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やのやのやのと見習いの俺



あらすじ
義理の父親の暴力から逃れてきた間光太郎(はざまこうたろう)は過去の記憶に苦しむ職人矢野寛吉(やのかんきち)と出会う。これまで虐げられ、世の中の事を何も知らない光太郎だったが、寛吉の言葉や根気のある対応からやがて優しさや仕事の本質、承継について考えるようになる。



本編

「やのやのやのと見習いの俺」





最悪の夜だった。



母親が男と出て行ったその日

俺、間光太郎は義理の父親と狭いアパートに取り残された。



深夜1時



「高校は辞めてきたんだろうな」

「ああ」

「お前みたいな奴顔を見るのもうんざりなんだよ、あいつは何処の男と出て行ったのか本当に知らないのか」

「知らねえよ」

義理の父、間廣記は俺の胸ぐらを掴んで頬に二発パンチを繰り出した。

「働き先を見つけてるから申し込め。受け子だよ、受け子。それとも臓器を売り飛ばすか。お前なんて生きてても仕方ないんだから、死んで俺の役に立つのも悪くない。お前の母親もクズの男と出て行きやがって。クズ親子めが」

「クズはお前だろ、俺はそんなバイトやらねえから、死ぬのも嫌だね」そう言って廣記の腕を振り解いた。

「何!口答えしやがって」

廣記はいつになくしつこく俺を殴った。

これ以上殴られると死ぬ、そう思った俺は肘でパンチを弾いて足を蹴り飛ばし、アパートから飛び出した。階段を駆け降りて振り向くと廣記は追いかけて来ていた。

「待て!このガキ」

「やばい」

捕まったら叩きのめされる、そう思う様な形相で追ってくる義理の父親から逃れる為に暗い夜道を走った。

はあ

はあ

息を切らせて振り向くと廣記はあと数メートルの所まで来ていた。

全力で走って狭い小路に入る。自分に当たりそうになったゴミ箱を倒してまた逃げた。走っていると段々道幅が狭くなって行く。



「このままだと捕まる」一軒だけ灯りの付いている家の裏口が少し開いている。ガタガタのボロい木の引き戸を開けて急いで鍵を閉めた。

はあ

はあ

はあ

息を潜めようとしてもどうしようもない。口に手をやって入り口から見えない左手の部屋に入った。

電気の消えたその部屋はどうやら台所らしい、その横は階段だ。

その様子を奥にある電気の着いた部屋から見ていた五十歳ぐらいのおっさんがいた。

訝しそうに見ている。

俺はシーっと人差し指を口に当てて『静かに』のジェスチャーをした。

廣記が通り過ぎたら反対側に逃げるつもりだった。

廣記の足音が聞こえてきた。

通り過ぎて行く音を聞いて、この音が聞こえなくなったらすぐに飛び出す。

と思っていたら足音は引き返してきた。

廣記が扉をガチャガチャ動かしたり叩いたりして「開けろ!開けろ!」と騒いでいる。

奥からおっさんが出てきた。じっと俺を観察しながら横を通り過ぎ、扉を開けた。

「ここにガキが隠れてるだろ!この道の先は行き止まりじゃねえか」大きな廣記の声に身をすくめて見えない様に壁にぴったり張り付いた。

おっさんは「なんだおめえは!こんな時間に」と語気を強めて言った。

「見せて貰うぞ」と廣記が勝手に入ってこようとするのを制止したのかドン!と壁が震える。




「いたたた」

廣記の痛がる声が聞こえる。

「ここにいるのはワシ一人だ。分かったらさっさと他所へ行け」

廣記は俺には暴力を振るうが、身体も細く、いつも何かに怯えている。一方おっさんは肩と腕の筋肉がモリモリだった。

揉み合っても勝てそうにないのか、廣記は「わかったよ」と言って腕を振り払い出て行った。

他を探す為か急いで遠ざかる足音を聞いて、俺はその場に座り込んだ。

おっさんはタオルを持ってきて「すぐ出ていけよ」と渡して奥の部屋に戻った。

俺は顔についた鼻血を拭きながら黙って頷き、座って奥の部屋に目をやった。

古びた建物の古びた部屋には、見慣れない機械が狭い空間に置いてある。

ウンウンウンウンという連続音が聞こえてくる。

おっさんは部屋の真ん中の平たい台の上にプラスチックの大きな箱から何か出して、それを右手に持った金属のもので切り分け出した。

あ、あれパンの生地なのかな。

全て同じ大きさに分けたあと、太い両手で丸めて箱に入れ、その箱がいっぱいになるとまた次の箱へ入れて行くのを見てるうちに猛烈に眠くなってくる。

時計に目をやるともう4時だ。連続音を聞いてるうちに目を閉じてしまう。


ーーーー


バン!

