見出し画像

【ジャンル解説】教養としてのヘヴィメタル

前書き

ヘヴィメタルには多種多様なサブジャンルがありますが、当然それら全てが同時に生まれたわけではありません。何世代にもわたってヘヴィメタルが受け継がれ、他ジャンルの音楽や社会情勢などにも影響されながら、様々なジャンルに枝分かれしてきた歴史があります。

音楽を楽しむのにジャンル分けは不要だ!という方もいるかもしれませんが、ジャンルの歴史や成り立ちを知っていると、曲を聴いたときの解像度が上がります。知識があることで曲の細かなエッセンスを感じられるようになるわけです。

この記事では、ヘヴィメタルの歴史に沿って、各ジャンルの成り立ちや特徴を解説しています。後半では、ヘヴィメタルと密接に関係する音楽ジャンルである、パンクロックの系譜のジャンルを取り上げています。

なお、ジャンルの解説はあくまで筆者個人の見解に基づくものになります。記事の内容に対する異論・反論・訂正など大歓迎です。

それでは広大なヘヴィメタルの世界に足を踏み入れていきましょう!



HR/HM

もともとはハードロック・ヘヴィメタルの略記であるが、現在この呼称を用いる場合、1970年代の原初のヘヴィメタルの特徴が色濃いサウンドを指すことが多い。特に、1990年代のニューメタル誕生以前のヘヴィメタルを指すことが多い。

特徴は主に以下の2つ

  • 強く歪ませたギター

    • エレキギターという楽器は、アンプへの入力を過大にすることで、アコースティックギターの音とは全く異なる歪んだ音を出すことができる。ヘヴィメタルの楽曲では、一般的に歪みが強くかかったギターサウンドが用いられる。

  • パワーコードとブリッジミュートの多用

    • パワーコードとは、3つの音から成る通常のコードから音を一つ減らすことで、シンプルで力強い響きが得られるコードである。

    • ブリッジミュートとはギターの演奏法の一つで、右手を弦に軽く乗せて弾くことで、通常よりも低くキレのあるズンズンした音を出すことができる。

文字で説明されてもわからないという方は、以下の動画で実際にサウンドを聴いてみてほしい

これらの特徴はモダンなメタルにも受け継がれており、メタルをメタルたらしめる重要な要素である。

ただしHR/HMのサウンドは、モダンなメタルに比べるとビートや曲の構成が格段にシンプルである。ロックに由来するシンプルなビートに、歪みやブリッジミュートで重厚さを増したギターのリフ(繰り返されるフレーズ)を合わせたのが、ヘヴィメタルの始まりであった。


具体例

Black Sabbath - Paranoid

1968年にイギリスで結成。「ヘヴィメタルの始祖は誰か?」という問いへの解の一つは、Black Sabbathである。パワーコードのリフを主体としたサウンドは、ヘヴィメタルだけでなく、ハードコアパンクやグランジにまで影響を与えた。曲全体に漂うダークな雰囲気は、デスメタルやブラックメタルにも受け継がれている。

AC/DC - Highway to Hell

1973年にオーストラリアで結成。シンプルなリフとビートを主体とした無骨なスタイルを、結成当初から一切変えることなく貫き続けているバンドである。基本的にミドルテンポでゆったりと進行する曲が多く、リフと独特なボーカルが絡み合って強烈な中毒性を生んでいる。


NWOBHM

New Wave of British Heavy Metalの略記である。

1970年代にHR/HMが誕生し発展していったが、70年代後半にはパンクロックが生まれ、一大ムーヴメントとなった。そのため80年代に入ると、HR/HMの重厚さを受け継ぎつつパンクから影響を受けた新しいサウンドが、主にイギリスとアメリカを中心に生まれ始める。

(※パンクがどのような音楽かわからない人には、先にパンクの項目を読むことをおすすめする)

イギリスにおけるそのようなムーヴメントについた呼称がNWOBHMである。HR/HMと同様にパワーコードによるリフを主体としつつ、より硬質でキレのあるサウンドが特徴である。

「正統派メタル」という表現が用いられる場合、NWOBHMのサウンドを指すことが多い。速いテンポ、硬質な音、メロディックなギターソロなどのメタルの楽曲の典型的なイメージは、NWOBHMによって確立されたところが大きい。

具体例

Iron Maiden - Aces High

1975年にイギリスで結成。NWOBHMのムーヴメントを代表するバンドである。メロディックに走るギターフレーズは、後のパワーメタルやメロディックデスメタルに大きな影響を与えた。パンクの荒々しさと、メタルらしいハイトーンボイスが融合したボーカルワークも印象的だ。

Saxon - Heavy Metal Thunder

1977年にイギリスで結成。Iron Maidenと並んでNWOBHMの代表格である。エッジの際立つ金属的なギターリフは、まさしく"ヘヴィメタル"の名にふさわしいサウンドだ。


