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dragon's lullaby

その村に住む少女は、他の誰にも聞こえない竜の歌声を聞くと、「竜に呼ばれた」と見なされる。

新月の夜。星明りを辿って「竜に呼ばれた」少女は森の奥へ行く。樹の影も黒く、闇もまた深く、白く小さな花だけが数え切れないほど光っている。

森の奥には巨大な岩と化した竜の亡骸がある。眠るように横たわった亡骸から、日照りでも涸れない水が溢れて、足元に小さな泉をつくっている。

少女は泉の傍に、家の庭や村の道で摘んだハーブや小花の花束を捧げる。村に伝わる竜への挨拶の言葉を一言声に出し――これはかつて竜と心を通わせた村の女性の名前だといわれている――感謝を述べ、一礼してから村へと帰る。

(ルドルフ・ガードルード『竜の声』より)