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イベントレポートvol.24 「マザーハウスが挑戦する社会変革とは? 〜ソーシャル/ビジネス/キャリアの関係〜」

2021年7月16日(金)19:30より株式会社マザーハウス(以下、マザーハウス)の取締役コーポレート部門統括責任者の王 宏平 様(以下、王氏)をお招きして、グロービス経営大学院の2つの公認クラブ『変革クラブ』×『ソーシャルビジネス・クラブ東京』(以下、GSC)の初共催イベントを開催致しました。ご講演のアジェンダは以下の3点となります。

1.マザーハウス創業ストーリー
2.王氏自身のキャリア(大企業からベンチャーへの転身)
3.ソーシャル(社会課題)とビジネスの関係性

各アジェンダでの重要な気づきなどを共有していこうと思います。

1.マザーハウス創業ストーリー

「マザーハウスはどこに向かっているのか?」

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「途上国から世界に通用するブランドをつくる」

これがマザーハウスの理念だ。企業理念の重要さはグロービス生なら痛いほどわかるが、今から15年前である創業当時(2006年)、周りからのこの理念の理解が乏しく、「途上国からのビジネスは成り立たないからやめた方がいい」、そんな助言を多く受けたとか。

マザーハウス創業者の山口絵理子氏(以下、山口氏)は、王氏と同じ大学のゼミに同級生として所属し、共に世界の貧困問題を様々な角度から研究した間柄だ。王氏は大企業に就職した後、マザーハウスへと転職し、経営メンバーとして山口氏と再会することとなる。

大学生活の中でこのような課題感を議論し続けた仲だからこそマザーハウスでの再会に繋がっているんだなと感じました。友達、仲間の縁って本当に大事ですね。ここから、創業者山口氏のストーリーを王氏に語って頂きました。

「貧困問題の研究をしているのに途上国に行ったことがないことに気付く」

世の中の不平等はなぜ起こるのか。学生時代に米国の投資銀行でインターンシップをしていた山口氏は、上司に素朴な疑問を投げかけてみた。

「このお金は何に使うんですか?」

融資先の国に行ったこともない上司は、次のように答えたそうです。

「それは、融資を受けた国の人が考えればいいんだよ」

山口氏は、これを「へー、そうなんだ」で終わらせず、しっかり自分に矢印を向け、自分だって途上国の現場を見たことがないことに気づき、次の行動に繋げていく。

当時、アジア最貧国であるバングラディシュに乗り込み、『もう嫌だ!帰りたい!!』と思いつつもバングラディッシュを知るために、大学院に飛び込み留学。

周りの人から気づかされ、素直に内省し、自分の行動を変化させる。しなやかに志醸成のサイクルが回転しているように感じました。

「バングラディシュから『かわいい、かっこいい』を作れないか?」

山口氏は、劣悪な労働環境で1袋75セントのジュート製の袋を作る工場で10代の女性が働いているのを目の当たりにして、

「もっと付加価値のある商品を生み出せないか?」

そうすれば、世界の購買行動が『かわいそう』だから買うのではなく、『かわいい、かっこいい』から買うに変わるはず。そして、きっとその先には貧困問題の解決がある。このような世界感の実現が、

「途上国から世界に通用するブランドをつくる」

というマザーハウスの理念に昇華された。

コロナ禍の逆境においてもチャレンジする姿勢は変わらない。直近一年で新たに10店舗を新規オープンし3店舗を閉鎖。現在は国内34店舗、海外8店舗を展開するに至っている。

2.王氏自身のキャリア(大企業からベンチャーへの転身)

ここからは、王氏自身のキャリアの話となる。行動の変化のきっかけは、問題意識の高さと自らの気づきであり、前述の山口氏とよく似ている。

「エコノミストになりたいと言いながらも、自分は目の前にある文房具がどのように作られてどのように流通してきているかさえ、全然わかっていない。」

エコノミストになりたかった学生時代、ある出会いが自分を内省に向かわせる。慌てて就職活動をし、とにかくモノづくり、動いている現場をいっぱい見たいという想いを胸に、たくさんの企業に融資経験ができる政府系金融機関に入行した。

リーマン破綻による荒波の中、社内の困難事項に直面し、メンタルがやられる直前まで追い込まれた。そんな混乱した時だからこそ、開き直って自ら行動することで結果的に物事をうまく回せた。そして、社内の1年間のイギリス留学の枠に何とか滑り込むことができた。

「何のために働いているのか?」

イギリス留学から帰国後、本部の国際業務部へ異動となった。しかし、大企業特有の企業文化に悩まされ、今振り返ると最もつらく過酷な時期だった。そんな時に「何のために働いているのか?」という問いが頭をよぎる。