スラッシュメタル

パンクの影響を受けてイギリスでNWOBHMが興ったのに対し、80年代のアメリカで生まれたのがスラッシュメタルである。

パンクの荒々しさを取り入れ、ザクザクとしたギターリフを用いた非常に高速で攻撃的なサウンドが特徴である。

メロディにあまり重点を置かずとにかく高速で突っ走るスタイルは、後のデスメタルの原点となった。高らかに歌い上げるのではなく、ダミ声でわめき立てるようなボーカルの歌唱法は、スクリーム(いわゆるデスボイス)へと進化していく。

具体例

Slayer - Show No Mercy

1981年にカリフォルニアで結成。高速で凶悪なサウンドは、メタルの楽曲のスピードと攻撃性のレベルを大きく引き上げた。過激さの追求はヘヴィメタルの表現における普遍的なテーマであるが、Slayerは間違いなくその先駆者の1人である。

Metallica - Master of Puppets

1981年にカリフォルニアで結成。Slayer、Megadeth、AnthraxらとともにスラッシュメタルBIG4とされるが、Metallicaのサウンドはアルバムごとに変化が大きく、典型的なスラッシュメタルにとどまらない。"Master Of Puppets"はメタルギターの練習曲としても名高い名曲だが、長大な曲構成や意味深な歌詞など、スラッシュメタルらしからぬ要素も多分に含んでいる。


グラムメタル

80年代に世界的にブームとなったジャンル。メタルの歴史の中で、商業的に最も成功したジャンルである。ロサンゼルス出身のバンドが多かったため、LAメタルと呼ばれることもある。

グラムメタルは、バンドのヴィジュアルに大きな特徴がある。光沢のある衣装をまといアクセサリーを大量に身につけ、長い金髪をスプレーで膨らませるなど派手できらびやかな装飾が一般に用いられる。特にヘアスタイルが印象的であるため、ヘアメタルと呼ばれることもある。

サウンドはパワーコードのリフを多用しつつ、楽曲の雰囲気は底抜けに明るく、ギターソロのメロディもポップで華々しい。ボーカルは力強いハイトーンボイスで歌い上げるスタイルが多い。バンドによってはキーボードによるキラキラしたサウンドを用いる。

キャッチーで耳に残りやすいため、グラムメタルの楽曲は誰もが知っているような有名なものも多い。

具体例

Bon Jovi - Livin' On A Prayer

1983年にニュージャージーで結成。グラムメタルの隆盛を象徴するバンドであり、日本でも高い人気を誇る。キャッチーな歌メロとリズムが心地よい"Livin' On A Prayer"は、メタル界にとどまらずクラブなどでも流れる名曲だ。

Guns N' Roses - Welcome to the Jungle

1985年にカリフォルニア・ロサンゼルスで結成。パワフルにかき鳴らされるリフは、ハードロックの正統進化形と言える。メンバーの服装やラフさの混じるボーカルワークには、パンクからの影響も色濃く感じられる。


デスメタル

80年代の半ばのアメリカで、スラッシュメタルから派生したジャンル。

スラッシュメタルのスピード感と攻撃性を激化させ、死や殺人などネガティヴなものをテーマとした重苦しく暗いサウンドが特徴である。

曲展開は不規則でわかりやすいサビはなく、曲のテンポも一定でないことが多い。

ギターはダウンチューニング(通常よりも低い音が出るチューニング)を施して低音のリフを高速で刻み、わかりやすいメロディを用いることは少ない。ボーカルはグロウルと呼ばれる低音のスクリームを用い、歌のメロディは全くなく歌詞もほとんど聴き取ることはできない。

ドラムはブラストビートを多用する。ブラストビートとは、高速でシンバル、スネアドラム、バスドラムを連打し、マシンガンのような激烈なビートを生み出す演奏法である。


具体例

Cannibal Corpse - Hammer Smashed Face

1988年にニューヨークで結成。エクストリームな曲展開、非人間的なボーカル、グロテスクなCDジャケットなど、初期から一貫して純度の高いデスメタルを奏でている。どのアルバムのどの曲から聴き始めても、間違いなく"デスメタル"を感じさせてくれるバンドだ。

Dismember - Pieces

1988年にスウェーデンのストックホルムで結成。スウェーデンにおける、メロディックデスメタル登場以前のデスメタルの先駆者である。中期以降はメロデスへの接近も見られ、デスメタルとメロデスのつながりを考える上でも重要なバンドである。


メロディックデスメタル

アメリカで生まれたデスメタルを基盤として、1990年代に北欧で生まれたジャンルである。日本では一般に「メロデス」と略される。

ダウンチューニングのギター、ブラストビートを用いた高速の曲展開、ボーカルのグロウルといったデスメタルの特徴を受け継ぎつつ、NWOBHMに由来する流麗なギターメロディを使用する。

