただしこれは変更される可能性があります。)またさらに重要なのは私はMakerDAOコミュニティのメンバーであり、Maker Lending Oversight Core Unitのファシリテーターであることです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?