見出し画像

勝ちたいに決まってる。

若い選手だから……。
これから成長してくれるから……。

開幕してからの3ヶ月間、なかなか勝ち点3を積み上げることができない今年のSC相模原(1勝5敗6分)に対して、こう言い訳して納得しようとしていた自分がいないと言えば嘘になる。

まだ何者でもない、2023年のSC相模原の若い選手たち。Jリーグ未経験の選手や学卒のルーキー選手も多い。
彼等がこれから羽ばたけるように、飛躍できるように、今は膝をぐっと屈んで、我慢しよう。そう思っていた。

それなのに、僕は試合後、人目を憚らずに声を押し殺すことも出来ずに泣いていた。
とても悔しかった。悔しくて悔しくて涙が止まらなかった。

6月3日、J3リーグ第12節、松本山雅FC対SC相模原。

サンプロアルウィンの対岸にそびえる緑の壁からの大応援。
この雰囲気のスタジアムでプレーしたことのある選手は、今のSC相模原にはそう多くない。
対岸からでも聞き取れるチャントの歌詞、プレスの度にあがる歓声。

Jリーグ有数の"圧"を作り出す山雅サポーター、そしてフットボールで熱狂空間を作り出すこのスタジアムが僕は大好きだ。


試合は荒れた。
立ち上がりの8分、不用意と表現するしかないオウンゴールで先制点を献上すると、所々良い攻撃を見せるも中盤までは松本のペースで試合が進んで行った。

特に20分台から50分台にかけては、相模原がボールを持っても、出しどころを限定されたり組み立てが上手くいかないなど、いわゆる"ボールを持たされている"展開が続いたように感じた。

そうこうする内に、サイドからの攻勢を強めた松本にゴールを許す展開となった。

前半に2点目、後半も序盤に3点目。
4点、5点。失点が止まらなかった。

松本攻撃陣の精度も然ることながら、この試合の相模原の守備はあの時間帯崩壊したと表現しても差支えのない崩れ方をしていた。

松本は3得点目以降、ボールを持ったらフィールドプレーヤー全員が敵陣に進入し、高い位置でボールを危険なエリアへガンガン送り込んできた。

「ボーナスステージだと思われたな」と感じた。
厳しいシーズン、得失点差も積める試合でなるべく積むに越したことはない。
相模原の心を折って大量得点しようと、そんな意図が読み取れる怒涛の攻撃だった。

0-5。サッカーではなかなか見ないスコアだ。
5失点目の直後、すぐに1点を返したが、それでもなお4点差。

5失点した時、僕の心はもう折れかけていた。
正直に言うと、試合終了の笛が鳴った瞬間に荷物を持って帰ろうと思っていた。

上位の松本山雅との彼我の差を感じて、もう今日は勝ち負けにこだわるのは止めようとすら思ってしまった。
90分が終わるまで、選手たちの良いプレーを見つけよう、終わったらすぐ帰ろう。そう自分を納得させて試合を見てた。

風向きが変わったのは、選手が交代した70分台後半辺りからだろうか。

相模原の選手達に、躍動感が生まれ始めた。
不協和音を響かせていた歯車が1つ、また1つとハマっていき、連動して動き始めていく感覚。
スペースに走り込む選手、いい距離感を保って選択肢を広げる選手、最良の選択肢をとる選手。
まるで、チームが息を吹き返して、有機的な生き物を形成しているかのように、ボールが回り始めた。

残り20分もない時間で4点差、普通に考えれば、もう勝ち点を得るのは不可能だと思う。
それでも必死に、松本山雅のプレスをかいくぐろうと、クロスを入れようと、ボールをゴールへ流し込もうと、果敢にトライし続けた選手達がいた。

少し斜に構えていたはずなのに、気付いたら、目が涙でいっぱいになっていた。
心を折ろうとしてくる相手に精一杯立ち向かい、圧を跳ね返そうとする選手たちを見て、泣いてしまった。

松本山雅に勝つために1週間トレーニングを積んできたであろうチーム。
5失点して、悔しくない選手などいる訳がない。

悔しさにまみれ、それでも顔を上げて相手と堂々と対峙する彼等を見て、心が熱くなった。

87分、エリア内の押し込みで相手オウンゴールを誘発すると、
間髪入れずに88分、相手GKが居なくなったゴールに栗原イブラヒムジュニアが丁寧にボールを流し込み、3点目を挙げた。

3点目が入った時、僕は思わず「早く!リスタート!」と叫んでしまった。
それが、勝てない言い訳をしていた自分の存在に気付いた瞬間だった。
勝負なんだから、勝ちたいに決まってる。あんなにチャレンジする選手を見て、勝たなくていいなんて、思える訳がない。

そして、将来のためとか次への腰掛けとか、そんな気持ちでプレーしている選手があの瞬間あのピッチには誰一人いなかったことが、本能的にわかった。


3-5で試合終了。結果として、相模原は勝ち点を得ることは出来なかった。

いつも通り、アウェイスタンドへの挨拶の後ピッチ上で行われる円陣ミーティング。

その直後、戸田監督がひとり、ゴール裏へやってきた。誰かから呼ばれた訳ではなく、自らの意思で、アウェイスタンドへやってきた。

サンプロアルウィンのピッチからスタンドに繋がる階段を上り、腰の高さほどの柵を乗り越えた。
スタンドの端からいつもと変わらない調子で少し歩いて、僕たちのいたゴール裏の最前列、目の前に戸田和幸監督がやってきた。

数分前までコールリーダーが握っていたトラメガを譲り受け、戸田監督が1分ほど僕らに思いを語った。

勝てていないこと、それでも選手はチャレンジし続けてくれていること。
出来ないことが出来るようになっていっていること。
勝てていなくて、その責任は全部自分にある。けれど勝てるように、結果を出していく。
だからこれからも後押しをしてほしい。

監督が自らの意思でサポーターの中に来て、自分の言葉で思いを語った。見たことの無い光景だった。


戸田監督の心意気に心を打たれたのと同時に、
「こんな監督の下でトレーニングして試合に出る選手たちが本気じゃないわけがない」と、直感的に信じられた。

本気でやっている、けれど勝てない、けど絶対勝てるようにする。
チームの気持ちに触れて、自分の中で今まで隠そうとしてきた悔しさが爆発してしまった。

勝ちたい、勝ちたい、勝ちたい。今まで留めていた分、涙が溢れた。

勝ちたいに決まってる。全試合勝って欲しい。
相手が大学生だろうが、松本山雅だろうが、J1クラブだろうが、どんなクラブが相手でも全ての試合で勝って欲しい。負けたくない。

言い訳して見る必要なんてない。
そこに勝利をめざして全力で相手にぶつかる選手達がいる限り、僕は全力で応援するし、負けたら涙が出るほど悔しい思いになる。

勝とう。正しい努力が実を結ぶと証明するために。
勝とう。プライドと実力を示すために。
勝とう。その先に差す光があることを信じて。


一戦必勝、SC相模原の熱い熱いシーズンをこれから作っていこう。

頂いたサポートは自分自身の文章の肥やしにできるように、大事に使わせていただきます。本当に励みになります。