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【翻訳】 ピーター・ティール - What is Money Keynote - Bitcoin Conference 2022より

今回は先日行われたBitcoin 2022のカンファレンスで行われたピーター・ティールのKeynote(プレゼン)を翻訳しました。

ピーター・ティールは決済大手のPayPalやデータ分析ソフトウェア会社のPalantirの創業者であり、Facebookへの初期投資やFounders Fundでの投資活動でも有名なテック業界の生ける伝説のような人物です。また政治活動でも存在感を持ち、右派リバタリアンとしてトランプ大統領を支持したことでも知られています。

また、
「賛成する人がほとんどいない、大切な真実はなんだろう?」
「僕たちが欲しかったのは140文字じゃない、空飛ぶクルマだ。」
「競争は敗者がするものである」
など数々の名言、スタンフォード大学での講義をまとめた書籍「ゼロ・トゥ・ワン」でも有名です。

今回翻訳をした背景は、自分がマイアミでこのKeynoteを生で見て衝撃を受けたこと、そしてこのプレゼンが「バフェットを痛烈批判した」ということくらいしか知られていないことです。

確かに今回のプレゼンはBitcoin 2022内のプレゼンであり、ビットコインについての言及がほとんどです。しかし、同カンファレンスのマイケル・セイラーとキャシー・ウッドの対談のようにビットコインの素晴らしさを声高に叫ぶだけのものではありません。

今回のプレゼンには、我々がゼロ・トゥ・ワンで感じたような意外で説得力のあるロジックと、刺激的な未来予測、遠慮のない敵対勢力への宣戦布告があります。いくらか過激すぎるような気もしますが、彼のような天才が考える未来を知っておくことには価値があります。また若者を鼓舞し発破をかけるような意図もあったかと思います。様々な点で今回のプレゼンは本当に刺激になります。

メディアに出るタイプではない彼が今回20分に渡って講演を行ったことはかなりレアな機会であると思います。文字数としては5,000字程度ですので、ぜひ最後までご覧になっていただきたいです。

翻訳については、できるだけ読みやすく、かつ彼が意図したことをできるだけトレースできるように行いました。ただ意訳であることは変わらず、細かな部分は文章が冗長にならないよう削ってあります。省略が気になる方ははYouTubeに動画がありますので、そちらをご確認ください。

意訳の際に追加した部分は()で囲み、補足事項は灰色の背景のブロックで書いてあります。

現地の反応やティール自身のニュアンスなどを感じるために実際の動画を見ながら字幕代わりに見ていただくのが良いかもしれません。

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今回のKeynoteはまず過去のピーター・ティールが未来について語っている映像から始まります。
Paypal Co-Founder Peter Thiel - Bitcoin Keynote - Bitcoin 2022 Conference

"物理的なドル"から"電子的なドルへ"、どのように変化するのでしょうか。基本的にはインターネット上で行われるでしょう。特に新興市場では携帯電話がそのプラットフォームになると思います。現在、1.5億のデスクトップベースのオンラインアカウントがあり、これは5年後までに3から3.5億まで成長すると予測されています。

しかし、携帯電話に目を向けてみると、まだ始まったばかりでありながら既に日本やフィンランドで強く浸透しています。来年には西ヨーロッパやアメリカでも同じことが起きるでしょう。

今から5年のうちにインターネット対応の携帯電話が1千万台から10億台まで成長すると予測されています。新興国や先進国の中産階級は携帯電話を持つようになるでしょうし、中国でも同じように3億台の携帯電話のほとんどがインターネットに接続されるでしょう。

彼らはインターネットを通じて銀行口座にアクセスできるようになり、銀行が政治的にコントロールされていない地域に簡単に送金が可能となり、ルーブルや人民元を持つ必要はなく、経済をドル化することが可能となります。
またこのような動きは追跡不可能であり、中国共産党(CCP) がドルを持つことが違法だと言ったとしても、携帯電話にパスワードをかけていれば、ドルを持つことを止める方法は文字通りインターネットをシャットダウンするしかありません。

これが中国やインドといった国の政府が今直面している選択なのです。インターネットを切断して携帯電話を持つことを違法にするか、過去数十年にわたって巨大な権力を保持することを可能にしてきた通貨主権を放棄するかを選ぶしかないのです。

過去の映像パートは終わり、壇上にピーター・ティールが登場します。
Paypal Co-Founder Peter Thiel - Bitcoin Keynote - Bitcoin 2022 Conference

