【活動報告】鎌倉での進路支援合宿2024
NPO法人glolabでは現在、①進路選択への伴走支援(キャリア教育、進路支援)、②外国ルーツの若者が支え合うコミュニティづくり(地域の多様な関係者と連携・協力を含む)に軸足を置き、2つのプログラムと1つのプロジェクに注力しています。
その中の1つであるCOLORFUL~未来を創造する進路支援プログラム~の課外活動として鎌倉での合宿を行いました。今回は鎌倉市市民活動センターの
ご協力をえて、市内の企業や学生団体との連携も実現した貴重な機会となりました。この記事は活動報告と事例紹介を兼ねており、読者の皆さんにとって当団体の取り組みへの理解を深めていただくことに加え、何かしらの参考になれば幸いです。
合宿の概要
・日程:2024年8月(日)〜19日(月)
・参加生徒:外国にルーツをもつ高校生 3名(文中では「生徒」と表記)
・参加費用:参加者は交通費のみ実費
・合宿のスケジュール:
なぜ鎌倉で合宿?
まず、当団体が支援している外国ルーツの高校生(以下、生徒)の進路選択に関する課題傾向として、
・高校やアルバイト先以外での日本社会(自身のコミュニティ以外の地域)との繋がりがほぼない
・自身の進路の可能性を限定的に捉えている(選択肢がない、自ら決定できないと感じている)
・(自らの可能性に制限をかけて)周囲の期待通りの自分になろうとするということが見受けられます。
そのような課題を打破する取り組みの1つとして、2022年に鎌倉市内において、社会人と共に外国ルーツの中高生(10名程度)を引率し1泊2日の合宿を行いました。その中で、参加生徒が目覚ましく成長し、参加者同士の横の繋がりも形成されていきました。
そちらの活動は現在休止をしていますが、その経験を反映させた形で
現在展開中の「COLORFUL〜未来を創造する進路支援プログラム〜」の課外活動として、この合宿をパイロット実施することにいたしました。
また、この合宿では生徒が地域社会の大人(センパイ)との交流を通じて新たな刺激を受けることで、自己理解を深めたり、多様な進路の可能性を知り視野を広げたり、繋がり(仲間)を作る機会を提供したいと考えました。
生徒にとって多様な背景・価値観をもつ大人や近しい世代のセンパイと出会い刺激を得られるような機会を創出すべく、鎌倉市市民活動センターに相談したところ、合宿の趣旨に賛同・協力いただけそうな組織をいくつか紹介いただきました。最終的には学生団体の「ニューコロンブス」様と鎌倉に本社をおく「面白法人カヤック(株式会社カヤック)」様からのご協力を得られることになりました。
合宿での主な活動
合宿は本プログラムの軸である「自己を理解する・社会(仕事)理解する・未来を描き具体的に計画・実行する」という3つの要素を組み込んだ内容にしました。それらの要素を反映した主な合宿中の活動をご紹介します。
自己理解を深めるワークショップ:アートで自分をのぞいてみよう!
参加生徒の日本語の能力差があることも踏まえ、「絵」を通じて自己理解を深めてもらうワークを行いました。また、生徒が取り組みやすいように
「私の好きな時間」というテーマで、正方形のキャンバスに思い思いの絵を絵の具やペンで描いてもらいました。
始める際には、このワークは絵の上手い下手は全く関係ないこと、そしてキャンバスに向き合う時間のなかでこれまでの自分を内省してもらいたいことを伝えました。運営メンバーの想像以上に生徒たちが集中して作成していたため、結果的に個人ワークの時間を延長し1時間ほどかけて描いてもらいました。
個人ワークの後には一人一人描いた絵について紹介してもらいながら、どんな想いで描いたのかについて語ってもらい、さらに内省を深めてもらうために運営メンバーから質問を投げかけましたが、どの生徒も自分の好きな時間について熱心に説明してくれました。ある生徒は音楽をヘッドフォンで聴く自分自身を描いてくれましたが、自分の顔にはあえて口を描いていませんでした。その理由は「自分はシャイなので、喋るのがあまり好きじゃない。音楽を聴いている時は話す必要がないからリラックスできる。」という風に語ってくれました。
社会(コミュニティー)を知る:海洋ゴミでネックレスを作ってみよう!
