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ナッジ研究者がお答えします#22:企業でナッジを使った事例は?

【質問】講演では保健分野におけるナッジの紹介が多かったです。それ以外の分野でも、企業でナッジを活用した事例がありましたら、教えてください。

実は答えるのが難しい

実は、これは答えるのが難しい質問です。私は健康行動専門であり、それ以外の分野では、どれがナッジと言ってよいか、判断には慎重にならざるを得ないからです。詳しく申し上げます。

ナッジは経済学の理論であり、経済学の理想である「望ましい行動を促すために用いられるべきもの」という前提があります。
経済学では理想的な行動はモデル式で表わされます。一方で、現実世界では、人の行動はモデル式通りにいかず、一定の法則の下でズレが生じます。このズレを「バイアス」と言い、バイアスをうまくコントロールして望ましい行動へと促す設計がナッジです。

ナッジを使うに当たり、「望ましい行動とは何か?」を考えなければなりません。ナッジは、禁煙のように、「頭ではわかっているけれど、バイアスの影響で、つい望ましくない行動をしてしまう場面」で使うことを想定しています。では、喫煙促進にナッジを使うことはできるのでしょうか?例えば、どのコンビニでも、レジの後ろにタバコが同じ配列で並んでいるのは、消費者へ単純接触効果によって訴求する設計だと考えられます。しかし、行動経済学では、この設計をナッジとみなさない研究者の方が多いと考えられます。なぜなら、喫煙は科学的に望ましくない行動であり、それに向けて背中を押すのは、経済学の目的に反するからです。

さらに、この考えを広げていきます。

競合商品で満足している顧客に、行動経済学の知見を用いて自社製品へと促すマーケティングも、ナッジと言えるのでしょうか?

これは判断が分かれるところです。少なくとも「ナッジを使っています」と主張する場合には、ゴールが「望ましい行動」であることを整理する必要があるでしょう。ここまでの話は、竹内幹先生(一橋大学)の動画がわかりやすいです。

その点、エビデンスに基づく健康をテーマにした商品、プログラムやアプリは、この問題がクリアされるものが多く、ナッジとして紹介しやすいです。ナッジを前面に出しているものとして、住友生命やRIZAPがあります(これらの企業の商品・サービスは長期的な健康につながるという前提で、紹介します)。

また、健康アプリに関しても、例えば、kencom(DeSCヘルスケア)は同調効果などのナッジを使うことによって、歩数の増加がみられました(この論文は竹林も共著者になっています)。

参考になりましたら嬉しいです。



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