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2:21.8の“絶対”

日曜日。雨のなか銀座に出る。

ひとくちに銀座に出るといっても、その時々で理由はさまざまだ。その日銀座に行ったのは、場外馬券売り場でジャパンカップの馬券を買うためだった。

大きなレースがつづく秋は、春と並んで競馬の“シーズン”である。とはいえ、ここのところ仕事が忙しく、週末に出勤することも多かったためSNSで結果をチェックするくらいでまったくといってよいほど追えていない。思えば、馬券を買うのすら2年ぶりくらいではないか。

そんなわけだから、きょうがジャパンカップの日であることも不意にベッドの中で思い出したくらいだ。ちょうどひとつ仕事が片付き、肩の荷が少しおりたタイミングだったのでのんびり自宅でテレビ中継をみるのも悪くないと考えた。

銀座の場外馬券売り場は、地下鉄の《銀座一丁目》駅からすぐのところにある。GⅠレースのある日など銀座には似つかわしくない物々しい雰囲気になるが、まだ朝の10時前だけに客は多くない。きっと昼前には大混雑となるだろう。

よく、競馬に“絶対”はない、といわれる。じっさい、ゴリゴリの一番人気があっけなく馬群にのみこまれてゆくさまをこれまで幾度となく目撃してきた。

しかし、もしも“限りなく絶対に近い”ということがあるとしたら、それはきっときょうにちがいない。そう思っていた。

一番人気イクイノックスの単勝を千円。

勝ったところでほとんど儲けはないのだが、それでもかまわなかった。特別な場面を目撃するための、これはいってみれば見物料のようなものだ。

仮にきょうイクイノックスが勝利するようなことがあれば、それは著しく安定を欠き混迷を極めるこの世界にあって数少ない“確かさ”と呼びうるものだろう。その“確かさ”に触れたかった。まだ確かなものがあることを、この目で見届けたいと思った。

馬券を買うとき、ひとはどこかで自分自身に賭けているようなところがある。たとえば寺山修司は、好んで「逃げ馬」にばかり賭けたといわれている。自分が信じたいものがまさに目の前で現実になる、ただその瞬間に立ち会いたいのだ。

だから、宮本輝の小説『優駿』に登場するサラブレッドの名がスペイン語で「祈り」という意味をもつオラシオンであるのには理由がある。

競走馬は、人びとの祈りをのせて疾駆するのだ。まあ、馬にとってははなはだ迷惑な話かもしれないけれど。

最終的なオッズは1.3倍…それでもつき過ぎ

馬券を買って外に出たものの、まだデパートも開店していない。相変わらず細かい雨も降り続いている。ちょうど裏通りの《宮越屋珈琲》が開いていたので苦みのきいたコーヒーとケーキを頼んでのんびりした。その後、すこし買い物などしてテレビで競馬中継が始まる前には帰宅する。

午前中からケーキも奮発

この日東京競馬場でおこなわれた第43回「ジャパンカップ」は、1枠2番イクイノックスが2着に4馬身差をつけて快勝した。

これまで数々の名馬とともに華々しい勝利を手にしてきた鞍上のルメール騎手が、顔をくしゃくしゃにして泣いている姿が印象的だった。

「感動した」---インタビューにこたえてのルメール騎手の言葉である。

この日の府中のターフには、2分21秒ではあったがたしかに“絶対”が存在した。

によろ助は天をめざす

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