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おばあさんの幸福の畑
ご近所に妖精がいそうな畑があって、おばあさんと彼女の亡くなった犬と、目に見えないものたちで整えられたそこがとても好きで。犬との散歩の途中に声をかけていただいて、おばあさんから花を分けてもらったこともあった。(オレンジ色の元気なポピーだった)
雪が溶け、春になってもおばあさんは畑に現れず、だんだん荒れていく場所を見て、あのおばあさんはもう帰ってこないかもしれない、少なくともわたしの目に見える形では、と思った。
暑い夏の終わりに、まだ若い女性が畑で作業していて、目が合うと、なぜか慌てたように伸びたフキを切り取って束で分けてくれた。旬の季節は過ぎただろうフキは下拵えしてよく煮るととてもおいしかった。おばあさんからのお別れの贈り物だったのかもしれない。
畑の後継者である女性は忙しいらしく、姿はあまり見ない。畑は荒れ放題のまま、雑草に混じって、いまはひどく背の高いコスモスが咲いている。
フキをもらったとき、いつかここには家を建てるつもりだ、と聞いた。
豊かな土の、豊かな畑。花と野菜が入り混じる畑。おばあさんが家から運んでくる水。座って作業する彼女の丸い背中。蝶がたくさん飛んでいた。
もう戻らない季節、幼いころの記憶のように、そこはただただ幸福に満ち溢れている。