という金属の音がして目が覚めた。

どうやらここは昨日隠れていた台所の横にある六畳間の様で、仏壇やら箪笥が置いてある。

「八時か」

俺の身体には布団が掛けられていた。

しばらくそのままで何度か続くバン!という音を聞きながら「これからどうしよう」と考える。

母親はどこに行ったのかわからない。廣記に見つかると面倒だ。頼れる親戚も友達もない、学校は辞めてしまった。

「最悪だ」

しばらくするとおっさんが覗きにきた。

「起きたのか?洗面所は階段の奥だ、顔を洗ってこい。朝飯を置いといてやる」

俺は返事をせずに洗面台に行く。

戻ってくるとちゃぶ台にパンがニつと牛乳が置いてある。

俺はパンは給食のパンしか知らないが、これはフワフワのいい香りがする。

俺は一つ目のパンを手に取った。

パンにチーズが巻いてある。

「うま」

俺は貪る様に食った。

もう一つのパンに手を伸ばす。

「柔らか」

プルプルと揺れるパンをニつに割るとクリームがこぼれてくる。

ああ

なんていい香りなんだ。



割れた所のクリームを啜ってパンを端から食べて行く。

「なんだこれは」

安堵と優しさに包まれて涙が溢れる。

「美味い」

この空間の安堵感はなんだ、昨日までいた所となんて違いだ。

食い終えて俺はパンを作っている所を廊下から覗きに行った。


パンを作る部屋の向こうに2畳ぐらいの狭い売り場がある。


昨日は気がつかなかったが表は市街地に近い通りなんだな。

「この道の裏だったのか」

「ん?なんか言ったか?もう行くのか?」おっさんが俺の声に気がついた。

「俺外に出るのが怖いんだ」

「昨日のひ弱そうな奴の事か?あいつはなんなんだ」

「俺の義理の親だよ。実の母親は他所の男と逃げたんだ」

「なんで追いかけられてた」

「俺の臓器を売り飛ばすって言ってたな」

「それで逃げてきたのか」

俺は頷いた。外に出るのが怖いのは本心だし出来ればもうニ度と廣記には会いたくない。

「大人だから分かると思うけど、こんな時どうしたら良いの?」

「えっ俺に聞くのかよ?お前歳はなんぼなんだ」

「十七」

「そうだな、警察に言う、一応義理の父親が取り調べられるがすぐ帰ってくる。お前は一時保護されるがそのうちに優しい義理のお父さんの所に帰れるだろうよ」

「冗談じゃねえよ」

「後一年すりゃ十八歳だろ、すぐ大人じゃねえか、友達の家にでも隠れておけよ」

「友達なんかいないよ、、そうだここは?作業員募集中?」

「迷い込んできて厚かましいな。それに此処はそのうちやめるつもりなんだ」

「あと一年はやってる?」

「さあな」



ーーーーー



閉業のその日まで働くという約束で俺はここ、矢野屋に隠れて過ごす事にした。

できるだけ表に出ないで奥の方で手伝う事にしたい。



おっさんの名前は矢野寛吉。今年で五十五歳だそうだ。

五十五歳って今時はまだまだ働けるんじゃないのかな。



寛吉は、この矢野屋というパン屋を若い時からやってたらしい。

朝はと言うか、夜は一時から仕事している。そういえば俺が逃げ込んだ時も夜中だった。

それからあのバンという音は食パンを出す時に寛吉が台の上に食パン型を叩き付ける音だった。

その後色んなパンを一人で作って八時に店を開ける。

ラッキーな事に店の前には矢野屋の暖簾がかかっていて外からはショーケースは見えてもその上はよく見えない。

パンを作り終えたら明日の準備をしながら店番をして夕方閉店。

いつ寝てるんだろう。



俺の仕事は生地作り以外の事をやるって感じだ。



「俺が良いと言うまでこの鍋をかき混ぜるんだ」
「うん」

ホイッパーというかき混ぜ器で大きなボールの中の物をまぜ続ける。



「それをこれで漉すんだ」

大きな漉し器をバットの上置いてクリームをヘラで漉して滑らかにする。

「あ!これがクリームパンの中身?」

「そうだよ」

「あちち」

「気をつけろよ」

こんな風に寛吉の言う通りにやらないと全部の作業のやることやタイミングが全くわからない事だらけ。



計量の作業も種類によって全然量が違っていて間違えると膨らまなかったり、めちゃめちゃ膨らんで麩みたいにスカスカになる。

「また塩の量を間違えてるじゃないか」寛吉が計り直してる。

こんな事はしょっちゅうだ。

「兎に角計量を間違えるとまともなパンにはならないんだな」

それは分かった。

俺はなるべく紙に書いてある通りに計る様にした。

時々店の方で客がしつこく文句を言って、寛吉が宥めているがそれでもまだ言ってるのでついに寛吉の「分かったよ!全くしつけえな。もう帰れ」という声が聞こえる。

寛吉が客が見せて来た食べさしのカレーパンを持ってきて「おい、こりゃなんだ」と俺に言った。

「えっ」

「味が全然違うじゃねえか、マイルドなはずがメチャクチャ辛れえ」

あ、そういえば赤い色のスパイスを鍋に落として引き上げるときに随分溢れたっけ。

「あはは」

「全くお前は」

俺は矢野屋の売上にダメージを与えるような失敗をするが寛吉が俺にキレるような事はない。

ただ、俺への監視の目は厳しくなって、口やかましくはある。



ある日

寛吉は仕事と生活のリズムが狂って疲れると言って来た。

椅子に座って俺に指図していて、俺は俺のせいだという自覚はあるから黙って言われた通りにする。

店の方から客の呼ぶ声がする。

「おい、行って来い」

「えっ俺が?」

「お前しかいねえじゃねえか」

俺はまさかこのタイミングで廣記が現れる事はないだろうと思いつつも恐る恐る店に出る。

「いらっしゃい」

白い肌着を着た総白髪で75歳ぐらいのお爺が立っていた「お前か?いつも失敗ばっかりしてる奴は」

「え」俺は反省はしてはいるのでちょっと頭を下げた。

「何にしますか」

「コッペパンをくれ、それとカレーパンだ。今日はまともだろうな」

「多分」

「多分だと?お前みたいな良い加減なやつはやめちまえ!」

俺はその言葉を無視してコッペパンとカレーパンを包んで渡した。


お爺は「もう来ねえからな!」と代金を将棋の駒の様にピシャリと置いて出て行った。

ああ

本当に来ないのかな。

流石にしょげる。

戻ってきて元の作業をしているとまた客が来た。

今度は紺色に白地の花柄ワンピースのお婆だ、こっちは70歳ぐらい。

「食パンの八枚切りをおくれ」

「俺切った事なくて」

「そこのスライサーってやつがあるだろ?」

振り向くとそれっぽいのがある。

食パンを切る機械に食パンを乗せる。

「ここでいいのかな?」

「スイッチを上げるんだよ」

言われた通りにスイッチを上げると刃(は)がすごいスピードで回り出す。

「こわ」

「指を近づけるんじゃないよ」

「うん」

食パンを乗せて刃の方に押す様に言われるので押してみる。

八枚?

八回押すと刀の隙間から食パンがポロポロ出てきて横に転がってきたのでそれを纏めて袋に入れた。



「何だいこりゃ!」確かにおかしいのは分かる。

ニ斤分はあるし上を向いてるのもあれば下を向いてるのもある。

お婆も将棋の駒の様にお金を置いて「バカだねあんた!もう来ないからね」

と言って出ていった。

一日にニ人も客を失う。

俺はひょっとしたら物凄い役立たずだったのかも知れない。

戻ると寛吉は立ち上がってパンを焼いていた。

「ニ人ももう来ないって」

寛吉は笑って「いい経験になるから今度は気をつけりゃいいんだよ」と言ってスライサーの使い方を教えてくれた。

一番初めに切ったパンの耳の上に、次に切ったパンを置く

勿論目盛ってものがある。

四枚切りとか五枚切りとか違うんだ。

「知らなかったな」俺はハンドルを回して五枚切りの目盛に合わせてから食パンを五枚切って袋に入れた。



見習いには次々やる事がある。

「おい、このカレーパンを揚げてみろ」

「うん」

「油に入れたらすぐ裏返して、泡を箸の先で潰して裏返して、良い色になったら両面の色を揃えて揚げるんだ」

「え?はいはい」俺は一応寛吉のやっている動作を見てはいたが、うろ覚えとはこの事だし、予想外の動きをカレーパンがする。

クルン

勝手に裏返る



おいおい

それを集中して裏返してると

また他の奴が勝手に裏返る。

「何だよ」

そうこうしてるうちに両面の色が全然変わってしまった。

「何だこりゃ」寛吉もカレーパンを見てびっくりしていた。

「油に入れる時に変な風に掴んだな?」

「そうかも」

これがいつか上手く揚げられる様になる日が来るとは到底思えない。

次にカレーパンを揚げた時にはカレーパンがフワ〜っと膨らんだと思うと真ん中から隙間ができて裏返った。

「え」

すると中身が出てきて跳ね出した。

バチバチバチィバチッ

「うわ」

中身が全部出てきてそれが全体に広がって他のカレーパンに焦げが沢山ついた。

「あーあ、お前の煮込んだルーが緩かったんだよ。原因があって結果があるんだ」

え!俺がカレーをいい感じに煮詰めていれば弾ける事はなかった?

