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決意と覚悟

日数を調べてみたら、589日だった。
僕が初めて浮田健誠選手のゴールを見たのが、2年前の7月。

当時応援し始めたクラブ・SC相模原にやってきて、
ひょんなことからをユニフォーム買い、
ひょんなことから応援を始め、
ひょんなことから大好きな選手になり、
相模原を退団してからもなるべく試合を見に行くようになり、
気付けば出会ってから2年が経っていた。

初ゴールのあの日から、色々なことがあった。

苦しむチームと、必死に役割を探して果たそうとする姿。
退団、新たなクラブでの船出。
怪我と、忍耐と、変化。
迎えたJ通算100試合、そして移籍。

一言や二言では言い表せない、色々な感情が生まれる日々。

アスリートは、1試合1試合に全力を注いで、自身の選手としての全てを捧げて挑んでいる。

上手くいく日、いかない日。
望んだプレーができた日、できなかった日。
コンディションが良い日、悪い日。

色々な思いや状況を抱えながら試合という仕事に臨む。そのかける思いの強さに、胸がいっぱいになる。


FC岐阜から同カテゴリのAC長野パルセイロに移籍した今季。
彼は、加入時のコメントで、「FWとしての決意と覚悟」というフレーズを使った。

前所属チーム、FC岐阜では2列目での起用が多かった。
サイドで勝負の駆け引きをして、ゴール前へ最良のボールを放り込む仕事が主であったように見えた。
彼自身、慣れないポジションの中で得た変化と成長に手応えを掴んでいた部分があったように感じていた。
けれど、僕個人としては応援していて、どこか煮え切らない、形容しがたい気持ちになっていた側面もあった。


2年前、僕が彼のユニフォームを買ったのは、レノファ山口FC時代の得点シーンを見て、泥臭さとゴールに向かう執念を感じたからだった。
当時のSC相模原・高木琢也監督は、彼をストライカーとして「左足振れば入る」と評価していた。

5年目で3回目の移籍。
そして、「FWとしての決意と覚悟」。
ただ応援している自分が皆まで語るのはとても野暮なことだと思うので、この話はここで終わるが、とにかく「そういうこと」なんだと痛いほど感じた。


今季の長野は基本1トップの形を敷きながらも、チーム全体のFW登録は浮田含め3選手という編成。
「期待されているんだ」と開幕前からワクワクした。

御殿場に春季キャンプを見に行き、見たかったポジションでFWとしてピッチを駆ける彼を見た。それだけで胸がいっぱいになった。
やっぱりとことん応援しようと改めて思い直した。


3月3日、対奈良戦。
昨季最終戦以来、3ヶ月ぶりに公式戦に出る彼を見にスタジアムへ行った。
今節はサブからの途中出場だった。

後半60分頃、ベンチのコーチから
「健誠!」
と大きな声がかかった。

強めのアップをしていた浮田がすぐにベンチに走っていき、上着を脱ぎ、背中を見せる。
僕はこの瞬間が大好きだ。戦いに行く人間の背中に、どんどん期待したくなる。

初めて見た「18」に、心が震えた。

選手交代のアナウンスがされ、彼はピッチに入り、1番前のポジションについた。

「これが見たかった」

素直に、強く、そう感じた。


浮田はボールに絡みつつも、なかなか決定機の創出やシュートまでは持ち込めない状況が続いた。

1点リードされた長野は押し込む形も作るも、奈良の守勢を崩せずにいた。
浮田もペナルティエリアど真ん中でひたすらボールを呼び込むも、なかなか押し込めるボールがやって来なかった。

試合の終わりが近付いてきた90+4分、真ん中に放り込んだクロスボールの先に、ボールを見据えた彼の顔が見えた。

頭で押し込んだボールはゴールの隅に転がり、試合終了間際での同点ゴールとなった。

彼が短く、けれど力強くガッツポーズするのが見えた。
泥臭く、ゴールへ向かう執念。左足のシュートではなかったが、彼らしさが存分に出たゴールだったと思う。

転がり入ったボールを見て思わず声を上げたが、次のプレーのため仲間と共に自陣へ引き上げていく彼を見て涙が出た。

苦しいことや辛いことが沢山あった。
上手くいかなかった試合、怪我をした試合、出れなかった試合。
何度も悩み、トレーニングに向かい、自分と向き合ってきたんだと思う。

自身が下した、FWとして評価した高木理己監督率いる長野への移籍という決断。
長野へ勝負に来た「決意と覚悟」が生まれるまでのプロセスを思い出していた。


そしてやってきた、589日ぶりのゴール。

彼の行動が、1つの勝ち点を引き寄せる「結果」に繋がった。
その事実を噛み締めたら、これまで応援してきた日々の記憶が次から次に溢れてきて、拭けど拭けど涙が止まらなかった。
これほど気持ちを乗せられて、プレーで応えてくれる選手を追えること、応援できることの幸せを感じた。

幸いなことに、2024シーズンはまだ2節。
ここから更に飛躍する彼の姿を見れることを僕は確信している。

決意と覚悟を持って長野へ移籍した今季。
FW・浮田健誠として、不退転の思いで、勝負の一年。


浮田健誠選手へ。
2024年、かける思いを示し続けてくれると信じています。
最高の時間をありがとうございました。

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