感情を揺さぶるようなエモーショナルなギターメロディの美しさを際立たせるために、デスメタルの攻撃性・凶暴性からは逸脱したサウンドになっていることも多い。バンドによっては、キーボードを用いて華やかさや壮大さを演出する。

北欧はメロデス発祥の地として知られており、とりわけスウェーデンのヨーテボリは、早い時期から数多くのメロデスバンドが生まれた都市として名高い。

メロデスの中で、スラッシュメタル的なスピード感とキレを持ったサウンドに対しては、"デスラッシュ"という呼称が用いられることもある。


具体例

At the Gates - Blinded by Fear

1990年にスウェーデンのヨーテボリで結成。4thアルバム"Slaughter of the Soul"でメロディックデスメタルのサウンドを世界に提示し、その地位を不動のものにした。デスメタルのドロドロ感を受け継ぎながら抜群のメロディセンスで疾走するサウンドには、新たなジャンルが生まれんとする瞬間の混沌が詰まっている。

Thousand Eyes - One Thousand Eyes

2012年に日本で結成。スラッシュやグルーヴメタルも消化したリフの数々は、北欧メロデスの模倣の域を軽々と飛び越え、メロディックデスメタルの限界を大きく更新した。"One Thousand Eyes"のラストで絡み合うツインギターソロは必聴。Aメロ、Bメロ、サビという曲展開を忠実に守っていることも、聴きやすさに貢献している。


ブラックメタル

80年代後半に、スラッシュメタルやデスメタルを基盤として主に北欧で生まれたジャンル。

デスメタルと同様にブラストビートを多用するが、ボーカルは低音のグロウルだけでなく金切り声のような高音の絶叫も用いる。ギターもキンキンした高音を強調し、トレモロと呼ばれる単一の音を連続で鳴らす奏法を多用する。キーボードを用いて荘厳で宗教的な雰囲気を演出することもある。

デスメタルのサウンドが暗く陰鬱な雰囲気であるのに対し、ブラックメタルはゾッとするような寒々とした雰囲気を持っている。

ブラックメタルはアンチキリスト主義やサタニズムなどと結びつきやすく、ライブやCDのアートワークには悪魔崇拝的な装飾がよく用いられる。ライブでは、死体や悪魔の表現として、コープス・ペイントと呼ばれる白黒のメイクを顔に施すバンドが多い。90年代のノルウェーでは、教会放火や殺人など、法や倫理を完全に無視した過激な行動を起こすバンドもいた。


具体例

Mayhem - Freezing Moon

1984年にノルウェーで結成。ノルウェーはブラックメタルの名産地として名高いが、Mayhemはその先駆者の一人である。ボーカリストが拳銃自殺、さらにはバンドの中心メンバーが殺害されるなど、当時のブラックメタルシーンの過激さを象徴するエピソードを持つことでも知られる。

Emperor - I am the Black Wizards

1991年にノルウェーで結成。キーボードを大胆に使用することでサウンドに壮大さを持たせる、いわゆる「シンフォニックブラックメタル」の先駆者である。メンバーによる「ブラックメタルは音楽のスタイルではなくアティテュードである」という発言は、ブラックメタルにおいて時に音楽性よりも精神性が重視されることを示唆している。


パワーメタル

80年代半ばのヨーロッパで、NWOBHMから派生したジャンル。

NWOBHMはパンク由来の荒々しさを持っていたが、パワーメタルでは荒さは抑えられメロディの流麗さが強化されている。

ギターもボーカルも流れるような美しいメロディを用い、スケールの大きな力強いサウンドが特徴である。キーボードを用いることも多い。

日本では、パワーメタルとほぼ同義の言葉として、「メロディックスピードメタル」や「メロディックパワーメタル」といった呼称が用いられることも多い。一般に「メロスピ」、「メロパワ」などと略される。


具体例

Helloween - I Want Out

1984年にドイツで結成。スラッシュメタルやNWOBHMのスピード感を受け継ぎつつ、メロディアスなギターが印象的なサウンドで、パワーメタルというジャンルを確立した。ボーカルの突き抜けるようなハイトーンボイスも圧巻だ。

DragonForce - Heroes of Our Time

1999年にイギリスで結成。音がぎっしり詰め込まれた超高速フレーズは強烈な個性を放っており、「メタル=高速」というイメージを象徴するバンドである。ギターソロではボーカルをほったらかしにして弾きまくり、曲中に何度かソロがあることも多い。このMVは短縮版なので、ぜひともフルサイズで聴いてみてほしい。