「知らなかったな」





次の時

カレールーの炊き具合を寛吉に見て貰う。

「このぐらいの煮込み具合を覚えとけよ」

「うん」



次の日カレーパンを揚げていると、店からこないだのお爺とお婆が寛吉と談笑している声がする。

「何だまた来てるのか」俺はほっとした。

トレーに揚げたてのカレーパンを乗せて店に持って行く。

「おっ新入り!美味そうに揚げたな」お爺が「これをくれ」と言ったのでお婆も「私も、孫の分もおくれよ」と寛吉に言った。



俺はこの時初めて自分で作った物を人に売ることの意味が薄っすら分かった気がする。



その日の寝る前

俺は布団の中でもう来ないと言ったくせにまた来てる人達のことが不思議で、その事について考えていた。

「ああ、そうか」

俺のやった事が嫌だっただけで店やおっさんが嫌なわけじゃないんだな。



人の心って不思議だな。



次の朝もバンという音で目が覚める。

俺は身支度をしてパンを作る部屋、つまり作業場に入る。

「おい、これを塗ってみろ」

俺は液卵を塗る刷毛を手にとった。

オーブンに入れる前の発酵したパン生地は、捏ね終わった時の生地とはまるで違うがそれが何でかは俺は知らない。

プルンプルンになった生地に刷毛で卵を塗るんんだが、刷毛の角が当たるとパンがへこんでしまう。

「ああ」

「早く塗らないと次のパンの順番が詰まってくるだろうが」

「うん」

そうは言ってもひとつの天板に十五個載っているパンが八枚あるんだから百二十個じゃないか!

俺はパンを潰さない様に必死で息を詰めて塗っていった。

四枚できたら寛吉は急いでオーブンに入れた。

こんな大変な作業素早くできるもんか。

ふうふう

「できたか?」

「うん」

寛吉はパンを全てオーブンに入れてやがてそれが焼き上がる。

当然の事だが卵の塗り方がムラムラだ。

「ここは刷毛に卵をつけ過ぎ、ここは薄過ぎ」と寛吉が指差していった。

「うん」

次はクリームパンに卵を塗る番だ。

さっきみたいにならない様に、寛吉の見本の通りに刷毛に卵を含ませて何個かの生地にてんてんてんとつけて量を均等にしてそれを塗り広げていく。

「そうそう」寛吉が言った。

塗りながら、寛吉は俺のコーチなんだ。って思う。

「おっさんはパン屋さんになって何年?」

「三十二年だよ」

「長えな、そんなにやってて飽きないのかよ」

「もうやめようもうやめようと思いながら随分立っちまったもんだ、うちの客は増えも減りもしねえ、ずっと俺の所のパンが食生活の一部なんだ。一緒に年をとってるのさ。そう思うと中々踏ん切りがつかなかったな」

「ふーん、一番楽しかった事は何?」

「さあな」

「じゃあ一番辛かったことは?」

寛吉はその質問には答えなかった。

「おい、この鉄板を拭いとけよ」

「うん」

寛吉は店に行って椅子に座ったまま腕組みをしてじっと何かに囚われた感じになった。



「何だよ」もう今の質問はしない方がいい、鉄板を拭きながら俺はそう思った。



寛吉は晩飯を食った後、たまに仏壇の前でぼーっとしてるけどその時と同じだな。



ーーーー



俺がここに来て三ヶ月が経った。まだ廣記から隠れて、外に見えない様に隠れて暮らしていた。

ただ、最近は店を開けたり閉めたりする時に外に出たりする。



「初めに比べりゃ随分マシになったもんだ」俺の液卵塗りを見ながら寛吉が言った。

「今日から生地の仕込みを少しずつ教えてやる」

「えっ」

そんな大事な事をやって大丈夫なんだろうか?ただでさえ数々のダメージをこの店に与えてたのに。

俺はビビったが先に進みたい気持ちもある。

コーチである寛吉の動きを観察する日々、言われた通りにやろうと言う気持ちはある。

「クロワッサンの生地の捏ね方を見ておけよ」

「うん」

「後でロールインするからあまり捏ねちゃいけないんだ。グルテンを出しすぎない様にな」

ロールイン?

グルテン?

