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"負ける"ということ。

「勝敗は兵家の常である」

全身が震え、すぐさま叫んで走り出したくなる衝動に駆られる勝利もあれば、唇を歯型が残るほど噛んで、溢れ出しそうな悔しさをグッと内に秘める敗戦もある。
今節は、後者だった。

2021年11月21日のあの劇的過ぎる勝利からまだ5ヶ月足らず。未だに逆転弾が流し込まれたときの感動と興奮ははっきりと思い出せる。

あの試合の後、愛媛FCのゴール裏のサポーターが試合終了と同時に一斉に崩れ落ちるシーンが映った動画を見た。僕が膝に手をついて涙を流して喜んでいた時、その真反対のスタンドには壮絶な地獄を見た人がたくさんいた。
当時、高木琢也監督は「ともすれば、我々が逆の立場になることも〜」というコメントを残し、試合のエンタテインメント性・得点シーンの特異さと共に、Jリーグ全体でもトップクラスに耳目を集めた試合だった。

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今節は、その立場が正に反対となる試合になった。

試合は前回同様愛媛が全体的に押し気味の展開だったが、82分、MF藤本淳吾の左足が先制弾を叩き込んだ。

ゴール裏からは、藤本の蹴ったボールがゴール隅に吸い込まれていくのがスローモーションのようによく見えた。

美しいゴラッソだった。


しかし84分、CKから愛媛に同点を許すと、89分にもう一点を沈められ、目にも止まらぬ逆転劇を見せつけられた。

試合はそのまま終わり、愛媛FCにとっておよそ1年ぶりとなるホームゲーム勝利をSC相模原は献上する形となった。

逆転弾が決まった時と試合終了の時のニンジニアスタジアムの大歓声は凄まじいものがあった。

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今節、愛媛FCのゴール裏には、「NO MORE 11.21」の横断幕が掲げられていた。
それほど愛媛サポーターにとって5ヶ月前のあの試合は悔しい敗戦で、今節は相模原を真っ向から叩き潰したいという気持ちが伝わってきた。

スタジアムに詰めかけた大多数の愛媛FCのサポーター・ファンにとっては、胸のすく感動的な勝利になったことは想像に難くない。

そして、SC相模原にとっては、悪夢としか言いようのない、目を覆いたくなるような敗戦だった。



僕はサッカーを見始めて2年目で、まだまだこのスポーツの奥に深く根を張った知識や勝つための手管について知ることができていない。
それでも、今季の相模原が開幕前の予想より上手く試合を展開できず、苦しい試合が増えていることは分かる。

ここではその内容については一切言及しないが、歯車が噛み合わないもどかしさや結果が出ないことに対して、落ち込んだり、腹が立ったり、ぽっかりと胸に穴が開いてしまったり、見ている側は色々な気持ちを抱く。


J3リーグは基本週に1試合、週末のみの開催になっている。
クラブが勝てば次の週はずっと気持ちよく仕事に臨めるし、反対に負けてしまえばどんよりした気持ちを引きずったりもする。

そして、1週間後の次節に思いを馳せながら、平日を生きる。
そんなライフルーティンが僕にも定着してきた。

前節・松本山雅戦で大敗を喫し、続く今節でも痛恨の逆転負け。正直気落ちはする。

だが、次節はやってくる。


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試合終了後のニンジニアスタジアムはピッチが子供たちに解放され、皆が思い思いにサッカーを楽しんでいた。

その頃、アウェイゴール裏スタンドでは、試合前に張った何十もの横断幕の撤収作業を行っていた。
それなりの試合数アウェイのゴール裏に行っておきながら、実は僕はこの設置・撤収作業をしたことが今まで一度もなかった。

参加してこなかった経緯等は省くが、今日僕は初めて横断幕に触って、数選手分の横断幕を撤収した。

選手の名前が書かれ、スタンドを彩る大切な横断幕。
柵に結ばれた紐を解き、畳んで、いつもゴール裏にいる方々が運んできたスーツケースに詰め込んでいく。

選手との接触が制限される昨今の状況、僕には選手一人ひとりの横断幕が、その選手の分身のように思えてならなかった。
シーズンを跨いで相模原に在籍してくれている選手の横断幕は所々傷みがあって、共に過ごした時間の長さを感じた。

陽光が強く差す日も雨の日も、大勝した日も大敗した日も、飛び跳ねて喜んだ日も涙を流して悔しい思いをした日も、その多くを共に過ごしてきた横断幕の数々を目の当たりにして、不思議な気持ちになっていた。


試合後、アウェイゴール裏スタンドに挨拶に来た選手達は、皆一様にやるせなさと悔しさを噛みしめた顔をしていた。

今日の負けは選手もニンジニアスタジアムに訪れた僕達も、中継を見て応援していた人達にとっても、等しく重たい気持ちをもたらすものだと思う。
けれど、僕を含めた多くの人はまた平日になればいつもと変わらない日常がやってくる。
そして、選手・スタッフ達もいつもと変わらない練習と修正の時間を積み重ねて一週間を過ごすことになる。

やるべき内容は多少変われど、勝っても負けてもまた準備の一週間がやってくる。


であるならば、より有意義な準備の時間になる方が良いに決まってる。

試合後の挨拶に来た時、僕は自然と推し選手・FW浮田健誠のユニフォームを掲げていた。
自分でもどうして掲げたのか、うまく説明はできないが、"僕達はここにいる"と言いたかったのかもしれない。


ファン・サポーターとは、時に無力だと空しくなることがある。

僕達観客はピッチのプレーに直接関与することは出来ない。
けれども、勝って欲しい、優勝して欲しい、もっともっと凄いクラブになって欲しい、そして、大好きな選手達と一緒にたくさん喜びを分かち合いたい、笑いたいという気持ちを持っているし、それが選手に伝わるように表現したい。

「プロは結果が全て」
それは本当にその通りだと思う。
下手な慰めの言葉や、気を遣う言葉はかえって失礼に値するかもしれない。

結果に関与できない僕が出来ることは、何かが少しでも良い方向に傾いて、良い結果に繋がる一助になるよう、好きになった選手たちの笑った顔が見れるよう、応援している人間がここにいるぞとアピールすることしかない。


試合に負ければ、
悲しいし、辛いし、悔しいし、苦しい。

けれども、僕達はそういう思いを味わいたくて試合を見ている訳ではない。
そして何より、それは選手・スタッフをはじめとしたクラブ関係者もきっと同じだと思う。

であるならば、歌えなくても、叫べなくても、言葉で伝えられなくても、やることは決まっている。


あの数々の横断幕と同じように、次節・アウェイ福島戦も僕はスタンドから"ここにいる"と伝えていると思う。
ほんの少しでもいいから、何かの助けになって、皆で喜べるように、笑い合えるよう願って。

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