プログレッシヴメタル

プログレッシヴロックのスタイルをメタルに持ち込んで、80年代半ばに生まれたジャンルである。日本では一般に「プログレ」「プログレメタル」と略される。

プログレッシヴロックとは、高度な演奏技術を用いてロックの曲展開を複雑化させたジャンルである。

曲が長い、変則的なリズムや曲展開を用いる、シンセサイザーを多用するなどのプログレッシヴロックの特徴と、メタルの特徴である重厚なギターサウンド、ギターソロを融合させたのがプログレッシヴメタルである。

プログレッシヴメタルに分類されないバンドでも、曲の中で部分的にプログレ的な展開を用いることがある。

バンドの紹介やディスクレビューなどで「プログレ」という言葉が出てきたら、とりあえず「演奏が上手くて変則的なことをやるんだな」と思えば良い。


具体例

Dream Theater - Pull Me Under

1985年にマサチューセッツで結成。高い演奏技術に裏打ちされた長大な楽曲の数々で、メタルにおける「プログレッシヴ」を定義づけた。日本でも高い人気を誇るバンドである。このMVも短縮版なので、ぜひフルサイズで聴いてみてほしい。

Protest the Hero - Bloodmeat

1999年にカナダで結成。メタルコアなどモダンなメタルも取り入れながら、目まぐるしく展開するカオティックなサウンドで個性を確立している。とりわけハイトーンボイスから低域のスクリームまで使い分ける、ボーカルワークの多彩さが印象的だ。


グルーヴメタル

スラッシュメタルの影響を受けて、90年代のアメリカで生まれたジャンル。

「グルーヴ」という言葉は様々な場面で用いられるが、メタルにおいては概ね「ノリやすいリズム」のことだと思って良い。

スラッシュメタルのザクザクとしたギターサウンドを受け継ぎつつ、テンポを落としてタメをつくることによる、うねるようなグルーヴを持ったサウンドが特徴である。ボーカルはメロディ感が薄い吐き捨てるような歌い方をするが、デスメタルのように明確なスクリームを用いることは少ない。


具体例

Pantera - Cowboys From Hell

1981年にテキサスで結成。初期はグラムメタル的なサウンドだったが、5thアルバムからスラッシュメタルを独自に発展させた路線に転換し、グルーヴメタルという新たなサウンドでメタルシーンに衝撃をもたらした。重たく鋭いギターサウンドや激しいライブパフォーマンスは、メタルの「ヘヴィネス」のレベルを大きく引き上げた。

Machine Head - Davidian

1991年にカリフォルニアで結成。グルーヴメタルを代表するバンドの一つである。シンプルなリフやノイジーなギターフレーズは、後のニューメタルにつながっている。


インダストリアルメタル

1990年前後に、インダストリアルミュージックにエレキギターのサウンドを持ち込むことで生まれたジャンル。

インダストリアルミュージックとは、シンセサイザーやサンプラーを用いた電子音楽の一種であり、工業的な機械音をイメージしたサウンドが特徴である。楽器の音ではない雑音を用いることもあり、騒々しく機械的な雰囲気を持っている。

インダストリアルメタルにおいては、ガサついた重たいギターサウンドと不穏な電子音が用いられる。ボーカルは、メロディ感の薄いラフな歌い方であることが多い。曲が複雑に展開することはほとんどなく、同じフレーズの繰り返しが楽曲のメインとなる。

インダストリアルミュージックは、既存のロックへの反発や産業社会への批判を精神性として持っていた。そのためインダストリアルメタルにおいても、精神的・社会的なメッセージを含んだネガティヴな雰囲気の楽曲が多い。

具体例

Nine Inch Nails - Wish 

1988年にオハイオで結成。怪しげな電子音と金属的なギターによって、インダストリアルメタルのサウンドを確立した。メンバーの精神状態の不安定が反映された世界観も大きな特徴であり、数年遅れて登場するKoЯnなどにも通ずるものがある。

Rammstein - Du Hast

1994年にドイツで結成。カルト的な怪しさをを持ったサウンドが特徴で、ヨーロッパでは高い人気を誇る。ドイツ語で低く歌い上げるボーカルも印象的だ。火薬を大胆に使用したド派手なライブパフォーマンスでも有名なバンドである。


ニューメタル

90年半ばにアメリカで生まれたジャンル。

ヒップホップの特徴を取り入れ、低音を強調したシンプルでノリやすいギターリフを用いる。バンドメンバーにDJがいたり、ボーカルがラップ的な歌い回しをすることも多い。ノリやすいという点ではグルーヴメタルと似ているが、グルーヴメタルのようなスラッシュメタル由来のザクザクしたリフではなく、極端にシンプルなパワーコードのリフが用いられる。ギターソロがないことも多い。