何だそりゃ

不思議に思いながらも見よう見真似でやっていく。

「生地が固いと思ったら足し水をやってみろ」

「え?」

ドバッと入れっちゃった。

「あっ足し水ってのはちょっとずつ様子を見ながら入れるんだよ」

「え?」

俺は水を入れすぎたらしい。寛吉はドロドロになったその生地をミキサーから出した。

「新しく作るからもう一回計ってこい」

「うん」

俺は計量の重要性について今ではよく分かってるので慎重に計ってもう一度ミキサーに入れた。

初めは低速、その後中速にレバーを動かす。

一旦ミキサーを止めて生地をまとめる薄いプラスチックのカードでかき集める。

「まだ固いな、よく見ておけよ」

「うん」

ちょっと水を入れて様子を見る。そうやって理想の固さにしていく。

「触ってみろ」

「うん」





初めて捏ねた時にまた失敗。俺はこの日の事を忘れないように記憶に刻み込んだ。



さて俺にはまだまだわからない事がある。

その中でも長いフランスパンのカットが上手くいかない。

「成形がいい加減だとカットも上手くいかん」

「うん」

その頃には俺は分かってきた事もある。

計量や捏ねる時や、室温や水温なんかが上手く行ってないといいパンにはなりにくい。

生地の温度や表面の乾燥を防いでやるなんかが大事な事なんだ。

寛吉の動きを覚えて同じ様にやる。

成形の時生地の中が「よれない」様に気をつけて真っ直ぐ置く。

寛吉がそれをオーブンに入れる。

「あー」

俺は焼き上がったバゲットを見た。




寛吉のバゲットはパリっとエッジが効いている。

俺のはスジがついているだけ。


「お前のカットは刃が立ってるんだよ、次は寝かせて皮を削ぐように切ってみろ」そう言ってサッサッと切って見せた。

ザ・天下一見よう見真似。

コーチ寛吉の動きを真似る。

「今度は少しマシになってるじゃないか、まあ練習だな。間隔を同じに保てよ」

「うん」

日々進歩

俺は毎日少しずつマシになっている。



慣れと言うのは油断とも言うのか、寛吉が手を離せない時は徐々に店番もする俺。

店には毎日色んな客が来る。

あのお爺は相川、お婆は土山というらしい、他にも近所のお母さんと赤ちゃん。毎朝同じ時間に来るサラリーマンなど、確かに同じメンバーが買いに来る。



暖簾の隙間から通りを見ていると、廣記が外を歩いている。

「やば」慌てて隠れたが廣記はこちらに気がついていないし、この建物の裏があの道とは知らないんじゃないかな。

「バカなやつだ」



ーーーー



俺はアパートから逃げ出してから今日までの五ヶ月間矢野屋のコーチと過ごして、なんとなくこの仕事が気に入ってきた。

寛吉の方を見てみるとバゲットのカットが始まる所だった「俺にやらして」と言うと寛吉はカミソリをパンにスッスッと滑らせた「やってみろ」

「うん」日々これ勉強。ついにコーチ寛吉の動きをマスターした。

「いいのが出来たじゃないか」

褒められた!単純に嬉しい。俺はバゲットを高々と持ち上げた「やったー」

俺の上達と逆に寛吉は腰痛がたまに出る様になってきた。

「いたた」

と言うわけでコーチは椅子に座りながら店番をして、奥の部屋の俺に指図する毎日。

とはいえ寛吉は深夜から仕事を開始して、俺はあのバンと言う音で目が覚める。

「なんで食パンのケースを台に叩きつけんの?」

「焼けたあと、このままにしておくと中の蒸気でパンが腰折れするから、ショックを与えて蒸気を逃がすのよ」

「へー」

「試しにひとつこのまま置いておいてやる」

出来の悪い見習いの為に実験用に置いておいた食パンは確かに真ん中にスジが入り片側に折れてきた。ソフトで水分を含んでる気がする。

「知らなかったな」



ある日寛吉と俺は朝から生地作りをして焼いて袋に詰めたり並べたりしていた。

「いたた」寛吉が椅子に座った。

「腰が痛いのかよ」

「今日保育園の配達があるから行ってきてくれよ」

「えっ廣記に見つかったらどうするの?」

「そんときゃあ逃げろよ。まいて帰ってこいよ」

俺は帽子を目深に被りマスクをして裏口に止めてあった自転車を持ってきた。

荷台にパンの箱を積んでゴム紐で結んだ。

配達の間もずっとキョロキョロしていたが無事保育園に到着。

「暑いな」

パンの箱を抱えて園庭の真ん中を横切ると子供達が寄って来た。

「やのやのやのは?」

「ねぇ、やのやのやのは」と口々に言ってくる。

「やのやのやの?」何だそれは、と思ってると奥の調理場にたどり着く。

狭い調理室に給食のおばちゃん達がひしめき合って昼食の用意をしている。

「配達に来ました」

俺は手前の台の上にパン箱を置いて帰ろうとした。

「ちょっとあんた」なんだかものすごく迫力のあるおばさんに声をかけられる。

きっとここのボスだ。俺はなんとなくそんな気がした。

こわ。

「パンの箱が嵩張るから持ってお帰り」

「中のパンは?」と聞こうとする前におばさんはパンをくるんでいる大きめのシートごとパンを箱から出した。そして端を結んで台の下にほりこんだ。

「あっ」驚いて見ていると、三箱分全部を同じ感じで重ねて台の下に入れた。

焼き立てパンをそんな風に雑に扱うとは!しかも下の方はペチャンコじゃないか!

俺は驚いて「朝早くから」と言った。

「は?」聞き返すおばさんに「朝早くからおっさんが作ってるのにそんなに雑に扱うなんて!」

「置くところが無いんだから仕方ないじゃないか!」

「無ければ作ったらいいだろ?子供達が食べるんだぞ」周りの人達はハラハラしている。


そのうちに園長達先生も教室から出てきた「何事?」

「こんな生意気な配達が来るところなんか出入り禁止だよ!明日から違うパン屋でとるからね」

おれは『こっちから願い下げだ!』と言う言葉と、寛吉になんて言ったら良いんだの二つが出てきてモゴモゴした。


戻った後寛吉に「給食のおばさんを怒らせた」と顛末を話した。

寛吉はみるみるがっかりしていく。

「給食のおばさんが出入り禁止にするなんて行き過ぎだ。なんの権限があるんだ」俺はまだ腹が立っていた。

「あの保育園ではな、調理場のおばさんの方がキャリアも長くて偉いのさ。園長も気を悪くさせないようにしているぐらいだしな」

俺が黙って首を項垂れてると

「謝ってこい」と寛吉が促した。

「いやだよ」

「お前は悪い奴じゃねえ、謝り方を知らねえだけなんだよ」

「おっさんが作ったパンをあんな雑に扱うなんて、それを食べる子供達も可哀想だろ」

「まあな、だけどうちのパンじゃなきゃダメなんだよ」

「何で」

「そりゃあな、あんな小さな頃に食べたパンを大人になっても覚えてるもんだからだよ。だから安心安全な物でなきゃダメなんだよ」

なんだか自分のパンが世界一みたいな言い回しだが、確かにおっさんのコッペパンは美味いし、材料にも気を配っている。

それに給食のパンって結構味を覚えてるよな。

「記憶に残るパンは美味しいものであって欲しい」俺は悟った。

「だろ?だから行ってこい」

そう言われると仕方ない、俺はイヤイヤ自転車を漕いであの保育園のチャイムを押した。

「はーい」インターホンから声がする。

「あの、パン屋です、矢野屋です。給食室に用があります」

「ああ、今朝の。今開けますね」

カチャッとドアの鍵が開いた。

閉じるとまた自動で鍵がかかる。俺は後ろのカチャッという音に押されて、園庭を歩く。

今はお昼寝の時間なのか各教室のカーテンが閉まっている。

調理場への道をスリッパに履き替えてノロノロ歩き出した。

「あの」

調理場の人達は忙しそうに洗い物や片付けをしていた。ボスと目が合う。

「なんだい!出入り禁止って言ったろ!」

ボスが前のめりに言った。

俺は謝りたくないけど、おっさんの顔を思い出して謝るまで帰れないのでじっと立っていた。

「矢野さんが謝ってこいって言ったんだろ」おばちゃんは廊下に出てきて俺の前に立った。

俺は頷いた。

「あの、すんませんでした。おっさん、朝早くからここのパンを準備してて、何時間もかかって安全安心な物をここの子供達の為に作ってるんで、それで、それを知ってるからカッとなったんです」

初めて人に謝った。

「おっさんは言ってました『人によってはパンを物と思ってる者もいる、一旦渡したらこっちはどうこう言えねえのさ』そう言われました」

そう言って俺はおばちゃんの顔をじっと見た。できるだけじっと見た。

おばちゃんはバツが悪そうな顔をした。

「あの人はね、昔はもっと元気だったんだよ。子供を亡くしてね。それ以降もここに通って子供達の姿を眺めてたよ。嬉しそうな次には悲しそうな顔をするのさ。もう何年もそうやってたんだよ。あんたちょっとは矢野さんの事がわかってるんじゃないか。さっきは他の業者にするって言ったけど、せっかく謝りに来たんだから帰って『やっぱり矢野屋のパンが一番だ』って言っておくれ」

