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【文学・ドラマ考察】おしゃべり評論部

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心に残ったもの・引っかかったものの紹介や解説をします。おしゃべり感を大切にしたい、感想と批評の間。雑談なんぼ。
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『あんのこと』は『誰も知らない』に並ぶ毒親育ちを描く名作映画

『ナミビアの砂漠』で河合優実沼に落ち『あんのこと』を観たら、ぶん殴られた私の日記 2024年9月、ナミビアの砂漠を夫が見たい見たいというので、映画館へ。いや、めっちゃよかった。河合優実の魅力と引力が凄まじく、この人の出ている映画をもっと観たい!と思って、アマプラでふと見かけたのが、『あんのこと』。 見終わった今、私のなかには、あんのことの方が、ずっと大きく残ってる。いうならば、ナミビアの砂漠は、杏がどこかで生きていて、少し成長して、ナミビアの砂漠のカナみたいに生きててくれ

Netflix『地面師たち』が海外でウケるワケ / エンタメ評論と海外マーケの交差点

7月も終わりのうだるような真夏の日曜の昼下がり。リリースされたばかりのNetflixオリジナルドラマ『地面師たち』を見た。  全7話で地上波のドラマよりはコンパクトにキュッと見やすく、でも2時間のTVドラマや映画よりはずっとリッチで、Netflixの良さを凝縮したような作品だった。ただサイコスリラーやハラハラを煽る作品が得意とは言えない私には緊迫度が凄すぎて、5話まで一気見したところで心臓が耐えきれなくなり、「あの、散歩……ちょっと外散歩させて……」と家の周りを一周して生暖

世界一静かなプロテスター。市川沙央ほどの前衛芸術家はそういない

最後の聖書の意味がわからない人にハンチバックの読み方って(解釈って)3つできる、というnoteを書いたのだけど、ここでは、解釈①の「現代神話としてのハンチバック」をもう少し解説してみる。 小説の世界には一人称の小説か(「私は…」で綴られる)三人称の小説か(「陽子は」「透は」……と小説内でも視点が変わる)、あるいは神様視点の小説か、という技法的な用語があり、ハンチバックを「神様視点の小説」と言ったら、「ハァ?」とめっちゃ訂正されそうであるのだが、私はあえて「いや、ハンチバック

【読み方3選】語り手の謎を解け!ハンチバックを100%味わいたい、あなたに

ハンチバック読み方3選2〜3年前だったか、芥川賞の選評の抜粋を読めるサイトの存在を知り、そこにある村上龍らの言葉があまりに面白くて一晩中スマホをタップ&スクロールし続け、朝までかけて過去20年分くらい読んでしまったことがあった(短文ながらもそのレベルの作家の言葉は三十行の言葉より味わいがあったりする)。 しかし小説というのはなかなか心の余裕がないと読めないもので、選評を読んでも本体(作品)を読むことはあまりなく、肝心の作品の方は、たまに本屋の平台で見かける程度。そんな私が久

『蛇にピアス』を読む──それは何の物語なのだろうか

映画や本を見たとき、自分が理解しきれなかった気がするものほど、後でレビューを読みたくなる。それは、感覚に言葉を与えたいような気持ち。ネタバレ注意とかいうけど、読む前、観る前にレビューを見ることはない。思うにそれは、観た後・読んだ後にこそ読むものなのだ。このぼんやりとした感覚に、輪郭を与えたい。他の人は、これをどう見たのだろう?そう思っては、スマホのレビューの海にダイブし、作品とそれを形容する言葉を行ったり来たりし、「へえ〜そこは見えてなかったな」とか、これは言い得てるなぁとか