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勝手にアナリストレポート Vol.1023:日本動物高度医療センター(6039東証グロース 時価総額60億円)

Vol.1016で取り上げた日本動物医療センターが3ヵ年の中期計画を発表しました。今回はそれについて取り上げてみたいと思います。2015年3月に新規上場した同社、出来高等をみるとまだまだ認知度は低い様子。ペット医療関連ではペット保険関連に一時期注目が集まりましたが、医療分野は同業がいないこともあり、なかなか脚光を浴びるタイミングがなかったように映ります。しかし、24年6月にペット医療領域で事業展開する企業が新規上場したこともあり、今後注目を浴びるようになるかも知れません。そもそも金融業界には犬や猫を飼っている方も多いと思うので、もしかしたら資本市場以外では既にお世話になっているかもしれませんね。
中期計画は成長可能性資料という形で公表されたので、もしかしたら皆さんの目にとまっていないかもしれません。これをきっかけに少しでも着目していただけたらと思います(銘柄推奨ではありません)。

日本動物高度医療センター(6039)

3ヵ年中期経営計画を発表
二次診療を軸とした成長思考を確認


<キーポイント>
先般の25/3期会社計画開示に続き、27/3期を最終年度とした中期経営計画を発表。定量目標は、27/3期売上高5,707百万円(24/3期実績4,270百万円)、ROE13.8%(同9.0%)。
キーメッセージは、「一次診療との連携を通じた二次診療サービスの着実な成長を目指す」。
一次診療サービス領域でM&A等を通じ一気通貫で動物診療を展開する企業グループもあるが、あくまでも自分達が得意とする「高度医療の提供を通じた規模の拡大を目指す」考えは、リスク・リターンの観点から同社に合った成長戦略だと我々は考える。

<サマリー>
日本動物高度医療センター(以下、「同社」)は、6月19日に27年3月期を最終年度とした中期経営計画を発表した。具体的には、売上高5,707百万円(24/3期を基準とした3期間CAGR+10.2%)、ROE13.8%(24/3期実績9.0%)というもの。
日本には小動物(犬猫その他)を対象にした飼育動物診療施設が12,706か所ある(2023年)。そのうち、51%が個人診療施設であり、法人でも3名以上の獣医師を抱えている診療施設は全体の17%に留まる。このような状況においては高度医療を提供可能な施設が限定的な状況にある。同社はこのような施設と連携し、一次診療では対処できない疾患に対し専門・高度医療サービスを提供することで、今後も安定的な成長を目指していく。
ペット医療の市場規模は6,453億円(2023年、WARC推測)。飼育者の高齢化もあり、今後市場規模は逓減していくことが予想される。しかし、飼育動物の高齢化もあり、高度医療に対するニーズは今後高まっていくだろう。このような環境下、同社は一次診療施設と連携し二次診療サービスを提供していくことで中期成長を目指していくが、一方では普通診療から高度診療を一気通貫で提供するグループも出現している。この場合、M&Aによる規模の拡大を目指すことになるが、零細規模の施設も多いことから、プログラマティックM&Aを実現する難易度は相当高いと考える。将来的には医療連携の先に一次診療との合従があり得るかもしれないが、当面は一次診療との連携を主とした成長戦略に注力するようである。

具体的には、既存拠点において、業務効率化・生産性向上、人材の確保・育成、提供する医療レベルの向上、を通じ初診件数の拡大を目指していく。単に施設数を拡大させれば、短期での売上増が実現されるだろうが、しっかりと獣医師を確保しながら、一次診療施設および飼育者からの信頼を得ていくことが中期的に成長していくためには重要なポイントとなる。市場経済的発想ではなく、ゴーイングコンサーンとしてやるべきことに目を向けていることを、我々はしっかりと認識すべきだろう。

<本文>

決算概況

【同社を取り巻く市場環境】
ペット医療は、一次診療サービス(病気になった際、初期に診察・診療を行うほか、予防薬の処方なども行う。いわゆるかかりつけ診療)と、二次診療サービス(一次診療施設で診断・治療が難しい病気等の診察・検査・投薬・手術等を行う)に大別される。ペット医療を提供する施設の83%は獣医師2名以下の小規模経営となっており、それらは高度医療を提供することが困難な状況にある。二次診療サービスを提供する施設としては、同社のほか、大学病院やあらゆる症例に対応可能な大手診療施設、がある。24年6月に東証グロース市場へ上場したWOLVES HAND(194A)は後者に属する。