奇抜で狂気的な雰囲気を演出するバンドが多く、不協和音やノイズを曲中で用いる。ボーカルの歌い方やスクリームが個性的であることが多い。

ギターを低くかまえ、ストリート系のファッションを好むなど、サウンド以外の面でも従来のメタルとは異なる点が多い。メタルの歴史の中で、ニューメタルの誕生は大きな転換点の一つである。


具体例

KoЯn - Blind

1992年にカリフォルニアで結成。ニューメタルという呼称は、KoЯnのサウンドを形容するために生み出されたと言っても過言ではない。そのあまりに個性的なサウンドは無数のフォロワーを生んだが、誰一人としてオリジナルを超えることはなかった。先駆者でありながら今なお活発にアルバムリリースを続けている、類稀な創作意欲を持ったバンドでもある。

Slipknot - Liberate

1995年にアイオワで結成。デスメタル、インダストリアルメタル、ヒップホップなどを奇跡的なバランスで混ぜ合わせた狂気に満ちたサウンドは、世界を震わせ、多くの人間をメタルの世界に引きずり込んだ。9人という特殊な編成、グロテスクなマスクに作業服姿、ドラム缶をぶっ叩くライブパフォーマンスなど、サウンド以外の面でもインパクト抜群の「猟奇趣味的激烈音楽集団」である。


オルタナティヴメタル

80年代に圧倒的な人気を博したグラムメタルに代わって、90年代に生まれたジャンル。

グラムメタルにおいてメタルの楽曲構成が様式化して似たような楽曲ばかりになっていたことに反発し、ギターソロなどの従来のメタルにおいて必須とされてきた要素を重視しないことが特徴である。

ゆえにオルタナティヴメタルに分類されるバンドには共通の特徴を見出すことが難しく、様々なジャンルから影響を受けた90年代のバンドたちをひっくるめた、やや大雑把な呼称としてオルタナティヴメタルという言葉は用いられる。ニューメタルやグランジなどもオルタナティヴメタルの一部として語られることがある。

日本ではオルタナティヴメタルという言葉はあまり用いられず、代わりにモダン・ヘヴィネスやラウドロックという呼称が生まれた。

人によっては、さらに広く2000年代以降のメタルコアなども含めて、オルタナティヴメタルやラウドロックという言葉を用いる。細かなジャンルを意識せずに使える便利な言葉であるが、それゆえにどんな音楽を指しているのか注意が必要である。このような曖昧な言葉が用いられるようになったことは、90年代にジャンルの融合が進んでメタルのサウンドの幅が大きく広がったことの表れでもある。

また、たとえばゴリゴリのデスメタルをやっていたバンドがクリーンボーカル(デスボイスでない声、要するに普通に歌うこと)を用いるなどして聴きやすいサウンドにシフトしたりすると、「オルタナ化した」などと表現されることがある。

ディスクレビューなどで「オルタナティヴメタル」や「オルタナ」という言葉が出たら、「メタル慣れしてなくても聴きやすいサウンドなんだな」と思えば良い。


具体例

Rage Against The Machine - Killing In the Name

1991年にカリフォルニアで結成。独特なリズムに乗るキャッチーなリフと、強い政治的メッセージを含んだ歌詞が印象的だ。型にとらわれない、斬新なエレキギターの演奏法を多数生み出したことでも知られる。

Red Hot Chili Peppers - Around The World

1983年にカリフォルニアで結成。ファンクやヒップホップを巧みに取り入れた、独特なグルーヴを持ったサウンドが特徴である。特にベースラインのオリジナリティの高さが有名で、ベーシストからの支持が厚いバンドだ。


メタルコア

2000年代初頭にアメリカで生まれたジャンル。

ジャンル名の通り、メタルとハードコアパンクが融合したサウンドが特徴である。

メタル側からはメロデスの影響を強く受けており、メロディアスなギターリフやブラストビートを用いる。

ハードコアパンク的な特徴としては、曲中にモッシュパートがあることが挙げられる。モッシュとはハードコアパンクのライブの楽しみ方の一つで、楽曲にノリながらオーディエンス同士が激しく体をぶつけ合うものである。メタルコアの楽曲では部分的にハードコア的なノリが用いられ、ライブではモッシュが起こることが多い。メタルのライブと聞くとすぐにモッシュをイメージする人もいるが、本来はハードコアパンクの文化であり、クラシカルなメタルのライブではモッシュは起こらない。

ハードコアパンクのライブの様子


メタルコアで用いられるモッシュパートの最たるものとして、ブレイクダウンと呼ばれるパートがある。これは楽曲のテンポを落とし、ギターの6弦開放(つまりギターが出せる一番低い音)とバスドラムをユニゾンさせて刻むことにより、ズンズンと低音が響く分厚いグルーヴを作り出す手法である。主にメロデス的な疾走パートのあとに用いられ、楽曲に緩急をつける効果を生む。ライブでは、ブレイクダウンに合わせてオーディエンスが激しく暴れ回ることが多い。