1999年に私が言っていたことには多くの間違いがありました。しかし、あえてここでその時に考えたことを、2022年の世界にとってどのような意味があるのか考えてみたいと思います。

私がPayPalを創業した時、投資家へのピッチの最初は数百ドル札を掲げて注意を引くことから始まりました。

Paypal Co-Founder Peter Thiel - Bitcoin Keynote - Bitcoin 2022 Conference

しかし少し奇妙なのは、この紙がなんなのかということです。トイレットペーパーには向いているかもしれないですが、壁紙には使えません。ただの不換紙幣という紙切れです。お金とはとても奇妙な物です。

PayPalを始めたとき、我々はお金や決済、バンキングのことについて全くの無知でした。考え方も根本から間違っていました。我々が当時何を考えていたのかをお見せするために2つのスライドを使います。

(一つ目は)1999年2月のPayPalのシードラウンドのピッチ資料です。

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我々はU.S Treasury (恐らく財務省) をリプレイスしようと考えていました。ここで意図したのは中央銀行でしたが、U.S Treasuryと中央銀行の違いすら当時は知りませんでした。

我々はインターネット上で動く電子的なお金のクローズドループを作ろうと考えました。全く新しい形と全く新しいネットワーク効果を持つ21世紀型のお金です。

(次のスライドは2002年のPayPalのIPO時のビジネスモデルを表した図です。)

Paypal Co-Founder Peter Thiel - Bitcoin Keynote - Bitcoin 2022 Conference

ファネルのようなものになっています。お金が素早く入ったり出たりする、ただの決済システムです。

この2つのスライドを比べると、確かに実用的なビジネスになっている一方で、アンパイで物足りないものになってしまっています。

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私はこの時、お金が取りうる形態について考えるべきだったのかもしれません。

お金がとりうる形態には「High Velocity」なものがあります。これは素早く動くお金ですが、実際にはそれほど多くの実際のお金は必要ありません。実際にはAccounting Deviceのようなものがお金の代わりになります。これはさまざまな貨幣の形に通じる逆関係です。

ここで、一言で言えば素早く動くお金には実質的な量はいらない、ということだと思います。例えば電子マネーのような素早く動くお金には各アカウントのインターネット上の数字を上下させるだけ(Accounting Device) で価値の移転が可能です。
Paypal Co-Founder Peter Thiel - Bitcoin Keynote - Bitcoin 2022 Conference

1999年に我々が成し遂げようとしていたお金のクローズドループは本質的に多量のお金が必要でしたが(不明瞭)、2002年のPayPalのループは高いVelocityを持ったものになっていました。

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このアナロジーは数十年おきに中央銀行を動くような高い価値を持つ一方でVelocityが低い金塊のようなものと、年に数百兆のお金を動かす一方で、自身は多くのお金を持つ必要がないVisaとの関係に当てはめることができます。

人々がこの2つのModality (様式、様相) を混同したり、全く逆に考えてしまう理由は、まだ私たちがお金と言われると先ほど見せたような100ドル紙幣を思い浮かべてしまうからでしょう。

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現金とは実に奇妙な貨幣の形態です。中くらいのVelocityを持ち、中くらいのValueを持ちます。どちらに優れているわけでもありません。貯金箱に貯めたり、マットレスの下に隠すこともできます。レストランやクラブで使うこともできます。しかし、車や家を買うにはなかなか難しいでしょう。このように、現金は決済にも価値の貯蔵にも優れていないのです。全くの中間なのです。

お金について考えるとき、私たちは価値の貯蔵とVelocityを考える傾向がありますが、実際にはほとんどのものがこの2つの端の端にあるのです。

ここでビットコインとイーサリアムをこの図に当てはめてみましょう。

Paypal Co-Founder Peter Thiel - Bitcoin Keynote - Bitcoin 2022 Conference

ビットコインは価値の貯蔵に優れ、金の代替物です。一方でイーサリアムは、機能すると仮定すれば、高いVelicityを持つ、フリクションレスな決済システムだと捉えることができ、そうであれば巨大な本質的価値を持つものでしょう。ただ何か腑に落ちないことがあるはずです。

