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パン職人の修造24 江川と修造シリーズ 背の高い挑戦者 江川Flapping to the future

会場の1番奥ではコンテストが行われている最中だった。

パン職人選抜選考会と看板に大きく書いてあり、かなり大きなコンテストの様だ。

「あれは?」

「今は25歳以上のシェフが世界大会に出る為の選考会が行われているんだよ。その横では若手コンテストと言って21歳以下の若い職人が競い合ってるんだ」

見ると、4メートル毎に四つに仕切られたブースの中にはパン作りに必要なミキサー、オーブン、ドウコン、パイローラーなどの機械がそれぞれ備えつけてあり、その中では選手と助手の二人が力を合わせて作品を作っている。更にその横では同じように4人の若い職人がブース毎に分かれてコンテストに挑戦していた。

鳥井は続けた。「そして2つの優勝者同士が一緒に世界大会に出るんだ。シェフと助手としてね」

修造が興味ありげにしているのを鳥井は見ていた。

「ここに並んでるのは優秀な選手達の作った作品だよ。芸術的で立体的だろ?」

そこには見たことも無いような勢いのある彫刻の様なパン生地でできた作品が並べられていた。


選手達の作った作品を見るために沢山の人達が十重二十重に取り囲んでいる。

「凄いな。パンで出来てるとは思えない」

そこへコックコートを着た大柄な男が近づいて来た。

鳥井がそれに気がつき「修造こっちへ来いよ」と呼んで、大木というコンテストの重鎮を紹介してくれた。

「ベッカライホルツのオーナーの大木シェフがこの大会を取り仕切ってるんだよ。俺と大木シェフは昔同じ職場で働いてたんだ」

「パンロンドの田所修造と言います」

「よう!テレビで見てたよ」大木は気さくに挨拶してくれた。

そして選手が組み立てている途中の技術の高い飾りパンを見せてくれた。

選考会に選ばれる為に一流選手が自分の持つ技術の全てを注いだ作品を作っている。

修造は選手の技術の高さに衝撃を受け、釘付けになった。

凄い、こんな高い技術のパン職人が集まってるんだ!

どうやって作ってるんだこの飾りパンは?

パンの世界は奥が深い、追っても追ってもキリがないんだ。

目をキラキラさせて見ている修造の肩を大木が大きな手で掴んで言った。

「おい!1年後の選考会にお前も出ろよ! 俺が練習見てやるよ!」

「はい」

俺もこの大会に!

修造は急に腹の底から何か熱いものが込み上げてきた。

「まずは1次審査に通ることだ!」

「あの〜うちの若いのも連れてきて良いですか?」

「勿論だよ」

修造は実演している選手の前に行って前のめりに見ていた。

それを後ろで見ていた鳥井と大木にそのまた後ろから声をかけてきたニ人の男がいた。

2人共コックコートを着ている。どうやら大会の関係者の様だ。

1人はパン王座決定戦に出ていた佐久間シェフで、もう一人は背が高く白毛混じりの短髪の男だ。

「頼んだぞ大木、鳥井もここまで連れてきて貰ってすまん」

背の高い男は大木達に声をかけた。

四人は心安い関係らしい。

「なんだよ、自分がコーチをしてやったらいいじゃないか」

大木はその男に呆れながら笑っていった。

「俺は他の子のコーチだからね」

そして修造を遠くから見ながら「俺は手抜きはしない」とボソリと言った。



修造は一通り選手の作品を見た後会場を出た。

駅まで歩きながら「大木シェフって親切な方ですね」と鳥井に言った。

「出来るだけ優秀な選手を育てて世界に勝たないとね。修造も出ると決めた以上は頑張れよ」

「はい。俺頑張ります」

修造の頭の中はもう自分の作る作品のことでいっぱいになっていた。

つづく


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