ブレイクダウンの例
Parkway Drive - Boneyards
0:25~ 一回目のブレイクダウン。直前までのブラストビートでの疾走との緩急を感じてほしい
2:50 ~ 二回目。事前にある程度テンポを落としてタメを作り、そこから一度音を止めてドンと落とす非常に露骨でわかりやすいブレイクダウン。

メタルコアとメロデスのサウンドはよく似ているが、ブレイクダウンが入るか否かが両者の最大の違いである。

またメタルコアのボーカルが用いるスクリームは、ドロドロしたデスメタリックなものよりも、感情のこもったハードコアパンク的なものであることが多い。

メタルの要素とハードコアの要素をどれくらいの比率で用いるかはバンドによって様々である。ハードコアの要素のほうが強い場合には、メタリックハードコアという呼称も用いられる。

また、メタルコア独自の要素としてしばしばクリーンボーカルが用いられることが挙げられる。メロディックなギターリフとスクリームで突っ走り、キャッチャーなクリーンボーカルによるわかりやすいサビがあり、ブレイクダウンで落とすというのがメタルコアの一つの型である。

ただし、ここまで書いてきたメタルコアの定義はメタル+ハードコアという原義に忠実なものである。現在ではメタルコアという言葉はより広義に用いられることがあり、「ボーカルがスクリームするモダンな音楽」くらいの大雑把な意味合いでメタルコアという言葉を使う人もいる。とりわけ、後述するポストハードコアとメタルコアの区別は、近年非常に曖昧になっている。


具体例

As I Lay Dying - Parallels

2000年にカリフォルニアで結成。メロデス由来のリフとハードコアを組み合わせたサウンドで、メタルコアというジャンルを確立した。楽曲を彩るリフのクオリティは圧倒的で、今なお多くのメタルコアバンドからお手本とされる存在である。

Sable Hills - Embers

2015年に日本で結成。メタルらしいソリッドなギターリフを主軸としつつ、モダンな要素を絶妙なバランスで取り入れたサウンドが特徴で、幅広い年代から支持されている。2021年には、世界最大のメタルフェスであるWacken Open Airのコンテストで、日本勢初となる優勝を勝ち取った。


デスコア

2000年代中頃にアメリカで生まれたジャンル。

メタルコアがメロデス+ハードコアだったのに対し、オールドスクールなデスメタルにハードコアのノリを持ち込んだのがデスコアである。

デスメタルと同様に、ブラストビートや高速で重たいギターリフを用いる。ギターにはデスメタルよりもさらに極端なダウンチューニングが施される。

デスメタルとの違いとして、ブレイクダウンを頻繁に用いる。メタルコアでは一曲の中で大きなブレイクダウンを何度も用いることは少ないが、デスコアでは露骨なブレイクダウンを二度三度と用いることがある。

デスメタル以上に曲展開が不規則であり、突発的な爆走とテンポをぐっと落としたブレイクダウンを繰り返す緩急の激しい曲が多い。


具体例

Suicide Silence - Unanswered

2002年、カリフォルニアで結成。デスコアの隆盛を象徴するバンドの一つである。高音の絶叫と獰猛な低音を使い分ける極端なボーカルスタイルは、デスコアにおける一つの型となっている。

Whitechapel - This is Exile

2006年、テネシーで結成。トリプルギターが重なるサウンドは重厚で暴力的だが、曲展開には緻密さも感じられる。低く早口でまくし立てるボーカルワークは、人間離れしたボーカリストが多いデスコア界でも異彩を放っている。


ニューメタルコア

2010年頃に生まれたジャンル。

名前の通り、メタルコアのブレイクダウンを活かしてニューメタルをアップデートさせたサウンドが特徴。メタルコアのブレイクダウンをより重く、よりシンプルにすることで、強烈な縦ノリを生む。

重低音を強調したサウンドであることが多く、ギターは極端なダウンチューニングを施すのが一般的。効果音のような派手な電子音も頻繁に用いられる。ボーカルはデスコア的な獰猛なスクリームをすることが多い。

ストリート風の服装やギターを低く構えるなど、サウンド以外の面でもニューメタルからの影響が色濃いバンドが多い。


具体例

Alpha Wolf - Akudama

2013年、オーストラリアで結成。バグったかのようなノイジーな高音フレーズを随所に入れこみ、カオスでありながらノリやすい強靭なサウンドが特徴。"A・KU・DA・MA !!" のボーカルフレーズのインパクトは絶大だ。

Paledusk - PALE HORSE

2014年に日本で結成。電子音と低音のリフがうねるサウンドで支持を集め、海外の大型フェスに出演するなど、世界的な存在になりつつあるバンドである。シンガロングやダンサブルなパートも満載で、どの楽曲もライブ映えが抜群だ。



