見出し画像

エナジーフットボール

3月12日、2023年J3リーグ第2節・ニッパツ三ツ沢球技場をホームとして、福島ユナイテッドFCを迎えての一戦。

折しも、前日である3月11日は東日本大震災から12年目の節目の日となった。
両ゴール裏の横断幕に、
「12年目の日常を全力で」
「3.11を胸に 共に」
とあったように、試合は自分が応援したいクラブを応援することができる日常の喜びや幸せを噛み締める、白熱した展開となった。


前半、相模原は要所でテンポの良いボール運びやセットアップされた組み立てを見せるなど、まとまりのある攻撃をしていたものの、全体的には自陣で押し込まれる展開が続いた。

また、後半も福島が押し気味で、いくつかの危ないシーンがあった。

その中で、選手交代を行って推進力が得られた74分。
バイタルエリアに弾かれたボールをボランチの吉武莉央がボレーで合わせた。
高く弾んだボールが、シュートによって適度に勢いを削がれ、ゴールの左隅へ鮮やかに吸い込まれた。

ネットが揺れた音がした。
ゴールを決めた吉武が、安藤が、前田が、皆が一目散にゴール裏に駆け込んできた。
ベンチメンバーもそれを見て、全員ベンチから飛び出してゴール裏へ走り出したのが見えた。
ゴール裏で応援している僕らと、出場選手、ベンチにいた選手、皆が一体となってこの得点を喜んだ。

1つのプレーに、1つのゴールに、1つの試合に、
魂を込めてプレーしているのが伝わる、情熱的な空間だった。


続く89分、安藤翼が体を張って前へ運んだボールを佐相壱明が受けると、その佐相のピンポイントの高精度クロスの先に待ち受けていたのは、背番号9・藤沼拓夢だった。頭で合わせたボールが、相手GKの脇を抜けてゴールネットを揺らすのが、スローモーションのように見えた。

生まれ変わったSC相模原の中で、昨年、心が枯れそうなほどの悔しい思い、辛い思いをして苦しいシーズンを過ごした2年目の3人のプレーヤーが、見るも鮮やかで情熱的なプレーで得点を奪ってみせた。

藤沼が試合後ゴール裏に語っていた、
「僕達はまだまだこんなもんじゃない」
という言葉をプレーと態度で示す、意地と情熱がほとばしるゴールだった。

試合は後半アディショナルタイムに1失点を許すも、相模原が逃げ切りに成功し、新生SC相模原の初白星を見事に飾った。



ゴールを守ったGK・竹重安希彦の安定感も素晴らしかった。
竹重は2021年10月、京都サンガとの試合中に、靭帯断裂という選手生命を左右しかねない大怪我を負った。

サンガスタジアムの最前列で、ピッチ脇を運ばれる竹重が浮かべていた表情を目の前で見た。僕はあのときの彼の顔が忘れられない。
膝の靭帯が切れても、なおゴールを守ろうと、動かない足をそれでも懸命に動かして戻った。それでも防げなかったピーター・ウタカのゴール。

痛みと悔しさと無念さ、その全てが爆発した、本当に苦しい顔。GKとしてのプライドと背負っていた責任の重みを感じずにはいられなかった。

手術、そして長いリハビリ生活。
あの大怪我から1年5ヶ月。ついに竹重が試合に帰ってきた。「おかえり」という言葉では到底表せないほどの長い時間。その期間どれほど辛かったことか、想像もできない。

久しぶりに見た彼のプレー。
場を落ち着かせる振る舞い、安定感のあるキャッチング、丁寧なボール捌き、そして泰然自若としてブレないメンタル。

僕の知っている竹重がそこにいた。大きな声で指示を飛ばす微笑みの守護神、竹重安希彦。

また見れた。
そう思うと、込み上げてくるものがあった。もっともっと彼のGK姿が見たいと心から思った。


そんな選手たちが試合を終えて、ゴール裏へやって来た。

あの空間には、皆の弾けるような笑顔が溢れていた。90分を全力で戦い抜いた彼等と一緒に行う、初めてのファミリア。

この勝利が、プロで初めてとなった選手も多くいる。
声出し応援解禁後に、一緒に勝利を喜ぶことができたのが初めての選手も多くいる。

開幕戦、鳥取に惜敗して挨拶しながら泣いていた面々の選手が、今日は嬉しすぎて今にも泣きそうなほどくしゃくしゃの笑顔になっていた。

全員で笑いながら飛び跳ねて勝利の喜びを分かち合うあの高揚感。
ああ、きっと彼らは今日の90分に全てをぶつけるために本気でトレーニングを重ねたんだ、と本能的に理解した。

相手を呑み込まんとする気迫、
ゴールへ向けて全員がひたむきに走り続ける姿勢、
得点した時に、全員がまるで自分が決めたゴールかのように盛上がれるあの一体感。
今までに感じたことの無い熱量が、2023年のSC相模原には間違いなくある。

あの選手達の表情とプレーを見れば、彼等がどれだけ真剣にフットボールと向き合い、1つの試合に臨んでいるのか、誰でも理解できると思う。

SC相模原が掲げる「エナジーフットボール」。
彼等はそれを体現しようとしている。
溢れる情熱、飽くなき向上心、勝利へ向けた一体感。
応援しているだけで、身体の奥からエネルギーがどんどん湧いてくる。そんな素晴らしい試合だった。

断言できる。このチームは必ず上がってくる。

試合後、ゴール裏で松澤彰が「まだ1勝。これからどんどん勝とう」と言っていた。このチームなら必ず出来る。

この初めての歓喜を皆それぞれが大切にしまって、また次の試合に臨もう。

まだまだこれから。
けれど、今日確実に、SC相模原の「エナジーフットボール」が、幕を開けた。

頂いたサポートは自分自身の文章の肥やしにできるように、大事に使わせていただきます。本当に励みになります。