「自分の問題意識と何がやりたいのかを自問する。この問いは、大学生の時からよく聞かれている問いだけど、意外に答えが出ていない」

そんな国際業務部の次は、バンコク銀行への出向。タイの文化と価値観に触れ、それに慣れることで、新しい職場環境に適応が出来た。そんな折、バンコクからたまたま見ていた日本のテレビ番組の中で当時大阪府知事だった橋下氏のコメンテーターに対する叱責が、自分の胸に刺さる。

「銀行であの会社のことを何もわかっていないのに経営がどうだこうだと言っている自分もコメンテーターと一緒だなぁ」
「事業会社で働きたいなぁ」


バンコク銀行時代は、ヘッドハンターからのお誘いもあり、お金のこと、今後のキャリアのことですごく迷った。しかし、後悔したくない。そのような内省の中で、事業会社で働いてみたいという自分の気持ちに気付くことが出来た。

「死ぬ時に、マザーハウスに行っとけばよかった」
「こんな後悔はしたくない」 と悩んだ末に

「あれこれ考えることを止めてみる」

マザーハウスへの転職は、大学のゼミの先輩でマザーハウスの共同創業者でもある山崎大祐氏(現マザーハウス副社長)からのお誘いがきっかけだ。その結果、事業会社で働くというキャリアを歩むことになる。

「会社に理念と価値観があるように、自分にも理念と価値観がある。」

今になって振り返ると、学生時代、金融時代、マザーハウス時代と時代ごとにやりたいことがあったのだが、実は全体で繋がったものがなかった。しかし、今はマザーハウスの理念と価値観が自分のそれらと重なっている。

「自分が何をやりたいかを明確にする。」

自分の価値観を棚卸し、理念を言語化する事で、自分がどうありたいのか、なぜこれをするのかを明確にする。これが出来てきたのは、ここ2年くらいの話です。しかし、頭で考えるだけではダメで、自ら物事を切り開いていくタイプではない自分にとって、縁や機会が大切であり、そして、ここぞという時の行動が最も大事になる。

3.ソーシャル(社会課題)とビジネスの関係性

「あなたの作ったバックを長年愛用しているの。この一言が、作り手の人生を変える。」

マザーハウスでは、顧客と作り手をつなげ、顧客の声を商品開発に繋げている。顧客との座談会から生まれたZADANやマイノリティーの声を活かすCocokaraなど様々なチャレンジを行っている。これを支えているのが、海外自社工場の存在だ。自社工場のメリットは、50個からでも生産ができ、顧客と商品開発と作り手が有機的に交わっていけることだ。このような顧客との対話体験を通じて、作り手の物を作るという単純作業が、人生にとってかけがえのない大切な体験に変わっていく。

「マザーハウスはやりたいことをやっている。」

マザーハウスは冒頭の理念を元に、製造から販売まで一貫して自社で行い、各々が独立採算制をとる。だからこそ、マザーハウスと社員の理念が重なることが重要になってくるし、ここがチャレンジングで教え合う社内文化の源泉に繋がっている。

社会全体がSDGsやESG投資に関心が向いていることは凄く良いことであることを前提に、最近の経営トレンドは、経済性と社会性の両立であることは言うまでもない。これらの関係性は、経済性が主で、社会性が従という関係性が適切なのではないか。つまり、マザーハウスの場合なら、途上国から『かわいい、かっこいい』を作る世界を実現するために継続的な利益が必要だし、その継続的な成長が現地に横たわる貧困問題等の解決に繋がっていくことになる。

マザーハウスは社会起業家として語られることがあるようです。しかし、マザーハウスは掲げた理念の実現に向けて、常にマザーハウスらしいやり方を模索し、チャレンジングにやりたいことをやっているパーパス経営の代表のような会社だと思う。

レポーター:変革クラブ幹事 2019期 田中一隆

#マザーハウス #グロービス #変革 #グロービス変革クラブ #ソーシャルビジネス・クラブ東京 #パーパス経営

【幹事団後記】

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このイベントが、参加者の「心に火をつける」イベントとなれば幹事団冥利に尽きます。今後のイベントにご期待下さい(^^)/
王さん、この度はお忙しい中、ご登壇を快諾頂きましてありがとうございました。(幹事団一同)

【企画幹事団】
変革クラブ:2019期 高田準三、手塚里美、田中一隆 2020期 濱田淳一
GSC東京:2019期 今野芽生、山下真粧子、大野淳史



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