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「植物を運ぶ」絵のこと

画家・山口法子さんの絵が大好きで、特に「ヨキ」の本はわたしにとって大切な物語です。この「ヨキ」に出逢ったことで、わたしは本格的に山口さんの世界観と絵のファンになりました。

絵自体も、いつかご縁があったら手元にお迎えできたらいいなと思っていたのですが、好きだと思う絵があってもなかなか踏ん切りがつかず、その間に売れてしまうことが何度かありました。


2021年11月にondo galleryさんで行われた個展「ずっとここにいた」では、派生する形で「おいてけぼりの方舟」シリーズも描かれました。ノアの方舟に乗れなかった動物たちはそのあとどうしたのか、どうなったのか、という物語を山口さんはさまざまな方法で表現されています。

当時のわたしが断続的に噴出する怒りと共に抱えていた疑問や鬱憤に関わることが、「方舟」シリーズの世界観や絵、山口さんの言葉によって癒されました。聖書に綴られるような”救われる”とさえ言ってもいいほどの、強烈な体験でした。他の出来事や自分に関わる大きな流れも影響していたにせよ、それはほとんど宗教的といってもいいくらいの“救済”だったと思っています。大げさに聞こえるかもしれませんが、実際わたしはそう感じました。

「きっと、文献に載らないところで、別の物語があったはずです。」
「そんなこんなで、おいてけぼりの方舟の動物たちは自分たちだけの力で、
自分に無理のない人生をリラックスして楽しんだというのが本当の物語です。」
(山口法子「ずっとここにいた」(冊子)より)


なんという自由でしょう。

神はいるのか、いるのならなぜこんな世界をつくったのか、こんなに痛くて苦しい思いをして、家族に迷惑をかけて生きて、何の意味がある、"選ばれた人たち"はあんなに健康でしあわせそうなのに。

なぜわたしは「選ばれなかった」のか?

もちろんある視点から見れば、自分もまた“選ばれ”“恵まれた”者であることはわかりつつ、自分が抱えるもの、これからも抱えていくかもしれないものをどうしても許せずにいたわたしに、山口さんの絵はとてつもないパワーをくれました。それでいて、軽く、気楽で、のびやかなパワーなのです。


「おいてけぼりの方舟」シリーズから、「植物を運ぶ」というタイトルの絵を選び、お迎えすることが叶ったとき、とてもとてもうれしかった。いまも部屋に飾っています。

眺めているとどこまでも“自由”になれる絵。自分がやりたいこともわかってくる。胸の奥底からパワーが湧いてくる。

自由になった魂は、強いのだ。
かたくなではなく、しなやかな、軽々とした強さ。


「あなたのご先祖さまは、もしかしたらおいてけぼりの動物たちかもしれませんよ。」


ああ、なんてたのしく、やさしい世界だろう。