「うん」

「園長には私から言っとくよ」

俺はぺこっと頭を下げて帰った。

帰ってきて店の前に自転車を停めた。

店の前の暖簾に書いてある矢野屋の文字を見て「あっ」と思った。

「矢野屋の矢野!」やのやのやのって寛吉の事だったんだ。

俺はちょっと笑って中に入った。

「機嫌良いじゃないか、上手くいったのか?」

「うん、また矢野屋のパンにするってさ」

「そうか」

それ以降この話はしなかったが俺も寛吉の調子が良くない日や雨の日は配達する事にした。

しばらくはそんな日が続いた。

俺は出来ることが増えて来た。

今では粉に水を混ぜるとグルテンという伸びたり粘ったりするものができるし、酵母を入れると発酵しだす。そんな事もうっすら分かってきた。

そしてロールインとはバターのシートをクロワッサンやデニッシュの生地に挟んでシーターとかパイローラーとかいう機械で伸ばす事だ。

「見とけよ」

「うん」

「生地の硬さとバターの硬さを揃えろよ」

「うん」

寛吉は伸ばした生地にバターを挟んで伸ばし、それを折りたたんで向きを変え薄くなるまで伸ばした。

「こんな感じだ」

俺は生地にバターを挟んで下にある足踏みスイッチを踏んだ。

生地はガーッと言う音と共にそのまま下に落ちた。

「あ」

「何やってんだ、足踏みから足を浮かさないとそのまま動かした方向にグルグル回るんだ」

「知らなかったな」

もう一度やり直し。

俺は生地にバターを包んで、シーターを動かした。

生地は右に左に動く事に薄く伸ばされて行く。

それを2人で見ながらちょっと不思議な気持ちになる

「なんで怒んないの?こんなに失敗してるのに」

「お前はまだ若いんだ、失敗してもまた取り返せるってもんよ。取り戻せない様なことはまだ起きてないだろ」

「うん」


練習を繰り返す日々。

俺は多少進歩して、ある時ついに大発見をする。いや詳しくは人様がとっくに発見してることなんだが。

ひとつ目はついにバゲットのカットが上手く出来た事。

寛吉の言う通りカミソリの刃を傾むけて等間隔にリズムにのって切る。

すると見本の様なバゲットが「出来たーー」俺は両手で高々と掲げた。

「上手く出来たな」と寛吉も言ってくれた。

何だか嬉しそう。

ふたつ目はグルテンと発酵の事が分かった瞬間。

「イーストがガスを作って、パンの骨格を支えるグルテンってやつが気泡を作って、そのどっちもが上手く行ってはじめてちゃんとしたパンになるんだ」俺はケースの中の生地がどんどん大きくなってよく見ると気泡が大きくなって行くのを見つけた。そりゃ前から寛吉にグルテンの説明は聞いてたけど、気泡の事は気づいてたけど。

今日この日改めて分かったんだ。

「そうだ、伸びやかなグルテンの気泡に炭酸ガスとアルコールが作られて生地を膨らませる」と寛吉。

「その為に俺が条件を整えて捏ねてやらなけりゃならないんだ」俺は納得した。

「そう」

そうなってからは俺はパン作りが面白くなって行く。

色んな種類のパンがあって作り方があるんだ。

俺は様々な疑問が湧いて出て毎日寛吉に質問を続けた。

寛吉は嬉しそうだし、またいつもの様に寂しそうでもあった。


月曜日

俺は配達に行くところだった。

信号の所に自転車を停め青になるのを待っていた。

突然誰かが腕を掴んだ!俺は廣記と思って「うわ!」と叫んだ。


「光太郎、探したわよ」

「あ、母さん、何で?」

「ずっと探してたのよ。ここら辺で見かけたって人がいてね」

そうなんだ、油断は禁物。

「今どこにいるの?」

「母さんこそ今どこにいんの?」

「隣の街で藤縄って人と住んでるんだよ。お前を迎えに何度か来たんだけれど、あの男が乱暴でね、未だに離婚届に判を押さないしね」

「廣記の奴か」

「お前がどこにいるのか聞いてたから気をつけてね、これ私の連絡先」

連絡先を受け取る。

俺はスマホも持って出て来なかったので、電話は納品書に押してあった判子を見て矢野屋の番号を教えた。

「藤縄さんは良い人だから今度紹介するよ」

その言葉は廣記の時にも聞いた気がする。

「いやいいよ、俺配達の途中だからもう行くね」

母親は何度も俺に謝って帰って行った。


俺は寛吉に母親の事を話した。

「母親と一緒に住まねえのか」

「もうすぐ十八だし、俺ここで働いてるし」そう言いながら寛吉との約束は矢野屋閉店のその時までというのを思い出した。日々は早く流れ、いつの間にか半年が過ぎている。

寛吉も俺も閉店のその日の事は口にしない。

寛吉が楽なように力仕事や焼成は俺がやり、重い食パンの型は俺が用意する。


寛吉はよく晩酌の時つい飲み過ぎて食卓で寝てしまう事がある。

秋になり夜は寒い、俺は寛吉の部屋に布団を取りに行った。

ニ階には部屋が三つある。電気をつけて押入れのある部屋から布団を出す。

箪笥の上に目をやると、古い写真立てが置いてある。

寛吉と奥さんと小さい子供が店の前で写ってる写真や子供一人の写真だ。

若い頃の寛吉は今と違ってなんて言うのか輝いてるし勢いがある感じだった。

「家族が亡くなって一人になったんだな」

本棚のアルバムを探して勝手に開く。

子供の生まれた時の写真だ。命名翔太と書いてある紙と並んでいる子供の写真がある。翔太って言うんだな。色んな思い出を作りに色んな所に行ったんだ。ちょっと羨ましい。一歳の誕生日ケーキは大きいのを作ったんだな。俺はページをめくった。

だけどアルバムはそこで終わってた。

俺は一階に降りて寛吉に布団を掛けて、自分も布団に入って考え事をした。寛吉の辛い思い出について想像を巡らせたり、母親の離婚届の事、アパートに置いてきた俺のスマホや財布の入ったバックパック、いつまでも隠れ住んでる自分の事なんか。

寂しい寛吉の為に何かできないかな、でも俺がこんなに引きこもってたらダメな気がする。

「俺はひょっとして廣記と対決しなきゃいけないんじゃないのか」あんな奴と戸籍が繋がってるなんて冗談じゃない。だけど廣記の所に行って捕まったら元も子もないしなあ。

「対決か」

これを克服しないと俺は自由になれない気がする。遠くに逃げても追いかけてくるんじゃないかと心配だし。

生地を伸ばす長めの麺棒を背中に仕込んで行くかな。窮地の場合はそれで反撃だ。



火曜日の休みの日、寛吉に「俺は自分に決着をつけなきゃだめなんだ」と言って出かけた。

本当に背中に麺棒を入れて上着を羽織る。

もう夕方だ。

廣記の部屋に灯りがついてるのを確かめて安アパートの階段を音を立てずに登る。

廊下の小窓を少し開けて中を覗いた。

テレビの音や人のいる気配がする。

俺の心臓はうるさいぐらいドキドキと音を立てている。

入り口のドアの取手を回すと鍵はかかっていない、俺は静かに中に入った。

靴はいつでも逃げられる様に履いたままだ。

手が震える。

廣記は俺に背を向けてテレビの方を向いている。

今だ!俺は麺棒を振り下ろした。



「うわ」咄嗟に廣記が転がって横に逃げたので俺は麺棒を座布団にドスンと振り下ろす事になった。

「何しやがるてめえ!」

「おい!さっさと離婚しろ」俺はもう一度麺棒を構えた。

「離婚届を出せ!サインして印鑑を押せ」

「クソガキが!お前に指図はされねえ」廣記が語気を強めた。

仕方ない、俺はテーブルを思い切り叩いた「ガチャーン」という音が響く。

その時廣記が俺の腹にタックルしてきた。馬乗りになって殴りかかってくる。これじゃ前と同じじゃないか。そう思ったが、あれ?俺は廣記の手首を掴んだ、廣記は振り払おうとしたがビクともしない。俺の手はいつの間にか毎日のパン焼き生活で相当鍛えられたんだ。

