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寿司とカレーとコンプレックスと

ざっくり言って音楽は二つのタイプに分けられると思うんですよ。寿司か、カレーかの二つに。

カレーは何がうまいって溶け込んでいる素材の豊かさですよね。チョコレートとか入れる人もいる。沢山の具材がドロドロに溶け合って、一つの調和を提示する、そこにカレーの醍醐味があると思います。一方の寿司は新鮮なネタが酢飯に乗っています。素材同士が溶け合う愉悦というよりはネタの主張を最大限活かす方向になりますね。

音楽は寿司とカレーだっていうのは作り方が混ぜ合わせるか、際立たせるかの二つに大別されると思うんです。ビートルズのウォール・オブ・サウンドはカレー的ですね。リフでロックするストーンズは寿司的だと思うんです。

僕が曲作り始めたころまだソフトシンセとかあまりなくてトラッカーを使ってチップ音で組んでました。一つ一つの音は極めてチープなので自然アティチュードはカレー寄りになります。それなりに認めてもらえるぐらいになった時には打ち込みの細かさをよく褒めてもらいました。カレーのチョコレートみたいなものでしょうね。

ある日メールが送られてきて開けてみるとデモテープみたいなものでした。俺そんな権力ないんだけどなと思って聞いてみたら椅子から転げ落ちそうになりました。ベースの出音が凄すぎる。ファイルを確認するとサブベース一つに4チャンネル使ってました。それが自分の打ち込みと寿司との出会いでした。

当時僕のスピーカーの知識は信じがたいほど粗末で、ONKYOの安いやつを手に入れるまではパソコン付属のスピーカーを使ってました。音楽鑑賞は主にラジカセを使っていて、サブベースに体が震える感触を知るのはずっと後のことでした。そんな僕の環境でもそのデモテープは印象的に鳴っていました。本物だな、と思いました。その経験は一つのコンプレックスになって僕を蝕んでいきました。

寿司のトラウマはもう一つあって、EminemでのDr. Dreの仕事でした。あのベース、ドラム、サンプル。そこにあったのは音を溶かすカレーとは逆のやり方、ネタを活かしたブリっとした寿司という方法でした。僕は上京失敗の後20代の大半を匿名掲示板で浪費するのですがそこに常にあったのは寿司への敗北でした。

……というような葛藤が若い頃あったんですよ、という話では無く、わりと最近、あるいは今でも引きずっています。ソフトでは限界があるのでは……アナログ機材とか真空管を使えば本物の音が出せるのでは……結果僕はかなりのリソースをアナログエミュに費やしてしまいました。そしてあるライブで実際に使ってみました。大惨事になりました。

もうそのVSTは残ってないんですが、多分キックのプレゼンスが弱いな、という時にワンポイントで使うプラグインだったんだと思います。それを僕はマスターにかけました。厚い生肉を喉に詰め込まれるような音だったと思います。カレーに寿司になれというようなものだったんでしょうね……

音が太い、音が細い、アナログ特有の心地よい歪み……こういう問題の大多数はPAさんの範疇にあると思います。半端な人がコミットしようとすると大怪になってしまいます。この文の教訓は「PAさんをリスペクトしよう」になりますな。

寿司かカレーか。飯としては大問題ですが音としてはどうでしょうか。寿司とカレーの次のイデオロギーはきっと、寿司とカレーという範疇を超えるものであるでしょうね。さて、あなたは寿司派ですかカレー派ですか?

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おまけ
寿司かカレーかで大いに悩んでいた時代の曲がこれです。

https://soundcloud.com/gnyonpix/deamonic-korg-volca-fm-volca-keys-elektron-machinedrum-modstep

どうでしょう?今聞くと意外にいいなと思います。このときはDAWに絶望してiPadのシーケンサーとハード機材のみで作っていました。序盤の音数少ないのがキュートさに感じられたら後半のカレーへの移行は物語に感じられます。多分序盤だけを覚えていて全然だめな曲だと記憶してたんだなあ。やっぱり曲は聞いてみないとわからないですね。

おしまい

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