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雨の草原の貴人

くさはらに横たわっている。雨が降っていることに気づく。雨音はやわらかい。傍には白い狩衣を着た見知らぬ貴人が座している。薄暗い影が目元を覆い、私からは口元だけが見える。うつくしいものだけを数えてここまで参りました、と言う。

「しかしそれは同時に醜悪なものも数える、ということではありませんか?ふたつはおそらく表裏一体なのですから」私が言うと貴人は少し首を傾げ、それから頷く。幼いような仕草に、私が思うよりこの方は若いのかもしれない、と思う。

「それでもわたしにとってそれらはうつくしいのですよ。どれほどかなしく、醜く、憎らしいものであっても」
「そういうものを数えて、数えて、生きてこられたのですね」
「はい」
「まるで祈りのようですね」
「……そうでしょうか」
「少なくとも私には、そのように思えます」

貴人の後ろ、広がる夜空は雨雲によって少し明るい。白と、銀と、黒色の龍が戯れるように泳いでいる。私の目線に気づいた貴人は振り返り、空を見る。龍を見る。雨にけぶる山々を見る。そうして、夢は解ける。