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"同志" 戸田和幸監督へ

6月19日、戸田和幸監督解任の一報がSC相模原よりリリースされた。

予想しえなかったタイミングでの監督解任。SNSを見れば、ネガティブな声の乱れ打ち。
ここ数年、SC相模原の名前がこれほどネット上を飛び交った日は無いだろう。


2022年暮れ、クラブは戸田和幸氏を3年契約で新たな監督に迎えることを発表した。
同年、相模原はJ3降格年でありながら最下位。
保有選手はほぼ契約満了。応援している身からすれば、「泥沼」としか形容しようがない苦しい時間だった。

そこに現れた、"あの"戸田和幸。
経験は浅いが、若くエネルギー溢れる選手を大量に獲得し、「共に育ち、共に戦う」SC相模原の新たな船出を見た。

シーズン開幕前、映像媒体でこれでもかと繰り出される「戸田語録」。
そして、「保持・非保持関係なく、全てはゴールへ」の方針から生み出されるユニークな練習、真剣にトレーニングに向き合う集団。
見ていて応援したくなるチームだった。


だが去年、結果はなかなかついてこなかった。
有り体に言えば、「クオリティが足りない」。
目指す理想のフットボールに若い選手の実力がついていかない。その内に相手との力の差を見せつけられて失点を許す。前半戦はそんな試合が続いていた。

思い起こせば、去年のちょうどこの時期が一番監督解任論が囁かれていたように感じる。
何をやっても上手くいかない、勝てない、勝てない、勝てない。先にあるはずの光すら見失ってしまうような、とても辛く苦しい時期だった。

リーグ戦で3ヶ月勝てなかった頃、アウェイ松本山雅戦で惨敗したあと、戸田監督がスタンドまでやって来たことがあった。

戸田監督がトラメガを握り、僕らと同じスタンドで話をした。
「出来ないことが出来るようになっている」「必ず結果を出す」「だからこれからも後押しをして欲しい」

溢れる涙が止まらなかった。
勝てないチームを見ることが悔しかった。努力していることは分かっているし本気なのも分かっていた。けれど勝てない現実に打ちひしがれ、涙が止まらなかった。

そこから、戸田監督はじめチームは不断の努力によって徐々に変容していった。一時は最下位だった順位も、徐々に歯車が噛み合い勝ち星を重ねたことで降格圏を脱出した。

ブレずに成長し続けたチーム、そしてモチベーターとしての戸田監督の素晴らしさに敬服した。

戸田監督は、昨季ホーム最終戦の挨拶でこう言っている。

勝てなかった前半戦があって、それでも選手たちは歯を食いしばって頑張ってくれました。
(略)
監督は結果の責任を全て背負うものですし、その覚悟を持ってこの世界に飛び込みましたので、自分がどこで何を言われても、しっかりそれを受け止めた上でまた次に進もうと思います。

その中で特に、サポーターの方たちに感謝を伝えたいのは、選手をとにかく励ましてくれたことです。
みなさんの我慢強い情熱的なサポートがなければ、自分もですけども、選手たちもおそらく、前を向いて成長と成果のためにチャレンジし続けることはできなかったと思います。

2023年 最終戦セレモニーより

あの勝てなかった前半戦、応援する人の多くがチームに対してどう向き合うかを考えていたと思う。

経緯は省略するが、紆余曲折を経て、ゴール裏はチームを励まし続けるしかないという境地に至っていたような気がする。


年が変わり今季、戸田相模原は超守備的チームとして昨年の倍以上の勝ち点を積み上げ、昇格争いの一角に食い込んでいる。

昨年の苦しい時期を経験したスタンドも、また変容していたように感じる。
今季、敗戦後のゴール裏スタンドは激励の声が飛び交い、選手や戸田監督がその声に真正面から向き合う構図が続いていた。

6/8のアウェイ奈良戦の敗戦後、選手や監督・コーチが試合が終わってすぐ、ゴール裏まで走って挨拶にやってきた。

選手達は誰も下を向いていなかった。
「切り替えるぞ」「すぐまた準備しよう」「次勝つんだ」「信じてるぞ」
色んな声が飛んだ。
皆真っ直ぐゴール裏の人々の顔を見ていた。

戸田監督は選手たちの列の真後ろまで僕らに近づき、ずっと拍手を送っていた。

たくましいチームになった、と感じた。

屈辱にまみれて、試合後多くの選手が泣いていた去年のSC相模原は、もう見る影もなかった。


それだけに、アウェイ3連戦(うち1戦は天皇杯)の3連敗は非常に痛かった。
今季の定まらない得点パターン、また新たな形の失点シーンなど、若干淀んだ空気が出た感は否めない。

過去、昇格をしたクラブたちの敗戦数や連敗数、また現時点での勝ち点、および保有選手の契約年数等を考慮すると、クラブが決断に踏み切った背景はおおよそ見当がつく。
クラブを応援する身としては、まだ感情的に納得はできないが理屈として理解はできる決断だと感じている。


だがしかし、やはり想定外のタイミングだった。
1年半の積み上げを感じていた最中、これからまた一皮むけるチームが見れるのではないかとワクワクしていた自分は確かに存在していた。
その楽しみが無くなってしまった無念さ、そして、あれだけブレずにフットボールと向き合いクラブのために汗を流した戸田監督が突然居なくなってしまう空虚感。
まだ僕は折り合いをつけることができないでいる。

解任にあたって、戸田監督は下記のように言っている。

昨シーズンから毎試合、若く不安も多かった若い選手達を必死に励まし支え続けてくれたサポーターの皆さん、あなた達は僕にとってまさに文字通り同志だと言える存在でした。
あなた達があなた達でなかったなら、僕はここまで頑張っては来られなかったと思います。 若くプロとしてこれからの選手とチームを自分と一緒に励まし支えて欲しいという自分からの働き掛けに真正面から向き合ってくれたあの日から、自分と皆さんは同志となりました。 どんな時も決して選手達を非難する事なく、出来るようになる事を期待し勝利出来るようになる事を期待し、とても忍耐強く笑顔を忘れず毎試合毎試合支えてくれた事を忘れる事はありません。
選手とチームにはあなた達が必要です、是非これからも変わらぬ皆さんでいてください。

戸田和幸監督 解任に際してのコメントより

"同志"

やっぱりもっと戸田さんのチームを見たかった自分がいる。別れが悲しい。

けれど、時は進む。次節はすぐやってくる。
奇しくも次節は、あの屈辱を味わい、戸田和幸を信じようと思った松本山雅戦。


戸田和幸監督が作り上げたチームを信じて、
勝利し成長する姿こそが"同志"への明るいメッセージになると信じて、
全霊の感謝と心からの敬服の念をこめて、またSC相模原を応援する。


けれど、ちゃんと言葉でも伝えたい。

"同志"の行く先が幸多き道であることを心より祈念いたします。
戸田和幸監督、SC相模原に来ていただきありがとうございました。

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