ここからはパンクロックとその派生ジャンルについて書いていきます。NWOBHMやスラッシュメタルのところで触れたように、パンクは成立当初からメタルに影響を与え続けてきたジャンルです。

パンクロック

1960年代に、主にブラックミュージックを起源としてロックが誕生した。ロックは高価な楽器・衣装や高度な音楽的教養を必要としないシンプルな音楽であり、労働者階級の人々によって奏でられるものであった。それゆえ、権力や商業主義に反発する反骨精神というものは、ロックの重要なアイデンティティの一つであった。

しかし、70年代にかけて次第にロックというジャンルが世に広まり、ロックバンドが商業的に成功を収めるということも増えていった。また、エレキギターの演奏法も発展し、音楽的にもロックは高度になっていった。

そのようなロックの大衆化・複雑化に対する反発を原動力として、70年代後半に生まれたのがパンクロックである。

音楽的にはロックが持つシンプルさを受け継ぎつつ、よりエネルギッシュで攻撃的なサウンドになっている。ギターはパワーコードを多用するが、メタルのように細かくリフを刻むことは少ない。

基本的にパンクバンドはライブをやるために曲を作っているので、メタルほど音源を緻密に作り込むことは少なく、シンプルで荒削りな楽曲が多い。

反骨精神を重んじ、政治的・社会的なテーマを歌詞にすることが多い。ヴィジュアル面においても、革ジャンやダメージジーンズなど労働者階級の服装が好まれ、タトゥーやピアスを身につけることが多い。


具体例

Ramones - Blitzkrieg Bop

1974年、ニューヨークで結成。シンプルかつキャッチーなサウンドで、パンクロックのスタイルを提示した。その影響力はアメリカ国内にとどまらず、イギリスのロンドンにパンクのムーヴメントを飛び火させた。

Sex Pistols - God Save the Queen

1975年、イギリスで結成。イギリス国歌と同タイトルの楽曲で王室を批判するなど、反体制の姿勢を明確に打ち出し、パンクロックのイメージを世に定着させた。今なおパンクのアティテュードを象徴するバンドとして語られることが多い。


ハードコアパンク

パンクがより先鋭化し、80年前後のアメリカやイギリスを中心に生まれたジャンル。

パンクの攻撃性・凶暴性を強化し、メロディを排除したサウンドが特徴である。楽曲の大半は高速で短い。

パンクと同様にライブで盛り上がることを重視して曲が作られるため、ノリやすいリズムやシンガロングパートが多用される。シンガロングとはバンドとオーディエンスが一緒になって歌うことで、ライブで盛り上がりやすい要素の一つである。

精神面でもパンクより先鋭的になっており、強い社会的・政治的主張を掲げて活動するバンドも多い。


具体例

Black Flag - Rise Above

1976年、カリフォルニアで結成。荒々しくもキャッチーなシンガロングパートが印象的だ。自主的にレーベルを立ち上げて音源をリリースするなど、ハードコアシーンのDIY精神の模範となる存在でもある。バンド名になっている黒旗は、アナーキズムの象徴である。

Sick of It All - Step Down

1986年、ニューヨークで結成。思わず体が動くような力強いリズムには、ハードコアの魅力が詰まっている。MVの粗い映像からは、ハードコアシーンの熱気がよく伝わってくる。


グラインドコア

1980年代中頃に、ハードコアパンクから派生したジャンル。

過激さを極限まで突き詰めたサウンドが特徴で、1分に満たない非常に短い楽曲も珍しくない。ギターはダウンチューニングで重たいリフを刻み、ドラムはブラストビートを多用する。

デスメタルとサウンドがよく似ており、両者の区別は曖昧である。グラインドコアをデスメタルとハードコアの融合とする見方もあれば、デスメタルがグラインドコアから派生したとする見方もある。


具体例

Napalm Death - You Suffer

1981年にイギリスで結成。短い楽曲が大量に詰め込まれた1stアルバムで、グラインドコアのサウンドを提示した。特に「世界一短い曲」としてギネス認定されている "You Suffer" は、グラインドコアというジャンルの極端さを教えてくれる。

Carcass - Reek of Putrefaction

1985年にイギリスで結成。グラインドコアをベースとしつつ次第にギターメロディも導入し、メロディックデスメタルのルーツと語られることもある。グラインドコアに限らず、多くのメタルバンドからリスペクトされているバンドである。


グランジ

80年代後半、グラムメタルの隆盛の終わり頃にアメリカで生まれたジャンル。

音楽的にはオールドスクールなHR/HMの影響を受けており、シンプルなビートとギターリフを用いたノリやすいサウンドが特徴である。

精神面でパンクからの影響が色濃く、商業的な成功を悪とするアンダーグラウンド志向が強い。グラムメタルの隆盛へのカウンターとしての側面もあるため、楽曲の雰囲気はどこか病的で暗い。

