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『Nuclear Throne』ゲームデザイン概観

 「石橋を叩いて渡ろうとしたら突き落とされて、気が付けば地雷原でタップダンスさせられてる」みたいなゲーム。 

『Nuclear Throne』、久しぶりにちょっと遊んだ。あらためて「よくできてるな~」と感心したので軽くゲームデザインを概観してみようかと思った。


プレイ状況

◆執筆時点でのプレイ状況
 ・プレイ環境 ‐ Steam版をキーボードとマウスで遊んだ
 ・プレイ時間 ‐ 19時間くらい
 ・挑戦回数 ‐ FISHで246回
 ・クリア回数 ‐ FISHで1回
※つまり、1回クリアしただけでやりこんでない


ゲームコンセプト

 あくまで主観だが、このゲームを遊んで得られる体験は【ゲリラ戦】、あるいは【本気の殺し合い】といったところだろう。殺るか殺られるか、心臓がヒリつく殺し合いが楽しめる。


石橋を叩いて渡れない

 遠距離攻撃、つまり少ないリスクで敵を攻撃できる場合、いくつかの問題が生じる。人間は損失を恐れる傾向にあるため、【遠距離からチクチク攻撃して勝つ】といった手段をとりがちだ。特にそれが一発勝負であったり、敗北したときの損失が大きいものであればあるほど、リスク回避の傾向は高まる。当然、ローグライクは一発勝負であり、敗北はすべてを失うことを意味する。石橋を叩いて渡ろうとするのは道理だ。

このゲームでは、以下の仕様によって石橋を叩いて渡れなくしている。

■弾薬
 ・弾薬がなければ武器は使えない
 ・唯一、弾薬が不要な武器種は近接攻撃のみ
  →つまり、リスクが大きい
 ・弾薬は主に敵が落とす
 ・弾薬は近づかなければ取れない
 ・弾薬は一定時間で消失

■経験値
 ・敵は経験値も落とす
 ・経験値を一定溜めることでレベルアップ
 ・レベルアップするとフロア移動の際に4つの選択肢のなかから一つを選んでアップグレード
 ・経験値も近づかなければ取れない
 ・経験値も一定時間で消失

■敵
 ・プレイヤーが壁に隠れていると近づいてこない
 ・プレイヤーを探す動きはしない

■遮蔽物(地形,壁)
 ・爆発以外の攻撃は通じない
 ・つまり、壁で射線を切ればお互い手出しできない

つまり、近づかなければそもそも敵を倒せない。さらに、近づかなければ敵が落としたリソースを回収することもできず、長期的に考えて不利になる。周りの敵を殲滅してから──と考えても、弾薬と経験値は時間経過で消えてしまう。敵を殲滅してから悠々と回収するのは難しい。

プレイヤーの損失回避行動──HPを失わないように遠距離からチクチク──に対して、さらに大きな損失回避──弾薬と経験値の消失──をぶつける構造だ。損失回避をもって損失回避を制す

巧妙なのは、遠距離チクチク──正確には【壁に隠れつつ隙をみて射撃】──の有用性はなんら損なわれていない点だ。このゲームでは、ほとんどの操作キャラクターは敵の弾丸を防ぐ手段を持たない。敵の攻撃を防ぐには、壁のうしろに隠れるしかない。これは壁の安全性を絶対的なものにしている。

また、このゲームは敵の攻撃力が高く、プレイヤーがダメージを受けたときに発生する無敵時間も非常に短い。たとえば、敵のガトリングガンをまともに受けてしまった場合、あっというまにハチの巣だ。一瞬で殺されてしまう。死にやすさ、あるいは殺しやすさについては、プレイヤーも敵もさほど変わらない。

壁で射線が切られている場合、お互い一切手出しできない。しかし、いざ攻撃が決まれば、お互いすぐに殺せる。この不文律があるからこそ、射線が通っているときの緊張感が心臓に響く。コントラストがとても強く、メリハリがきいている。

壁を挟んで射線を切っていれば絶対に安全だ。隙をみて顔を出し、遠くから敵を撃って仕留める。しかし、これを続けていてもジリ貧だ。さあ、覚悟を決めて死地へみずから飛び込むぞ。【本気の殺し合い】の幕開けだ


変化し続ける環境に適応する

 弾薬システムによって、石橋を叩いて渡ることはできなくなる。だが、どうも影響はそれだけではないらしい。

一つの武器種を使い続けていると、その武器種の弾薬が尽きてくる。一方で、使っていない武器種の弾薬は溜まっていく。さらに、中盤以降は強力な武器が手に入りやすくなる。また、アップグレードによっては特定の武器種を強くする効果もある。最後に、武器種によって敵や地形との相性のよさが変化する。例えば、閉所では跳弾する武器のほうが強い。こうした複数の要因から、武器を変更する圧力が高まっていく

■武器チェンジ圧力
 ・弾薬量が自然と偏る
 ・強い武器の登場
 ・アップグレードによる特定武器種の強化
 ・敵,地形との相性

武器が変わると立ち回りも変わる変えざるを得ない。グレネードランチャーなど、爆発系の武器を扱う場合、常に自爆の危険がつきまとう。なるべく相手から距離を置くように意識しなくてはならない。ショットガン系の武器なら弾丸の射程が他の武器と比べて短いので、接近戦を余儀なくされる。