Paypal Co-Founder Peter Thiel - Bitcoin Keynote - Bitcoin 2022 Conference

ではどのようにしてビットコインとイーサリアムを比較すればいいのでしょうか。

Paypal Co-Founder Peter Thiel - Bitcoin Keynote - Bitcoin 2022 Conference

直近の時価総額をマッピングするとこのようになります。 ビットコインは$831B、イーサリアムは$386Bです。

ビットコインと金、イーサリアムとVisaを比較してみましょう。

Paypal Co-Founder Peter Thiel - Bitcoin Keynote - Bitcoin 2022 Conference

現在イーサリアムは大雑把にはVisaと同等に評価されており、もちろんガス代が下がり、完全にフリクションレスな決済システムを構築できれば$400Bを超えると考えられるため、これは正当だと言えるでしょう。

一方で金の時価総額は$12Tに登っており、これをビットコインがリプレイスするとすれば、問題はなぜビットコインが現在過小評価されており、評価されるには何が必要なのか、ということです。

Paypal Co-Founder Peter Thiel - Bitcoin Keynote - Bitcoin 2022 Conference

もう一歩遡り、金がなぜ$12Tの評価をされているのか、正当な評価はどれくらいなのかを考えてみましょう。

70年代を見てみましょう。金のパフォーマンスは非常に良好でした。一方で株式は退屈な投資対象であったに違いありません。

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現在に目を向けてみると状況はまるで違います。金と世界の株式を比べてみると、金は$12T、株式は$115Tの時価総額を持ち、その差はおよそ10倍です。

70年代後半から80年代前半にかけてのブルマーケットのピークを見ると、金は名目ドル換算で1オンス$850、当時、世界中の金の価値は約$2.5T、株式も$2.5Tで、その比率は1対1でした。

このことから湧き上がる疑問は、この比率を決めているのはなんなのかということです。

一つのシンプルな考え方は、70年代は現金も債券もゴミ同然でしたが特に、株式はもっとゴミだったからです。なぜなら、インフレが激しく、厳しい規制と高い税率がかけられる社会ではキャピタルゲインに対する実効税率は100%を超えていたからです。

2010年代に目を向けてみると、金のパフォーマンスは良好で、ビットコインのパフォーマンスもかなり良好でした。しかしビットコインの真の競争相手は金ではありません。イーサリアムでもありません。あれは決済システムです。実際はS&P500のようなもの、株式市場全体のものになるでしょう。

ビットコインは毎日取引され、株式が上がればビットコインも上がります。現在ビットコインはレバレッジをかけたナスダックの株式のようなものになっているのです。これはある意味では真の競争相手であると言えるのではないでしょうか。

では、世界が70年代のような世界、高いインフレ率と厳しい規制、高い税率で、現金も債券も持ちたくない、そして株式であってもそれが政府によって擬似的にもコントロールされている世界に向かっているとしても、ビットコインはこれらと同じようなことはなりません。

このようにビットコインの真のベンチマークは株式なのです。そしてここでの問題はなぜこの2つの間に差があるのか、ということです。

Paypal Co-Founder Peter Thiel - Bitcoin Keynote - Bitcoin 2022 Conference

(70年代のような世界ではビットコインが良好なアセットクラスになるとのティールの指摘を受けた聴衆の歓声に対して)もちろんそのような世界は言うほどいいものではありません。紙幣の価値は下がり、税率は上がっていくのですから。

しかし私はビットコインが100倍になる見方に楽観的です。ビットコインを持っておくことはあなたに利益をもたらすでしょう。

Paypal Co-Founder Peter Thiel - Bitcoin Keynote - Bitcoin 2022 Conference

ただ少なくともビットコインがいつ値上がりするのか、どこまで値上がりするのかを知ることは難しいですが、私はビットコインマーケットは常に最も正直かつ効率的で、いわば鉱山の中のカナリアだと考えています。ビットコインの値動きはインフレが来ていることを直近の2年で知らせてくれていたのです。

現在ビットコインは中央銀行の破綻、法定通貨社会の終焉を知らせています。ビットコインの価格はこういったことを織り込むのです。

私はパウエル氏(FRB議長)やその周辺の人々はビットコインに感謝すべきだと思います。なぜならビットコインは彼らが無視することを選び、数年後報いを受けることへの最後の警告だったからです。

議論していた問題へと戻りましょう。なぜビットコインはまだ金や株式の価値に達していないのでしょうか。そしてそうなるために何が必要なのでしょうか。

私たちがビジネスやテクノロジーについて語るとき、テクノロジーやコードの素晴らしさやいかにイノベーティブであるかを語りがちです。

しかし私は政治的な側面から考えてみても欲しいのです。なぜなら、このムーブメントが成功するか、それとも敵が我々を止めるのかは政治的な問題だからです。

ここからはビットコインを止めようとしている敵のリストを紹介します。彼らは隠していますが名無し官僚のような視点を持っています。私はこれからそれを明らかにし、ビットコインが今後10~100倍に成長するために彼らと戦わなければいけないことをお見せしましょう。