グランジはムーヴメントとしては短命であったが、高度なテクニックに頼らないシンプルなサウンドやアンダーグラウンドにこだわる精神性は、後のニューメタルやオルタナティヴメタルに大きな影響を与えた。


具体例

Nirvana - Smells Like Teen Spirit

1987年、ワシントンで結成。音楽性と精神性の両面で、グランジというジャンルを象徴するバンドである。シンプルなリフとざらついたボーカルによるリアルなサウンドは、グラムメタルの時代を終わらせ、新たな時代の始まりを準備した。

Alice In Chains - Man in the Box

1987年、ワシントンで結成。Nirvanaと並んでグランジの代表格である。ハードロック色の強いギターリフが、独特の伸びやかさを持ったボーカルと合わさり、力強くも鬱々とした雰囲気を作り上げている。


エモ / スクリーモ

90年代のアメリカでパンクから派生したジャンル。

ハードコアパンクにおいては「怒り」が表現されることが多いのに対し、「悲しみ」や「切なさ」に焦点を当てたのがエモやスクリーモである。

ギターはパンクらしくパワーコードをかき鳴らしつつ、高音のエモーショナルなメロディを随所に用いる。ボーカルは透明感のあるハイトーンボイスで、憂いのこもった歌い方をすることが多い。

一般的にボーカルがスクリームをしないものをエモ、スクリームをするものをスクリーモと呼ぶことが多い。


具体例

Story Of The Year - Until The Day I Die

1995年にミズーリで結成。パンクを爽やかにアップデートしたサウンドが特徴で、日本でも人気が高く、2000年以降の日本のバンドの多くに影響を与えている。悲痛に泣き叫ぶようなスクリームは、デスメタルやハードコアパンクのそれとは異なる、スクリーモ特有のものだ。

Saosin - Voices

2003年、カリフォルニアで結成。シンプルながらエモーショナルなフレーズの数々は、まさに「エモ」の名にふさわしい。透き通るようなハイトーンボイスは、このジャンルの模範的なボーカルスタイルだ。


メロディックハードコア

90年代にハードコアパンクから派生したジャンル。

エモ / スクリーモと同様に、「切なさ」が感じられるサウンドが特徴。ハードコアパンクの荒削りさと熱気を受け継ぎつつ、高音のエモーショナルなギターメロディが入る。ボーカルのスクリームも、切なさに満ちた感情的な雰囲気であることが多い。

日本では、「叙情系ハードコア」という呼称も用いられる。

具体例

Shai Hulud - Misanthropy Pure

1995年にフロリダで結成。ハードコアらしい筋肉質な咆哮と、エモーショナルなギターメロディが合わさったサウンドの煽情性は抜群だ。甘酸っぱい爽やかなメロディは、メロディックデスメタルとは異なるやり方で「悲しみ」を表現している。

The Ghost Inside - White Light

2004年にカリフォルニアで結成。楽曲によってはメタル色が強く、メタルコアに分類されることも多いバンドだが、"White Light" の切なさに満ちたサウンドは、叙情系ハードコアの魅力を教えてくれる。終盤のギターメロディだけが鳴るパートからラストまでの展開は、涙なしには聴けない。


ポストハードコア

2000年以降、ハードコアパンクやスクリーモ、メタルコアなどが融合して生まれたジャンル。

メタルコアのブレイクダウンを発展させ、より細かく複雑なリズムのブレイクダウンを多用する。メロディックなリフやリードギターは使われず、メロデス色は薄い。

ボーカルはエモやスクリーモの影響を受けたスタイルであることが多い。スクリームとクリーンボーカルを併用するのが一般的である。

熱気や凶暴性は控えめで、浮遊感のある爽やかなサウンドが特徴。電子音を用いることも多い。

近年は「メタルコア」という呼称がかなり広い意味で使われる傾向があり、ポストハードコア的なサウンドがメタルコアと呼ばれることも少なくない。


具体例

blessthefall - Hollow Bodies

2004年にアリゾナで結成。メタルコアよりも複雑さを増したブレイクダウンは、ポストハードコアの見せ場の一つだ。ボーカルスタイルやメンバーのヴィジュアルにはエモ/スクリーモの影響が色濃く感じられる。

We Came As Romans - Hope

2005年にミシガンで結成。電子音を効果的に取り入れた、ポストハードコア特有の浮遊感のあるサウンドが特徴。ハードコア的なタフさのあるスクリームと、エモ系のクリーンのツインボーカルも印象的だ。


いかがでしたでしょうか。

書き進めるうちに書きたいことが増えていって、かなりの分量になってしまいました。今後もメタルを聴きながら新たな知見や気づきが得られた時には、随時書き足していきたいと思っています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?