農林水産省「飼育動物診療施設の開設届状況(診療施設数)」

日本でペットとして飼育されている犬猫は15,913千匹(2023年全国犬猫飼育実態調査、一般社団法人ペットフード協会)。犬一頭あたり、獣医師にかかる月間医療費は4,284円(同)とされていることから、我々はペット医療の市場規模を6,453億円(2023年)と推測する。市場は2021年をピークに縮小傾向にあるが、ペットの高齢化が進んでいること等を考えると、高度医療に対するニーズは今後も拡大していくと考えられる。同社含め、大手であっても市場シェアは1%未満に過ぎない。

一般社団法人ペットフード協会「令和5年全国犬猫飼育実態調査」

この大きな市場において、同社は一次診療施設との連携を深めることで、二次診療サービスを着実に成長させていく戦略を標榜している。同社の強みは、(1)専門領域・診療体制(12の診療科を有する)、(2)高度医療機器の保有、柔軟な受け入れ対応(年中無休・柔軟な予約)、(3)ホスピタリティ、(4)豊富な症例数、にある。一次診療施設では提供することの難しい領域を同社が補完することで、地域での動物医療体制を拡充していくことになる。WOLVES HANDのように一次診療サービスを提供する診療施設がM&A等を通じた規模の拡大を推進し、分業体制とは逆の一気通貫型で成長を目指す方法もある。現状では双方の是非を問うことは時期尚早だろう。後者のように資本の力を使い規模の拡大を一気に進める場合、M&A戦略を担える人材やPMIをしっかりと回せる人材が社内にいるか、一次診療施設との間で少なからず生じる軋轢を封じ込めるだけの胆力が経営にあるか、といった課題が生じるだろう。同社は、その課題に今向き合うのではなく、しっかりと一次診療施設と地域連携していくことで、共に成長していく戦略を採用する。その上で、疾患対応だけでなく、健康維持サービスへの展開も今後進めていくことを考えている。

現在、同社は川崎、東京、名古屋、大阪に拠点を有する。単純に成長を求めるのであれば、拠点展開を加速化させていく方法が簡単だろう。しかし、拠点をむやみに展開しても、そこで働く人材のクオリティが担保されなければ、連携病院からの認知度、信頼を得ることができず、紹介依頼が伸び悩むことになるだろう。同社はそのことを十分に認識しており、まずは既存拠点の着実な成長に経営資源を投下している。具体的には、(1)獣医師業務の効率化・生産性向上を通じた獣医師の診療時間最大化への取り組み、(2)人材の確保(リファラル採用等を通じた中途採用の強化、採用プログラム体系化を通じた新卒採用の強化)・育成(豊富な症例に基づいた環境整備等)・配置、(3)グループ全体での医療レベルの向上、を目指す。その先に拠点展開が見えてくるのではないだろうか。
同社中期経営計画では、27/3期に新規拠点の開設が織り込まれている。これまでの新設病院の設備投資額および黒字化に要した期間は、名古屋(2011年開院):設備投資額6億円、黒字化33か月、東京(2018年):同14億円、3か月、大阪(2023年開院):22億円、12か月、となっている。同社は具体的な次期展開エリアを明示していないが、全国主要都市に拠点展開していくことは明言している。エリアや規模によって設備投資額や黒字化に要する期間はマチマチだが、大阪の事例が1つの参考になるだろう。今後FCFを借入金の返済および株主還元に充当していくとした場合、新規拠点展開に向け新たな資金調達を行う可能性もあるだろう。同社はROE目標を13%に置いていることから、デットによる資金調達を活用していくことが想定される。

【業績予想】
同社の中期経営計画開示に鑑み、我々も3期間の業績予想を作成した。24/3期を基点とした3期間CAGRは、売上高+10.0%、営業利益+18.8%。同社が開示した売上計画(CAGR+10.2%)を若干下回るが、これは単価見通しの差異によるものである。獣医師数および獣医師1人当たり初診件数の見通しは概ね同水準となっている。同社は、これまで開示してきた初診数に加え、今回から拠点別二次診療売上高、獣医師数の開示を始めた。これは、獣医師数の量と質の拡大が同社の成長に欠かせないということのメッセージだろう。



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