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今更ながら無限列車を見て感動させられてしまったので、アニメ「鬼滅の刃」を考察してみる回

いや、鬼滅の刃めちゃくちゃ面白くないですか……??

フジテレビで今日無限列車編が初放送されるとのことで、ブームに数年乗り遅れた自分もと思い、この3日でTVシリーズを一気に見終えて今日の放送を迎えた訳ですが、、、本当に面白かったです。


炭治郎立志編も無限列車編も1回しか見ておらず、原作も読んだことがないのでだいぶ疎いかもしれないですが、今回見て感じた範囲でこの作品の考察をしてみます。


○作品全体の構図 -「鬼」について

この作品は「鬼」に家族を惨殺された主人公・竈門炭治郎が、「鬼」化した妹・禰豆子や仲間たちと共に鬼殺隊の一員として数々の鬼を打ち倒し、禰豆子を人間に戻すことを目的とした冒険活劇です。

最近の風潮で言えば、やっぱり進撃の巨人辺りと被るテイストのダークファンタジー的な作品ですよね。


炭治郎立志編を見て感じたんですが、
この作品、悪役である「鬼」の描き方がかなり丁寧なんですよね。

作中に数々登場する「鬼」は、一般社会の人間や鬼殺隊の隊員達を次々に惨たらしいやり口で殺していき、自身の成長の糧としていきます。
鬼は人間を喰らうことで強く成長し、陽の光に晒されると消滅してしまうという性質があります。

これを見て、ふと「理不尽」の象徴だなあと感じたんですよね。

人間、色んな理不尽な死に直面することがあります。
何も他人に咎められることはしていないのに、無差別な暴力の標的となってしまったり、偶然その場にいたことで命が刈られてしまったり。いわゆるテロリズム的な、社会の「陰」側からの攻撃です。

「鬼」は、そういった理不尽を故意にもたらす、人的な厄災の象徴なんですよね。

そして、「陰」側の鬼達にも、そうなった経緯や環境があるわけです。
けれども、それは僕らにとっては理不尽としか言いようがなくて……。


僕達「陽」側の人間は、そういう攻撃に晒される危険性を常に孕んでいます。
そして、それに対する価値観も人それぞれ。

炭治郎は鬼との共存を目指し、
善逸は逃げつつも戦い、
伊之助は真っ向から立ち向かう。

まるで、人間社会の在り方そのものだなと感嘆してしまいました。

そして、炎柱・煉獄杏寿郎のそれは、
真っ直ぐに我々「陽」側社会の道義を貫く、正義の番人そのものでした。


○炎柱・煉獄杏寿郎と「無限列車」の意味

映画「無限列車編」では、煉獄杏寿郎は上弦の鬼・猗窩座との死闘の末、猗窩座の腕に鳩尾を貫かれ死に至ります。

その死闘と死に際のやり取りが、本当に真に迫っていて、泣かせるんですよね。


その最たるシーンが、猗窩座に鬼になり老いることも死ぬこともなく戦い続けようと誘われたときの、この煉獄の返しでした。

老いることも死ぬことも、
人間という儚い生き物の美しさだ。

無限列車での杏寿郎のように、人間は唐突に命を絶たれ、理不尽に人生という物語を閉じざるを得ない局面があります。

しかし、杏寿郎はそれを肯定します。
何故なら、連綿と受け継がれる人間の心や技が、そうした理不尽をも乗り越えて、共同体として幾多の障壁さえも越え得ることを知っていたからです。

母の「弱き者を助けることが、強く生まれたものの責務」という言葉を全うし、自身の死を悟った杏寿郎が言ったことば、

柱ならば誰であっても同じことをする。
若い芽は摘ませない。
もっともっと成長しろ。
そして、今度は君たちが鬼殺隊を支える柱となるのだ。
俺は信じる。君たちを信じる。

これに集約されていると言っても過言ではないでしょう。

この人間の生と死の無限の営みこそが、人間を人間たらしめる存在証明だと、この映画の中で完璧に表現しきっていました。


人間の魂の継承や死や老いの肯定など、この手の題材を扱う作品自体は非常に多いです。
けれど、ここまで概念を抽象化しつつ物語に落とし込み、さらに万人受けする表面的なブラッシュアップまで完璧な作品に僕は出会ったことがありませんでした。
確かにこの作品は流行らない訳がないですよね。


そして、この映画のタイトルにもなっている「無限列車」ですが、これは明らかに煉獄さんの発言を一般化させたことば=「無限」を意識していますよね。

作中で一応先頭車両には「無限」と号されていた、舞台となったこの機関車ですが、実際のニュアンスは「夢現」なんですよね。

映画前半の敵、下弦の鬼・魘夢は「夢現東京」と印字された切符を切る事で鬼殺隊一行を眠らせ、夢の世界に落として殺そうとします。

実際にも夢と現(うつつ)を行き来したり、夢の優しい世界に捕らわれた人達の描写が沢山盛り込まれていて、この列車自体は「無限」ではなく「夢現」という字を当てはめるのが適当だと思われます。


けれど、この映画のタイトルは「無限列車」です。


命を受け継ぐ人間の強さ、そしてそれを鬼に破れ自らの命を失いながらも証明してみせた煉獄杏寿郎の信念、「無限」が「夢現」を超越したことを端的に表す素晴らしいタイトリングだと思います。


生きることや頑張ることそのものが難しいこの時代、単純だけれども刺しにくい概念をこれほどグサグサ刺しまくる作品、本当に無いですよね。

胸を張って生きろ。
己の弱さや不甲斐なさにどれだけ打ちのめされようと、心を燃やせ。
歯を食いしばって前を向け。


10月からは無限列車編とそれに付随するアニオリストーリ、そして12月からの遊郭編とまだまだこの国のアニメシーンを一掃し続ける鬼滅の刃、
このタイミングで出会えて良かったです。

またタイミングがあればこういうアニメ考察もやりたいと思います。それでは。

お読み頂きありがとうございました。

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