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春を追う鳥

(それはちりちりと 氷が軋むような、小さな鈴の音のような、歌声。)

春を追い駆けてゆく鳥の群れは、名前のない、雪に覆われた島の、氷の洞窟から生まれる。

ひとつの水の粒が、落ちて、ぎんいろの波紋をつくり
その中心から 透明な鳥たちが生まれる。

(水のように、氷のように、水晶のように、結晶のように
あるいはただ、そこにある大気のように)

彼らはそれぞれ歌い、時に沈黙し、群れをなして洞窟を出る。

そして生涯、春を追い駆ける。生まれ落ちたそのときから、彼らの胸の内には春の欠片が埋められているからだ。春が春を呼ぶ。呼び合う。海の向こうから角笛の音が聞こえる。彼らは目を覚まし、歌いながら飛んでゆく。


(220325)