腕と胸の筋肉が発達した。特に指の力が凄い。

廣記の手を捻ってギューっと押さえつけた「イタタタ」廣記が間抜けな声を出した。

耳元で言ってやった「俺は負けないぞ!早くしろ!」首根っこを掴んで離婚届を引き出しから出させた。

「早く書け」ほんと早くこいつと縁が切りたい一心でここまできて良かった。

書く寸前廣記がまた暴れ出した「しつこいな」もう一度首根っこを左右に振った「分かった、書くよ書く」字が震えている、俺も震える声を悟られない様に「今度会ったら叩きのめすからな」と耳元で凄んだ。

俺の鞄は箪笥の隙間に挟まれたままだった。中を覗くとスマホが見えた。

よし!これでもう用はない。部屋から出て行く瞬間が一番怖い。

俺は廣記の目を睨んでドアを閉めた。そして急いで階段を駆け降りる。

離婚届を握りしめて俺は走った。

今度は追いかけてこない。

俺は徐々にスピードを緩めて歩き出した。

夜の風を久しぶりに感じながら「自由だ」と呟く。


矢野屋に逃げ込んでからの寛吉の神のような対応にどんな感謝をして良いのやら。

俺を拒んだりせず何でも受け入れてくれてたな「仕事でもミスしまくってたしな」とりあえず全部言われた通りにするよう努力はしよう。

いやいやそれ以上のことって何かな。

それはおいおい考える事にする。


息が整ってきたので母親に電話して今日の事を伝えた。

「ありがとうね、置いて出て行ったりしてごめんよ、許してね」

「もう良いよ、怒ってねえし」

俺は日々更新してる所なんだ、楽しいんだよ。



矢野屋の裏口に灯りが漏れている「ただいま」

「お、帰ってきたのか」寛吉は驚いて俺を見た。

「あ!ひょっとして戻って来ないと思ってた?」

「まあな」寛吉はちょっと嬉しそうだった。

「そんなに飲んだら明日起きられねぇよ」やけ酒中だったのか酔っ払った寛吉にそう言った。

そして外出中何をしてたか寛吉に話した。

寛吉は俺の話を聞きながら「そうかい」「そうかい」と相槌を打っていた。


ーーーー


俺は間光太郎から母方の姓になった、大河光太郎だ。なんか漫画の主人公みたいなカッコいい名前だ。早く廣記の苗字から開放されたかったので慣れない名前でも構わない。

寛吉は俺に本格的にパン作りを教え出した。寛吉の知ってる理論や技術を。

特にこうすると何故こうなるのかを順に解説してくれて分かりやすかった。

俺は液卵塗りが綺麗に早くできる様になり、バゲットのカットがうまくできる様になった。足し水を上手く理想の固さにできる様になり、パイローラーだって上手いもんだ。

保育園に配達に行くと相変わらず子供達が「やのやのやのは?」と語呂を面白がって言ってくる。

「俺のことはやのやのこうちゃんと呼んでくれよ」と子供達に言ったのでみんなで大声で「やのやのこうちゃーん」と呼んでくれた。それを調理室のボスがニコニコして見ている。

「まいど」俺は頭を下げてパンの箱を台の上に置いた。

最近は箱の中のパンはこのままで前回の箱を持って帰って良いということになっている。

「はい、こんにちは。あんた随分しっかりしてきたね。矢野さんも嬉しそうにあんたの事を話してたよ」

「なんて言ってた?」俺は聞きたい気持ちを抑えられない。

「一生懸命やってて可愛いってさ」

「はあ?」と言ったが悪い気はしない。

「顔立ちもしっかりしてきたね、頑張んなよ」

「うん」

寛吉が俺を可愛いってさ、照れるが人からそんなことを言われたのは初めてだ。

「悪くない気分」


帰り際自転車を走らせていると「矢野屋の人だね」と俺を呼び止めた真面目そうなスーツの男がいた。

「私はそこの商工会議所の者です。君のいてる商店街の近くにあるんだよ」

「はあ」俺はその男に名詞を貰った「和田さん」人から名刺を貰うなんて生まれて初めての出来事だ。

「ちょっと寄って見て行かないかい?昔の商店街の写真展をしているんだ」

「うん」

俺と和田は商店街の空き店舗を利用したオープンスペースみたいな所に行った。

「この商店街もだんだん空き店舗が増えてきてね、君みたいな若者がもっと集まって商売をしてくれると良いんだけど」

「うん」俺は生返事をして写真をぱっと見て帰るつもりだった。


昔からの商店街の写真が展示されている。

右からぐるっと明治、大正、昭和、平成、令和と順に並んでいるみたいだな。

「ほら、これ」と言って和田が指差した写真は矢野屋のある通りだった。

客の相川ってお爺が写ってる「若いな、大工だったのか」矢野屋の写真もあった「あ!おっさん」俺は寛吉の写真を見つけた。

その写真は店の前で職人四・五人で立っていて真ん中が寛吉だ。



「若いしイケメンだな寛吉」自信と若さに溢れた表情をしている「今と全然違う」

和田が「矢野さんも君が来てから元気にやってらっしゃるようで安心しました、まだまだ頑張って頂かないと」と声をかけてきた。

「うん」俺がいたらまだ矢野屋を続けるかな、若返る訳じゃないけど俺の頑張りで。

俺は和田に「何か困った事があったら相談に来て下さい」と言われる。

「うん、俺帰るね」



ところが矢野屋に戻ったら寛吉が意外なことを言い出す。

寛吉と並んで座って待っていた四十五ぐらいの見知らぬ男に俺を紹介している「こいつが光太郎だ」

「え?」

「どうも、ブーランジェリーケイの嶋田慶太です」

「はあ」なんだこいつ。

「おい、そろそろうちは卒業だ。お前は自由の身になったんだからもっと大きい人間になれ」

すると嶋田が「うちに来たら大きくなるってのは責任重大じゃないですか」と寛吉に言った。

「まあな、頼んだぞ」

「え、何のこと?俺はどうなるの?この人の所で働くの?」

「言っただろ、ここはもうやめようと思ってるってな、だからここに居てもしょうがねえのさ」

「うちに寮がある、そこに引っ越して来たら良い」

「まだ行くって言ってねえじゃん」とは言え矢野屋にはもういられないのか。

「今度の日曜日に迎えに来ます」そう言って嶋田は帰って行った。


「まあ、そういう事よ。それとも母ちゃんの所に行くか?」

「嫌だよ、俺やっとここで頑張るつもりになったのに」

「まあな、一度嶋田の店を見せてもらうと良い、考えも変わるって。それとな、お前はいい奴だが礼儀作法が全く出来てない。はい、ありがとう、すみません、お願いします、おはようございます、失礼します、なんかがお前の口から出てきたことなんか1回もない。練習してみろ」

