見出し画像

香水

「後ろから失礼します」の声と同時に後ろからどんぶりが運ばれてくる。


カウンター席に運ばれてきたどんぶりの中をのぞくととんこつ味噌スープの海の上に鎮座するもやしと白髪ねぎの山。

山には大きなチャーシューがその身をもたれかけている。

その山とスープを覆うのは名峰「八海山」にも勝るとも劣らない煌びやかな輝きの背油。

その上にラー油のオレンジ色と彩りをそえる糸唐辛子が鮮やかである。

画像1

どんぶりに顔を近づけ、マスクを外し立ち上がる香りを楽しむ。にんにくの効いたピリ辛みその香りが鼻孔をくすぐる。

マスクを置き、はしを割り、下に沈んでいた麺を持ち上げる。

麺量は180gと特別おおいわけではないが、同市内で打っている特注の太麺がしっかりとした重量を感じさせる。

持ち上げた麺はスープと背油、そして湯気をまといツヤツヤと輝くつるつるもちもち麺。

それを口に運ぶと口や鼻からうまみが襲い掛かってくる。

これこれ!!

スープがはねることを気にしてどんぶりに顔を近づけていたのに、それすら意味をなくすような勢いで麺をすする。

ズルルルルッ

ズバザバッッ

口中に含んだ麺をゆっくりと咀嚼し、ゆっくりと飲み込む。

にんにくのうまさたっぷりな香りを鼻で楽しみ、白みそベースの甘さがあるとんこつみそスープを吸ったもちもちの太麺を舌で味わう。

「嗚呼、うまい」

心の中でそんなことをつぶやきながら頭を持ち上げ、次のひとくちのために鼻から息を吸う。

その瞬間である。

強烈な香りが鼻を刺した。

スープにはゆずも陳皮も浮かんでいないし、それよりもずっと強烈なにおい。

鼻孔をくすぐるなんてものじゃなく、鋭い刺激臭で鼻の奥のほうを刺されるようである。



…これは香水だ…



自分の左側には白い壁、そして右側には推定40半ばの男性が一人。

この香水をプンプンと匂わせている犯人である。


早く立ち去ってくれればよいのだが、あいにくほぼ同時の来店、メニューの到着である。

この臭い香水から解放されるには自分が先に食べ終えて出るか、店員さんに匂いが迷惑な旨を伝えて出て行ってもらうかの二択である。

前者を選択した自分は一心不乱に麺をすする。

呼吸を浅くしようが、壁側を向いて息を吸おうが、香水の匂いは容赦なく自分の鼻に襲い掛かってくる。

眉間にしわを寄せたままにダイソンも顔負けの吸引力を存分に発揮し、先に来店していたお客さんを2人ほど追い抜き会計をした。


飲食店にくる時はなるべくなら香水は控えてほしいし、つけるにしてもすれ違った際にフワッと香る程度にとどめておいてほしい。

おいしくラーメンが食べたかったな……





サポートいただいた資金は、ラーメンや日本酒を介して僕の血肉となり、記事という形で還元させていただきたいと思います。🍜🍶