今回ご協力をいただいた学生団体の「ニューコロンブス」は、鎌倉市周辺で学ぶ大学生・高校生を中心に構成されており、その中で海洋ゴミの一種であるマイクロプラスチック(直径5ミリメートル以下の微細なプラスチック)を使ったネックレスやキーホルダーの制作・販売をされています。
海に面した鎌倉市では残念ながら海洋ゴミが漂着したり捨てられており、
ニューコロンブスではビーチクリーニングを通じてそのようなゴミを回収し、地元企業の協力を得て粉砕しネックレスやキーホルダーの原材料を作っています。そして、その原材料を使って鎌倉周辺で行われるイベントや体験学習のなかで海洋ゴミの問題について啓発活動を行いながら、ネックレス作りの体験も提供しています。
今回の合宿では、ニューコロンブスメンバーよりまず団体紹介をしていただいた上で、海洋ゴミによる環境問題について解説をいただき、ゴミを正しく処分・再利用することの大切さについてキーホルダーづくりを通じて教えていただきました。生徒たちは海洋ゴミ問題が社会に及ぼす影響への理解を深めつつ、ゴミから綺麗なキーホルダーを作れることに驚いていました。
同世代での交流:みんなで役割を決めて準備!BBQパーティー
初日の夕飯は、参加者同士の親睦を深めるためバーベキューパーティを行いました。事前に生徒側から1名バーベキューリーダーを決めていたのですが、その生徒を中心にみんなで役割分担をしたり、その後の準備作業をスムーズに進めている様子が頼もしかったです。
また、宗教上の理由からハラール食しか食べられない生徒がいたため、B B Qで焼くお肉はハラールとそうでないものを分けて調理をしました。
しかし、ここでハプニングが発生!本来、ハラールのお肉はしっかりと血抜きをする必要があるのですが、準備していたのはまだ血抜きが済んでいない肉でした。そのため、その生徒がお母さんから電話越しに調理方法のアドバイスをもらいながら血抜き作業をするという想定外の事態になりましたが、生徒自身は初めて自分で肉を捌く体験ができて楽しそうでした。
パーティーの中では、生徒とニューコロンブスのメンバー同士が自然に会話をしている姿が印象的でした。また、パーティーには鎌倉で外国人の子育サポートを中心に活動しているNPO法人まるまーるのメンバーや生徒が所属する学校の先生にも参加いただき、賑やかなパーティーになりました!
仕事を知る:面白法人カヤックでの見学と「まちのコイン」の体験
合宿2日目は面白法人カヤック(株式会社カヤック)に伺い、ユニークな事業活動や社員の方2名に仕事に臨む想いや姿勢についてお話を伺いました。
カヤックは日本的面白コンテンツ事業を多岐にわたり展開している企業であり、その中でも「まちのコイン」という地域の魅力を発見するコミュニティ通貨アプリを運営しています。生徒は企画部のプロジェクトマネージャーの方からまちのコインを始めた経緯や想い、事業展開していく中でのチャレンジを真剣な表情で伺っていました。
事業について学んだ後は、技術部のエンジニアをしている中国出身の社員の方から入社の経緯や日本でのキャリアと生活について率直なお話を伺うこともできました。生徒はその社員の方の飾らないライフストーリーを熱心に聴いていました。
社員の方々との交流の後は、社屋内にある「もったいないマーケット」を見学し、実際にまちのコインのアプリ(鎌倉では「クルッポ」という通称)を使い、ポイントと自分たちの気に入ったものを交換するという体験もしました。ある生徒は好きなデザインのバッグをポイント内でゲットして、「お母さんへのお土産に!」と言ってとても嬉しそうにしていました。
未来を描き具体的に計画する:総まとめワークショップ
2日目の午後は七里ヶ浜に近い貸しレンタルスペースにて合宿の振り返りをするとともに、進路についての自分の希望を言語化し具体的なアクションを考えるワークを行いました。生徒たちは学年が異なるため、いますぐに進路を決める必要のない生徒もいれば、秋からは受験が始まるという生徒もいる状態だったのですが、各々のステージを踏まえながら、進路についてどう考えているのか、こから数ヶ月のうちにどんなことに取り組みたいのかをじっくり考えてもらい、各自から発表をしてもらいました。
卒業まであと2年ある生徒からは「私はまだ自分の進路が決まっていないです。だけど、これからいろんな人と話をして決めていきたいです。」と素直な考えを共有してもらいました。また、受験を控えた生徒からは「9月には受験があるので、いつまでに〜をして準備をしていきます。」という具体的なアクションプランをシェアしてもらいました。
ワークショップの最後は近くの七里ヶ浜を散策したり写真撮影をして、
鎌倉を最後まで満喫し、鎌倉駅で解散・帰路につきました。
振り返り
今回の合宿は諸事情により急遽開催を決定したため外国にルーツをもつ高校生の参加数は少なかったのですが、鎌倉地域に根ざす組織・団体・企業の方々との新たな連携をさせていただくことができ、何よりも参加した3名の生徒がたった1泊2日の短い期間の中でも目に見えて成長(変化)していたこと、そして本人たちが活き活きと合宿に参加してくれていたことが大収穫でした。
自分にとって馴染みのある場所(学校、地元、コミュニティー)から飛び出して、慣れない場所で初めて会う人たちと交流したり、普段しない経験をすることは生徒にとって進路を考えるための良い刺激になったようですし、この合宿の目的をある程度達成することができたと感じています。
今後も実施していくにはいくつかの課題を乗り越えていく必要がありますが、来年も実施できるように準備をしていきたいと思います。
報告:城島