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パン職人の修造60 江川と修造シリーズ broken knitting
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次の日
若手コンテストも早朝から始まった。
皆、緊張の面持ちでスタートした。
鷲羽と江川は隣同士ではなく、間に沢田茉莉花がいたのでお互いの気配は全くわからない。
緊張してなにかの工程を飛ばさない様に気をつけてスケジュール通りに慎重に。
修造は江川の体調が心配だったが、もうこの場においては頑張って貰うしかない。
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江川!お前は個性的な奴だ。
その個性とセンスを最大限に生かしてはじけるんだ。
祈るような気持ちで江川の進行を見守りながら
修造は横にいた大木に話しかけた。
「大木シェフ、ここまでの期間色々面倒見て下さってありがとうございました。結果はどうあれ俺も江川もいい経験になりました」
「江川がお前の助手も自分のコンテストも両方やると聞いて、正直どちらも疎かになると思っていたが、どうにか乗り越えられそうだな」
「はい、江川は頑張り屋さんだな」
2人は江川と鷲羽の作品を代わる代わる見比べた。
「鷲羽は元々よくできる奴だったが江川のおかげで益々技術が上がったな」
「はい、ライバルって良いですね」
鷲羽はパンの専門学校に行ってた時、他を押し退けてまで技術の習得に熱心だったので、敵も多かったらしいが、今日は1人で集中して結果を出そうと必死だった。
コンテストに出た全員が粛々とパン作りを進行させていた。
江川の持ち物の中には修造に貰ったカミソリとホルダーがあった。
江川はそれをまるでお守りの様に思い、握りしめて手の震えを抑えるのに役に立った。
10時
建物が開場になり、チラホラと人が増えて来た。
昼間になると結果発表迄に会場を回って資料集めをする人達で一杯になって来る。
今日の夕方はとうとう審査の結果がわかる。
「流石に気になるな」修造も緊張してきた。
修造は、江川のブースの後ろに周りそろそろパンデコレのものを運び込もうとした。
園部も今日は鷲羽の為に色々手伝ってやっていた。
「江川これ置いとくよ」「はい」
鷲羽のパンも揃ってきた。
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いい出来だ。
鷲羽は勝利を意識しだした。
その時、テーブルがバターンと倒れた様な音がした。
「なんだ」
自分のブースの後で大きな音がしたので胸騒ぎがした鷲羽はすぐに覗きに行った時、園部が急に走り出した。
「あっ!園部どこ行くの!」
走り去る園部の背中を目で追ったがそれどころでは無い!鷲羽のパンデコレの部品が乗ったテーブルが倒れている。
「うわーっ」
鷲羽の叫び声が聞こえたので修造が駆けつけた。
鷲羽は膝をガックリついて箱の中を見ながら「園部が」と修造に言った。
中を覗くとマクラメ編みが割れている。
修造は「諦めるな!まだ時間はある!修復するんだ」と言って走り出した。
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園部に追いつかなければ。
修造は角を曲がって真っ直ぐ館内を走った。
「園部!待て!」
修造が追いかけて走っている頃、鷲羽は割れたマクラメ編みを震える手で繋げて愕然としていた。
園部
お前も俺を本当は嫌っていたのか。
あまり周りからよく思われてない俺に
普通に接してくれてたのに。
俺は勝手に親友と思ってたのに。
ホルツの入社式で横にいた時からずっと一緒に行動していて、それが当たり前と思っていたんだ。
「俺が人でなしだからか」
鷲羽の瞳から涙が滲んでいたが、修造が修復するんだと言っていた言葉を頼りに動こうとはする。
鷲羽の心は割れたパンのかけらの様に砕けそうだった。
修造は長いリーチで走る園部の背中に距離を詰めて行った。
しかし何かおかしい。
園部が見えてきた、その前に誰か走っている。
角を曲がって真っ直ぐ行くと出口だ!
「それまでに追いつかなくでは!」
「おや」
興善フーズにいた背の高い男は、走っている3人の男に随分先から気がついた。
つづく
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