Warren Buffett
Paypal Co-Founder Peter Thiel - Bitcoin Keynote - Bitcoin 2022 Conference

敵その1、このオマハのソシオパス老人が最も明らかな敵でしょう。彼らはもちろん自分の意見を言いますが、なんらかの"機関投資家"バイアスがかかっていることも多いでしょう。彼は "Woke" 企業群と法定通貨システムを支持しています。もしあなたがファンドマネージャーであれば、投資は複雑であるふりをしたいと考えるでしょう。ビットコインを買えば良いだけだとしたらなんてバカバカしいのでしょうか。そうなればこのような資産運用会社は潰れてしまいます。金の場合も同じです。金を買えばいいのであれば誰でもできます。

今回の講演でピーター・ティールは恐らく"Woke Companies" という言葉を複数回使用しています。これは2010年代後半にアメリカで話題となった"Woke Capitalism"からの引用だと思います。これは企業が社会的要求からリベラルな立場をとるようになった事象で、良い意味もある一方でマーケティングとして使っているという皮肉の文脈でも使われるそうです。ピーター・ティールは「リベラルに目覚めたふりをしている企業たち」といった感じで皮肉に使っていると思います。間違っていたら指摘をいただけると嬉しいです。
参考: Woke Capitalism - Wikipedia

このように"機関投資家"バイアス、中道左派的なバイアスがあるのです。

JP Morgan CEO: Jamie Dimon
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もちろん"ニューヨークのバンカー"バイアスもあります。JP MorganのCEOジェイミー・ダイモンもこういった発言をしています。

Blackrock CEO: Larry Fink
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また、直接的な発言ではないですが、ブラックロックのCEOラリー・フィンクの発言も載せておきます。

こういった国民の年金を扱っているような巨大機関投資家たちはビットコインに運用資産の一部を割り当てるべきなのです。

割り当てないというのはとても大きな政治的選択であり、私たちは彼らを思い直させないといけません。

(スライドの)ラリー・フィンクの引用は反ビットコインというジャンルの代表のようなものです。文脈はあれど、プロ・ブロックチェーン(?)は反ビットコインの用語です。ブロックチェーンは好きだけどビットコインは…といっているような感じです。

Paypal Co-Founder Peter Thiel - Bitcoin Keynote - Bitcoin 2022 Conference

これらのことを組み合わせて考えると一つの言葉が浮かんできます。それはESGです。ESGはビットコインの本当の敵です。

ESGの意味はいつも不明瞭です。これをいうのは少し不謹慎かもしれませんが、ESGはヘイトと敵を生み出す工場です。彼らの好きにさせてはいけません。

あなたはこのように聞くことができます。ESGとCCP(中国共産党)の違いは何か、と。彼らの社会やガバナンス、環境への配慮はフェイクであり、他にもフェイクはたくさんあるでしょう。そのため、ESGについて考えることはCCPについて考えることと同義なのです。

ESGはこれまで、驚くほど包括的でした。しかし、数少ない認められなかったものは炭素産業の一部とビットコインです。

なぜなら他の業界の企業、特に上場している企業は基本的に政府にコントロールされているからです。私がCEOにアドバイスする際、IPOはその会社の株式に流動性を与え、創業者や早期株主がキャッシュを得ることができる一方で、基本的には政府に会社を明け渡すことと同義であり、政府官僚に大きな権力を持たせ、CFOやゼネラルカウンセル(法務責任者)、会計士、弁護士やHRなど政府の延長のような人々に権力を持たせることであると言ってきました。そしてESGはこれらの傘のような役割を持っています。

ビットコインの素晴らしい点は、これがバグか特徴かは問われるところですが、会社ではないということです。取締役会もなく、サトシ・ナカモトも誰なのか分かりません。

インフレ率が低く、規制も今ほど悪くはなかった2010年代にはビットコインは極端なことだったかもしれませんが、2020年代にとっては非常に予見的です。

Paypal Co-Founder Peter Thiel - Bitcoin Keynote - Bitcoin 2022 Conference

これを一つのフレームにまとめると、ESGといった馬鹿げた美徳 / ヘイトの工場を使って国を支配する金融界の老人たちと革命的な若者運動の戦いなのです。

このカンファレンスを出て、世界をとりましょう。


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