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シエスタと竜の墓場


シエスタの住む街の外れには、竜の墓場と呼ばれる場所がある。


海に面した要塞を兼ねた迷路のような街の、海側とは反対の方に、その広い広い墓場はあった。特別な祭りの時以外は立ち入り禁止になっている。石英を砕いた砂粒のようなものでできた、白い砂漠のようなところ。

中心に大きな樹が一本だけ生えている。年老いて死期を悟った竜はその樹の下で眠るように最期を迎える。そのときが来ると竜は歌う。それから白い石のようになって、砕けて、墓場の砂の一部になるのだという。


家出をしたシエスタは、立ち入り禁止の竜の墓場に潜り込んだ。墓場の周囲はシエスタの身長を越す背の高い夏草で覆われていて、その中を通ったときに頬に傷がついたらしい。ぴりぴりと痛む。


辿り着いた墓場は白く、また銀色に光っているようにも見えた。満月に近い月の光を反射してきらきらと瞬いている。

その中心、大きな大きな、名前の知らない樹の下には、燃えるように赤い鱗の竜がいた。竜の眼が立ち尽くしているシエスタを見た。白く濁った眼。とても静かな、凪の日の海のような。


(続)