ナッジ研究者が見たニュース⑧:こわいアンケート
行動経済学と公衆衛生の観点から、この記事は看過できない。科学への軽視も含め、多数の問題が含まれているが、3つに絞って指摘する。
①「受けない」と答えた女子高生は本当に受けなくなる。
このように、人は回答した通りの行動をする可能性がある。そして、オリコンアンケートは66人の女子高生に「受けない」と意思表明させる結果になった。この66人はワクチンを受けない可能性が高い。
この調査は、自由記載意見を見る限り、エビデンスを提示した上で冷静な判断を求めたものとは思えない(反論があるのなら、実際の調査票を示してほしい)。「受けない」と回答を誘導する調査票は、回答者の意思決定をワクチン忌避へと歪めるリスクが高い。これは重大な倫理違反であろう。
研究者は調査に当たり、倫理性を確保するため、第三者による倫理審査を受ける。対象者が未成年であれば、一層の入念な審査が求められる。
調査の専門機関であるオリコンは、どんな調査票で、どんなチェック体制があったのか?オリコンHPを見ても、このニュースについて全く触れられていない。
この調査が実は行われておらず、でっち上げの結果を掲載しただけであったことを、心から望む。
②同調バイアスが強まっている中、「皆が嫌がっている」というメッセージを出した。
若い世代ほど感染症に対する危機意識が低い。人は疲弊するとバイアスが強まる。そんな中で、「女子高生の多くがワクチンを嫌がっている」という同調バイアスを刺激するメッセージが出された。
同年代の3分の2が反対したと聞いた若い人は、冷静な判断ができるだろうか?若い人の行動を感染リスクにさらす強烈なメッセージを送って、誰が幸せになるのか?
③なぜ、新聞はセンセーショナルに扱ったのか?
学術界では高い倫理性を確保し、それを宣言している先進的で質の高い研究が次々に生まれている。だが、それはほとんど報道されることはない。一方で、倫理が確保されておらず、意義の不明な調査は大きく報じられる。このバランスの悪さが今回の騒動の元凶かもしれない。そして、類似の事例は子宮頸がんワクチンの時も見られ、今回も若い女性がターゲットにされた。
新聞社は、未成年への倫理違反を中心に検証し、報道することを心から望む。「確認不十分」で済ましてよい問題ではない。
最後に、子宮頸がんワクチンに対する三原じゅん子議員の記事を。
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