「うん」

「うんじゃない『はい』だ」

なんと挨拶の練習をさせられる。カッコ悪いが仕方ない。

「はい」

「ありがとう」


ーーーー


日曜日

嶋田が迎えに来た。




ブーランジェリーってパン屋の事なんだ「知らなかったな」

嶋田の店は明るくて広くてパンが店中に並んでいる。店の人が四人、作業場に六人働いている。

「矢野のおやっさんは光太郎が心配で俺に預けようとしてるんだよ」

「え?心配?」

「そう、このまま育って欲しいんだよ。自分から離れた後の事を気にしてるんだろうな」

「うん」

俺は作業場を見せて貰う「カッケー」

かっこいい製パンの機械に囲まれて次々焼けてくるカッコいいパン達。

そして矢野屋とは違うオシャレなお客達が店内に沢山いて、それぞれトングとトレーを手に持ち、買う気満々でパンを端から順に持ち切れなくなるぐらい盛りに盛ってレジに到達する。

俺にとって初めて見る風景ばかりだ。嶋田が俺の背後に立って「どうだい、良い感じだろ」と言ってきた。全くその通りだ。


その後寮も見せて貰う。何と嶋田の建てたワンルームマンションで俺だけの部屋にはミニキッチンや風呂もある「良いなあ」最高だ。

「どうだった?」嶋田が俺に聞いてきた。

「うん」俺は頷いた。

「そうか、じゃあ帰ったら準備して」

「えっ」随分早いな。

とはいえ大した荷物もない。




その日の晩は寒くなった。


こたつで晩酌している寛吉に聞いた「矢野屋はいつまで営業?」

「さあな、そのうちな」

「じゃあ俺もその日までいていい?」

「お前は嶋田の店にいてもっと色々見てこい。その後自分の人生について考えろ」

人生だって、廣記と母親が一緒になった時もその前の父親の時も俺には未来なんて無かったのに、急に広くて見晴らしのいい所に来た気分。

「うん」

その日の晩酌は一層酒の量が増えていた「あんまり飲むなよ」

「そうだな」とか言いながらまた酒を注いでいる。

「あの嶋田って人はおっさんの弟子?」

「八年間ここで働いてたんだ、それより五歳若い岩井もそうだ。今日ブーランジェリーケイに岩井もいただろ」

「そうだっけ」

「ここができた当時は職人が沢山いてな、そいつらはみんないいパン屋になってるよ」

「へえ」あの写真の奴らもそうなんだと俺は思った。

「ま、昔の話よ」

それ以降は寛吉は奥さんとニ人で細々と矢野屋をやってたんだ。

「またそんな所で寝て、風邪ひくよ。今度から布団をかける奴は居ないよ」

こたつに足を入れて寝ている寛吉に布団をかける。


静かな夜だった。


ーーーー


俺は今度はブーランジェリーケイの見習いになった。


ブーランジェリーケイの社長は背の高い嶋田で、その次に偉いっぽいのが岩田だ。


矢野屋と違って出退勤の時間や休みの日が決められている。

「せめて10分前には来いよ」岩井に言われる。
「はい」俺は寛吉に教わった礼儀の言葉をパターンに分けて繰り出していった。

「大河さん、ここに置いておきます」の時は「ありがとうございます」

「書類書いて来ましたか」の時は「お願いします」と言って渡すなど。

毎日これだけで生きていけるんじゃないか?

帰る時は「失礼します」

寛吉のお陰で礼儀はまあまあ、そして仕事では大量に何かを作り続けるのは苦手だけど『色んな事の基本が身に付いてる子』と言われている。

とはいえ新しく覚える事は山ほどあって毎日があっという間に過ぎて行く。

以前との違いは例えばここではカレーパンはドーナツ用の網に乗せて揚げるので途中で勝手に裏返ったりすることは無いとか、一人で全ての作業をやるのではなく色んな人が分業でやるとか、食パンはお店の人が切ってくれるとか、そういう事が色々ある。

今頃寛吉はどうしてるんだろう、そう思う間隔が長くなっていく。

矢野屋はもう閉じてしまったのかな。
日々覚える事やできる事も増えてあっという間に次の日が来る。



五月中旬

ブーランジェリーケイは世間のお盆休みが過ぎた頃、連休をとって従業員達の中の希望者何人かでキャンプに出かけた。

俺は大自然とかキャンプとか初めてでテンションが上がる。

嶋田の車と岩井の車に五人ずつ分乗して湖のほとりのキャンプ場に到着。

湖より一段高い所で、大きな木の陰にテントを張る。

テントは男子用と女子用の二手に分かれるが俺は嶋田の仕切りで二つのテントの設営を手伝う。グラウンドシートをしっかり広げて固定したり、言われるがままにポールを通してピンに差し込んだり、60度の角度でペグを差し込んだりする。

作業の合間時々湖に目をやる、とにかく景色がいい。
嶋田が「夜は星空も綺麗だぞ」と言っている。そう言われると楽しみだ。

その前に夕食だ、バーベキューなんて初めてだ。



俺は肉を焼く係。

焼けた肉を網の端に置くといつもお店で働いている岬文代が皿に乗せてみんなに持っていく。

いい匂いなので皿を貰って自分の分ものせる「岬さんこっち来る時焼肉のタレ頂戴」

「いいわよ」俺の皿にタレを注いで箸も持ってきた。

「まだ食べてないだろ?これあげる」俺はその皿と箸を渡した。

「ありがとう、じゃあ私もお箸を持ってくるから2人で食べよう」

「うん」ありがとうっていい言葉だな。

俺は肉を焼いたり一つのお皿で一緒に食べたり文代の後姿を見たりと忙しかった。

片付けの後、本当に星が綺麗だった。


その後で嶋田と岩井はテーブルを囲んでビールを飲んでいる。

「おい大河、ここに座れよ」

「はい」

俺は真ん中に座った。

二人は夕方からずっと飲んでいて酔っ払っている。

「大河の仕事を見てると矢野屋を卒業した頃の自分を思い出すなあ」

「俺もです嶋田さん、根気よく仕込んでますよね」

「おっさん元気かなあ」俺も寛吉を懐かしく思い出す「よくヤケ酒みたいになってそのまま寝てました」

その時ニ人は顔を見合わせたんだ、それで急に何か言いたそうにした。

「大河、お前に言わなきゃならない事があるんだ」

「酔っていう話じゃないけど今なら言える」

二人は交互に話し出した。

何だろう?俺はじっと聞いていた。

嶋田が先に話し出した「あれは十八年前の冬。俺は矢野屋で修行して八年、岩井はまだ入ったばかりの見習いだった。寒い日が続いていてインフルエンザが大流行していたんだ。おやっさんの一人息子翔太ちゃんも感染して高熱が出ていた、そして俺もその時高熱が出て休んでいた」

岩井がその続きで話す。「翔太ちゃんは少し熱も治ってきていて薬を飲んで安静にしていれば治ると医者に言われてた。その日は店を開けていて、奥さんは奥の部屋に寝ている翔太ちゃんの様子を見に行っていたんだ。景気の良い時代で店は大忙しだった。奥さんは店番をしながら心配そうに何度も翔太ちゃんのいる奥の部屋の方を振り返って見ていた。間の悪いことにお客さんが数珠繋ぎで途切れなかった。寛吉さんもオーブンが詰まってて手が離せなかった」

