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今日も情報を聞き出せなかった。今更こんなことを言っても仕方ないが、私はスパイには向いていないのかもしれない。異国での生活はとても疲れる。故郷の食べ物を売っている店を見つけるのにも一苦労だ。しかし、その店の女性はとても優しく、気さくな人だった。慣れない土地での慣れない任務。懐かしい母国語での会話が、私のなかの緊張の糸をほどいたのかもしれない。私はその女性にキスをしてしまった。彼女は私を押しのけて、血相を変えた様子で携帯電話を手に取った。私はすぐに謝った。それでも携帯電話を握りしめている彼女の手を取り、その携帯電話を奪った。そして、自分がスパイであること、スパイなので警察に連絡されたら困ることを彼女に伝えた。彼女は興奮状態だったが、それでも、スパイなら自分がスパイだということを人に言うべきではないと私に教えてくれた。私は彼女に感謝し、携帯電話を返したうえで、私がスパイだということは忘れてくれと言った。彼女は納得している様子だった。少しの沈黙のあと、改めて彼女を食事に誘ってみたが断られた。

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