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ナッジ研究者が見たニュース⑧:こわいアンケート

【ニュース記事引用】新型コロナウイルスのワクチン接種を希望するかどうか、「女子高生」に限定してアンケートしたという記事が、「ワクチンの不安や副作用を煽るような内容だ」という批判を集め、その後削除された。この記事はオリコンの自社サイトだけではなく、毎日や朝日、中日など複数のメディアのサイトが掲載。
(中略)調査会社を通じて女子高生100人に対し、「コロナウイルスのワクチンが日本で利用可能になった場合、早期に接種を受けたいですか?」とのアンケートを取った結果、 「受けたい:34人」「受けたくない:66人」という結果が出た、と伝えた。
さらにその理由として、「副作用」「安全なのかわからないから」が多かったと紹介。「本当に効果があるかわからない」「まだ信用できない」「打っても変わらないと思う」などという意見も掲載している。
一方で、エビデンスを踏まえたワクチンの有効性には触れておらず、「政府が臨床試験を重ね、安全性を確保してから接種を開始することは間違いないが、不安な気持ちはぬぐえないということだろう」などと、副作用を強調した記事となっていた。

行動経済学と公衆衛生の観点から、この記事は看過できない。科学への軽視も含め、多数の問題が含まれているが、3つに絞って指摘する。

①「受けない」と答えた女子高生は本当に受けなくなる。

【研究】学生に自分が選挙で投票をするかを聞いたら全員が「投票する」と答えた。回答した学生は聞かれなかった学生よりも25%高い投票率だった 。(Greenwald, 1987)

このように、人は回答した通りの行動をする可能性がある。そして、オリコンアンケートは66人の女子高生に「受けない」と意思表明させる結果になった。この66人はワクチンを受けない可能性が高い
この調査は、自由記載意見を見る限り、エビデンスを提示した上で冷静な判断を求めたものとは思えない(反論があるのなら、実際の調査票を示してほしい)。「受けない」と回答を誘導する調査票は、回答者の意思決定をワクチン忌避へと歪めるリスクが高い。これは重大な倫理違反であろう。
研究者は調査に当たり、倫理性を確保するため、第三者による倫理審査を受ける。対象者が未成年であれば、一層の入念な審査が求められる
調査の専門機関であるオリコンは、どんな調査票で、どんなチェック体制があったのか?オリコンHPを見ても、このニュースについて全く触れられていない。
この調査が実は行われておらず、でっち上げの結果を掲載しただけであったことを、心から望む。

②同調バイアスが強まっている中、「皆が嫌がっている」というメッセージを出した。

若い世代ほど感染症に対する危機意識が低い。人は疲弊するとバイアスが強まる。そんな中で、「女子高生の多くがワクチンを嫌がっている」という同調バイアスを刺激するメッセージが出された。
同年代の3分の2が反対したと聞いた若い人は、冷静な判断ができるだろうか?若い人の行動を感染リスクにさらす強烈なメッセージを送って、誰が幸せになるのか?

③なぜ、新聞はセンセーショナルに扱ったのか?

学術界では高い倫理性を確保し、それを宣言している先進的で質の高い研究が次々に生まれている。だが、それはほとんど報道されることはない。一方で、倫理が確保されておらず、意義の不明な調査は大きく報じられる。このバランスの悪さが今回の騒動の元凶かもしれない。そして、類似の事例は子宮頸がんワクチンの時も見られ、今回も若い女性がターゲットにされた
新聞社は、未成年への倫理違反を中心に検証し、報道することを心から望む。「確認不十分」で済ましてよい問題ではない。

【ニュース記事引用】批判が集まった記事は、1月21日正午すぎに削除された。オリコンニュース編集部はBuzzFeed Newsの取材に対し、「チェック体制の不備で掲載されてしまったため、編集部内で記事が不適切と判断し、削除しました」と回答した。また、毎日新聞も午後2時14分にTwitterで「配信元が内容が不適切と判断して削除しました。ツイートも削除します。掲載にあたり内容の確認が不十分でした」と釈明。

最後に、子宮頸がんワクチンに対する三原じゅん子議員の記事を。


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