「翔太ちゃんは吐いたものを詰まらせてね」嶋田が思い出して泣きながら言いにくそうに言った。

「あの時俺がもうちょっとできる奴だったらあんな事にはなってなかった」岩井も泣き出した。

二人は随分自分を責めている様だった、そして乾吉が一番自分を責めていたんだ。何年もの間。

あともう少し、もうちょっとって思ってるうちに手遅れになったんだ。その後あのアルバムは途切れたんだ。

「おやっさんがパン屋を辞めたいって気持ちわかるぜ」嶋田が俯いて言った。

「だけど矢野屋のお客さんの為に細々と続けて来たんだ。翔太ちゃんのことで奥さんに何度も謝ってたよ、でもその奥さんも何年か前病気で亡くなったんだ」

「あの時は本当に申し訳なかった。そう思うとなかなかおやっさんに会えなかったのに向こうから連絡くれたんだよ。大事なものを託すってな」

「大事なものって俺の事か!」

俺は椅子を後ろに倒して勢いよく立ち上がった。無性に寛吉に会いたい「帰ったらおっさんに会いに行ってきます」




「分かった、おやっさんによろしくな、それからおっさんはやめろよ」二人は俺を見上げながら注意した。



キャンプの帰り際、文代に「ねえ、昨日なんでオーナーと岩井さんは泣いてたの?」と聞かれた。俺達は番号を交換して帰る道中別々の車の中でずっとメッセージをやりとりして経緯を伝えた。

全て文にして俺は最後に本心を書いた『俺は矢野屋に戻ろうと思う』

別に嶋田の所で働くのが嫌じゃない、矢野屋が俺のホームグラウンドなだけなんだ。

で、文代の返事が「もう会えなくなっちゃうの」だった。

これには車内にも関わらず「えっ」と顔を赤らめる。


文代と離れがたくて戻ってからもファミレスに行って今イチオシとか言うパフェを食べた。




何時に寝てるのとかどんな食べ物が好きとかすごく他愛も無い話を何時間もして俺はその間ずっと文代の笑顔に釘付けだった。



帰り際、文代の家のすぐ近くまで来た。

「俺明日矢野屋に行ってくるよ、この先の話をしないと」

「うん、そうだね矢野屋さんの話も聞かないとわからないもんね」

その時後ろから咳払いが聞こえた。

振り向くとスーツ姿の男がこっちを見てる。

「お父さん」

「文代、誰と話してるの」ちょっと厳し目の言い方だ。

「俺、これから文代と付き合う予定の大河光太郎です」と咄嗟に本心を言っちゃた。

「大河君」

「文代は驚いてるじゃないか、今思いつきで言ったのか知らないが君はちょっと短絡的なんじゃないか」

「思いつきじゃありません、ちゃんと話したのは昨日初めてでけど、文代の明るい笑顔と優しい接客態度に好感を持ってました、やっぱ人となりは伝わると思います」

「昨日初めて話したのに交際は早いだろう、文代は大河君をどう思ってるんだ」

「私も」父親の前で中々恥ずかしそうだけど「私も大河君とお付き合いしたいと思ってる」と俺を見て言ったてくれた。

「うむう」お父さんが悔しそうに唸ったので「交際の先は、俺が一人前になって迎えに来ますから待っていて下さい」と言ったら「待ってろと俺に言ったのか!何故俺が待っていないといけない!」とキレてきた。

話が変になっったが「兎に角、俺は明日大事な話があるんで行ってきます。俺を信じて下さい。文代、また連絡するね!」俺は文代に手を振ってから父親に頭を下げて「失礼します」と寛吉仕込みの挨拶をした。



次の日


俺は矢野屋の近くに戻ったが一旦商工会議所にいた和田に会いに行く。それでどうやったら1番良いのかを聞いてみる。

「久しぶりですね大河さん。お客さんの要望もあって矢野さんはまだパン屋さんをお続けになっていましたよ。しかし近いうちに本当に閉店するらしくてね」

「えっそうなの?」俺は間に合ったと思ってホッとした。

「で、最近の取り組みではこんなのがあるんです。私は君にあったらそれを言おうと思っていてね」

和田に聞いた一番良いアイデアを聞いてすぐ矢野屋に走って行った。

途中でいつも矢野屋に買いに来ていたお爺が歩いているのを見つける「相川のお爺!」俺は手を振った。お爺は矢野屋のパンの袋を持っていた。

「あ!矢野屋の見習いじゃないか、閉店の知らせを受けて来たのか?」

「俺には日にちは教えてくれなかったよ」

「とうとう今日閉めるって言ってだぞ、俺もさっき行ってきたんだよ。寂しくなるなあ、俺はこれからどこでパンを買えば良いんだい」

「えっ」俺は叫びながら走った。
「待ってくれ」



寛吉は丁度シャッターを閉めている所だった。勢いよく中に滑り込んでショーケースにぶつかった。

バーーーン

寛吉は「うわ」と叫んだ「お前か、びっくりさせるなよ」

「やめるのはちょっと待って」

「前から言ってあっただろうが。そんな事より嶋田の店はどうだ、勉強になるだろ?」

「勿論勉強になったよ。そんな事って何だ、ここは俺が引き継ぐんだからな」

「何を引き継ぐだって?」

「だからそれがあれだよ」

「事業承継ですよ」後から自転車で追いかけてきた和田も飛び込んで来て言った。

「矢野さん、経営者の高齢化で従業員や他社に事業を承継するケースが多くなって来ています。実際この商店街も検討中の経営者が多いですよ。中には探しても結局見つからずに断念する店舗もあります。こんな熱意を持っている若者が街を活性化すると私は思います、だから追いかけて来ました」

「そんな事言ったってまだ若すぎるだろう。こいつはもっと色んな勉強をしなきゃ一人では無理だよ」

「俺に作業場と店の二間だけ引き継がせてくれよ。おっさんは裏に住んでるんだから俺のコーチをしてくれなきゃ。俺はおっさんと知り合って本当に救われたんだよ。ここのパンを無くさずにお客さんに食べて貰いたい。本当はパン作りが好きなおっさんの意志を継いでいきたいんだ」

和田が頷きながら「それですよ!『事業所の経営理念を引き継ぐ』のが事業承継の基本理念です。そして事業の発展を目指すんです」と助け舟を出してくれる。

「おっさんは俺に言ったよな『お前はまだ若いんだ、失敗してもまた取り返せるってもんよ。取り戻せない様なことはまだ起きてないだろ』って、きっとおっさんは俺を見守り続けていってくれる」

「全くお前って奴は厚かましい野郎だ、和田さん、こいつはパッと懐に飛び込んでくるんですよ、だからつい甘やかしてしまう」

「矢野さん、こうしましょう。大河君が他で経験を積んで戻ってきたら認めてあげるというのはどうですか」

俺は寛吉に顔を近づけて言った「俺の事『大事なもの』って言ってくれたんだろ」

寛吉は観念したように言った「まあな」

寛吉は心配しつつも俺の為にもう少し営業を続けてくれる事になった。

その後和田に「承継するなら寛吉さんに保証をしてあげる為に金を貯めておきなさい」と言われる。

そうかそりゃそうだよな!「知らなかったな」俺って厚かましいな。



ーーーー


三年後の春


俺はちゃんと嶋田の所で色々覚えた。
まだまだ頼りないけど、コーチと一緒にまた頑張るつもり。



そして今日俺は俺のファミリーとホームグラウンドへ帰る。





おわり

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