 加えて、環境の変化にも適応しなくてはならない。大きい変化としては、いくつかの敵と暗闇エリアだろうか。いくつかの敵、例えば都市エリアのカラスは飛んでくる。壁を挟んで射線を切っていようが背後を取ってくる。常に対応が迫られる。同様に、雪原エリアのボスはフロア到達から早い段階で空から降ってくる。イヤでも咄嗟の判断が求められる。

というか、フロア移動直後は一番無防備な瞬間だ。もし開けたところに降り立ったのなら、敵に四方から狙われるハメになる

メインエリアの合間には必ず薄暗くて細い道が多いエリアが差し込まれる。このタイプのエリアに足が速くて接近戦を仕掛けてくる敵が多いのは、もちろん意図したものだろう。

ゲーム内における暗闇演出というものは、その多くが雰囲気を出すために用意されていてゲーム的な影響がほぼゼロだ。もしくはガチの暗闇になっていて、プレイヤーにとってはストレスが強すぎるパターン。Nuclear Throneでは雰囲気とゲームプレイへの影響、その両方が絶妙なバランスで成立している。

暗闇で視界の広さと見えやすさが制限される。足の速い敵が接近戦を仕掛けてくるため、警戒して足取りが慎重になる。暗闇のなか、自分の命を狙う敵がどこから攻撃を仕掛けてくるのか。弾は有限なため、無駄撃ちはできない。近寄ってきた敵に反応して素早く撃ち殺さなければならない。「来るなら来い。ぶち殺してやる」。これはロールプレイではない。ゲームに勝利したくて、自然と心の底から湧き上がる気持ちだ


「二度とやらんわ」(リトライボタンを押しながら)

 この現象がなぜ発生するか。これはシンプルに考えてみる。

■リトライを誘発する要因
 ・死んでからリトライまでが爆速
 ・死にかたが97%理不尽である

・死んでからリトライまでが爆速
 なぜすぐにリトライしてしまうのか。これはもうシンプルに、リトライがものすごく速いからだ。まず、演出が簡素なので、死んでからリトライ可能になるまでが速い。特に、Nuclear Throneは本当に「あっ」というまに死ぬので、死んだ事実を受け止める頃にはもうリトライの用意が整っている。リトライ自体もワンクリックで即座に実行されるので、つい押してしまいがちだ。ロード時間もほとんど存在しないため、すぐに次のプレイが始まる。

・死にかたが97%理不尽である
 このゲームは本当に気付いたら死んでいる。だいたいの死亡は「は?」と声を上げることになる。「いま死んだのはオレのせいじゃねえ」という気持ちですぐにリトライしてしまう。

「いま死んだのはオレのせいじゃねえ」、これはかなり紙一重の感情だ。心の底からそう感じている場合、プレイを継続することは難しくなる。が、Nuclear Throneでは97%理不尽を感じつつも、残りの1%は「本当に、本当に注意深く気を付けて慎重にプレイしていれば死んでなかったかもしれない」と思わせてくる。これは特に暗闇エリアで足の速い敵にやられたときに思わされがちだ。

さらに、残りの1%の部分では、

「次は強力な武器が手に入るかも」
「次は強力なアップグレードが取れるかも」
「次はもう少しマシな地形が来るかも」

こうした要素が積み重なって「次はクリアできるかも」と思わせてくる。結果、「あと一回だけ」「これが今日ラスト」とか言いながらリトライを押す中毒性につながっている。

最後のもう1%は初見殺し。一度殺されたらもう大丈夫だな!と思ってすぐにリトライする。そしてまたうっかりやられる。これは「本当に、本当に注意深く気を付けて慎重にプレイしていれば死んでなかったかもしれない」につながる。


まとめ

 とりあえず書きたかったことはだいたい抑えられたと思うので、まとめる。

■石橋を叩いて渡れない
 ・近づかないと敵を倒せない
 ・近づかないとリソースを回収できない(あとで不利になる)
 ・壁を挟めばお互い手出しできない
 ・攻撃が決まればお互いすぐに死ぬ
  →だからこそ、壁から飛び出すときのコントラストが強い!

■変化し続ける環境に適応する
 ・武器を変える/変えたくなる瞬間が必ず来る
 ・武器が変わると立ち回りも変わる
 ・状況を変えてくる敵に判断を問われる
 ・暗闇エリアの緊張感はホンモノ

■「二度とやらんわ」(リトライを押しながら)
 ・リトライまでが速い
 ・死にかたの97%が理不尽
 ・1%は「気を付けてたら勝ってたかも……」
 ・1%は「次はいけるかも……」
 ・1%は「完全に理解した」


■つまりNuclear Throneはだいたいこんな感じのゲーム
 「石橋を叩いて渡るなんてクソつまんねえだろ?」
 「地雷原で死に神とタップダンスしようぜ!」
 「死んだか!じゃあさっそく次の人生だ!」

Nuclear Throneはこういうゲームデザインだ。常にプレイヤーを死地へと追い立てる。


あとは、最後に倒した敵が次のフロアへの入り口になって吸引してくるので先へ先へとゲームを進行させるところとか、宝箱や経験値の詰まったケースを行き止まりに配置することでマップ全体をくまなく味わう構成とか、そういうのもまとめたかったけど上手いことまとめらなかったのでここで早口でまくしたてて言及しておく。

とにかく各要素が綺麗に配置&接合されていて無駄がない。すべてに意味がある。ただ難易度が頭おかしい。【本気の殺し合い】だから理不尽レベルな難易度なのは当たり前であり、そこが魅力なわけだが。つまりは激辛料理だ。完食が本当に大変。


おわり


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