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ソムリエ慕情




福岡にて、ソムリエと言うあんまり知り合いに居ない仕事をしていた村上君(あの村上君です)が帰ってくるとの情報をキャッチした時。




すかさず当時のうちの店で同窓会と相成りました。




その時のメンバーは、




友人A君(『管理栄養士の婚約者が管理しているのは栄養だけじゃないんだ!』)




友人B君(『本日の目標はどーやって帰ったかを憶えていることです。』)




友人C(『前回の飲み会で暴れた反省は僕にもできます。オレンジジュースをください。あと僕だけ君がついてないのは、やっぱり怒ってるからですか?』)




村上君(『2000年はビッグヴィンテージの年さ!え?1990年?そんな昔の話をするなよ。』)




と私(ええ仕事中でしたが)の五人。




前にも書きましたが、地元八代壮年肉食獣(草食系男子の反対語)の面々。


ワインボトルは転がり、ビア樽は宙を舞い、最終的には半数が記憶も飛ばすと言う楽しい宴になりました。



さてさ、て。





数ヵ月後に結婚式を控えていたと村上君と友人A君が、己の結婚観や今後の生活設計、子供は何人欲しい?えー?牧場を運営できるくらいかな?とかなんとか言う話で熱く燃え上がるさなか、ひそひそと話し込む一角に、私を含むそれ以外の三人が居ました。


『なあなあ携帯ゲームとかする?』

『するする。お前何してる?』

『新しいのは良くわからんからずっと数字足していくやつとか。あとブロック崩し的なやつとかかな』

『わかるー。なんか無心になって気付いたら時間たってるよなー』

『そうそう、お陰で寝不足でさー』





どんっ、と荒々しくボトルを置く音に三人揃って目を遣ると、ついさっきまで



『うふふ。牧場は無理だよう。牛触れないし。僕は大草原に小さな家をたてて、隣に意地悪だけどたまに優しいおばさんなんかが住んでるみたいなのがいいなあ。あ、でも二世帯住宅で長男がカツオってのもいいなあ。うふふ。』



とか言っていた村上君
どっかりとあぐらをかいて据わってらっしゃる目を赤く染め、私たち三人に向かって言います。




『黙って聞いてりゃ情けない。何がゲームだよ!バーチャルの世界で時間使って点数あげて何になるんだ?税金安くなんのか?女にモテんのか?ゲームなんてのはただのゲームなんだよ!欲しいものは現実で、この手で掴むんだよ!わかったかおまえら!』




しん、と静まり返る宴席。

途中から立ち上がっていた村上君は、あげた腰の下ろし所に困ったのか



『えーと。アレだ。しょんべん。』


と言い残し、トイレへ向かいます。



その背中を見送りながら、村上君の勢いに固まったかに見える見習い肉食獣のメンバー、実は全員同じことを考えていました。




無言のままみつめあう同級生を代表し、口を開いたのは友人Cでした。




でも、町内で最初にファミコン買ったのあいつだよなあ。』





そうだそうだと頷く一同の脳裏にはコントローラーを握った、幼い村上君の弾ける笑顔が等しく映し出されていました。




恐らく友人Cの声が聞こえたのだろう村上君のトイレが異様に長かった事と、やっと帰ってきた彼を全員が責め立てたことは、綺麗な想い出の邪魔になるのでここでは書かないことにします。




さ、て。



そんなファミコニストの村上君



学生時代は野球とラグビーに青春と鎖骨を捧げた、バリバリの体育会系。



幼馴染みのイメージは、とても現在のソムリエである彼には結び付かず、一体なぜソムリエにという疑問は残ります。





彼は言います。





職業にあるまじき安ワインで酔っぱらい、閉じる寸前の目で。





昔のままの強い口調で。





『gmの言うように、結局は酒もワインも高い安いじゃなくて【誰と飲むか】【どこで飲むか】なんだよ。そんなことはわかってるんだよ。でもね。ドン底に落ち込んでても、3分前にフラれてても、飲んだら美味しいって感じるワインはあるはずなんだ。まだ俺が出会ってないだけで、そんなヴィンテージがどこかにあるはずなんだ。そんなものが世の中にあって、飲んでるやつがいるなら、知りたいじゃないか。出会ってみたいじゃないか。そう思うんだよ、俺は。』






県大会で、鎖骨を折ったままグラウンドを走り続けたかつてのラガーマンは、どうやら今も走ってるみたいだなあと、仕事中なのに酔いの進んだ夜でありました。





綺麗なまま終わりたいので、話し終わった村上君に向かって

『イイ話なんだけど、聞いてるおれらとの温度差がひどい。』
と友人Cが言い放ったことは無かったことにします。










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