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パン職人の修造30 江川と修造シリーズ フォーチュンクッキーラブ 杉本Heart thief
パンロンドの昼下がり
「いらっしゃいませ」
焼き立てのパンを店内に並べながら風花が言った。
そしてまたパンを並べ始めた。
丁度フランスパンの出来立てが並ぶ時間で、沢山の種類のパンをカゴに盛り、値札をつけていた。
その男はいつの間にか帰り、しばらく店でパンを並べるのに集中していた風花を見て奥さんが叫んだ。
「わ!風花ちゃん!背中どうしたの?!」
「えっ?」
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風花は背中の事なので気が付かなかったが、ジュースのストッカーに写った自分の背中を見て「あっ!」と叫んだ。
制服の白いTシャツの右の肩甲骨あたりから左斜めに向かって十五センチほど切れている。
「いつのまに!引っ掛けたんでしょうか?」
「そうなのかしら?代わりの服を持ってくるわね」
奥さんが倉庫から新しいユニフォームを持ってきて「ほらこれに着替えておいでよ」と言った。
「はい、すみません。気をつけます」
風花がTシャツを着替えて「これ、どうましょう?」と聞いてきたので「私が縫って使うわよ」と奥さんが言った時、奥から騒ぎを聞いていた修造と杉本が店に出て来た。
「見せて」
「さっき見た時は切れてなかったなあ」
「随分鋭利なものでスッと切れてるな」修造が切れた布目を見た。
「何かに引っかかったならこんな切れ方しませんよね?切り口がギザギザしますもん」
「店にそんな切れ方するところがないもんな」
「誰か変な人は入ってこなかった?」
「それが全然見てなくて」と風花が言うと、奥さんが「何人かお客様がいらっしゃったけどそんな怪しい人いたかしらね」と首を傾げた。
修造は風花に「お店っていうのは不特定多数の人が入ってくるんだ。こちらは何も知らなくても向こうは何かしら思って入ってくる時もある。ほとんどの人が普通にパンを買いに来ている、でも、中には敵意を持ってきたりする人もいる。それが露わになってる時はわかりやすいが、隠し持ってる時は中々わからない。笑顔でお迎えして挨拶する瞬間にどんな表情か見ておくと良いよ」と忠告した。
「わかりました」風花は目つきが鋭い修造が怖かったが、アドバイスはなる程なと思った。
たしかにお店にいるとどんな人が来店するかは顔を見るまでわからない。
とは言え敵意を隠し持ってる人なんて分からないかも。
修造は切り口をなぞりながら「これって誰かが切ったとすると、ナイフって切る時は刃の腹の部分で切るか突き刺すかになる。カッターなら先でこんな風にスッと力を入れずに切ることができる。多分カッターですよね」
「え!怖い」
「しばらく店に出ないで中で働かせて貰ったら?それで何もなければ良いし。気をつけるに越した事は無いよ」修造は杉本の方を向いた。
「念の為帰りは家まで送ってってやれよ」
風花が自分の事を怖がってると薄々気がついていた修造は杉本に言った。
「はい、無事に送り届けます!」杉本が張り切って言った。
—-
そしてその帰り道
二人で歩きながら
杉本は風花に聞いた。
「何か身に覚えのある事は無いの?」
「カッターの事?いいえ全然無いわ。でもカッターで切られたとはまだ決まってないわよ。私全然わからなかったの」
「店でなんかおかしな事があったらすぐ呼んでよ」
「私あの後店に出なかったから明日もそうなると思う」
「その方が良いよ、風花が可愛いから狙われたのかも」
「そんなわけないわよ可愛くないもん。私何かしたかしら恨まれるような事」
杉本は可愛くないもんと言う風花の言葉に何言ってんだという表情を浮かべながら「やばいやつなのかな?まあ店と工場の間で俺を手伝ってくれたらいいよ」と言った。
「厚かましいわねホントに」
笑い合う二人を離れた所からつけてくる男に杉本は全然気が付かなかった。
風花はしばらくの間、店と工場の間で働いていたが店も平和だし、別段何も起こらなかったので奥さんに言った。「あの、多分あれは何かに引っ掛けただけかもしれません。もう大丈夫と思うので、前みたいにお店で品出しします」
「わかったわ、でも気をつけてね。何かあったらすぐ呼んでね」
「はい」
風花は顔は怖いが心の優しい修造の言葉を思い出して、笑顔でお迎えしながらお客様の表情をよく見ていた。
たしかに色々な気分でパンを買いに来る人達がいるんだわ。
イライラしていて急いでる人もいるし、逆にゆったりと買い物して店員と話がしたい人もいる。そうだわ、そんなお客様には自分から話しかけよう。
お昼頃、風花は以前のようにフランスパンの焼き立てを並べていた。
色んな種類のパンをカゴに入れて値札をつけていく。
「いらっしゃいませ」
入ってきたお客さんの表情を見た時「あっ」と思った。紺色の帽子を目深に被って風花を一瞬見た。
年齢は三十ぐらいで身長は百七十センチぐらいの男だ。
風花はこの人かも知れない!と思ったがまだわからないのでわざと背中を向けて意識を背後に集中してみた。
するとそのお客さんはトレーとトングを持って店をゆっくりと一周してから段々風花の背後に近づいて来た。
なんだか背中がピリっとする。
後ろに立ったわ!
そう思った時
カチッ
とカッターの刃を出す時の音がした。
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振り向くと風花に向かって刃の出たカッターを向けていた
「キャー助けて!」
不思議なものでこんな時は練習しなくても高い声が出る。
声を聞いて杉本が飛び出してきた。
「なんだー!」
男は杉本の声に驚いて逃げようとした。
奥から走って出てきた杉本に、慌ててトングとトレーを投げつけてきた。
「うわ」杉本がそれを避けた隙に男は店から飛び出して行った。
「待てーーっ!」
つづく
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