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すすき【シナリオ・センター 20枚シナリオ_本科課題6】

タヒチアンパール

登場人物

甲斐愛香(31)(11)主婦/小学生
甲斐まりあ(8)小学生、愛香の娘
吉川舞(28)(8)タヒチアンダンサー/小学生
イベントスタッフ
先生

○海辺の遊歩道
海に面した石畳の細い道。
ベンチのあるウッドデッキ。
 ビーチでは仮設ステージや屋台などが組み立てられ、若者たちがイベントの準備をしている。
 ビーチの入口には『令和初の湘南アロハサンセット』という看板が建てられている。
手をつないで散歩する甲斐愛香(31)と甲斐まりあ(8)。

愛香「いつまでふくれてるの?」
まりあ「まりあ、去年は白雪姫だったのに」
愛香「まりあだけじゃなくて、葵ちゃんもリサちゃんもでしょ。白雪姫が10人いたじゃない」
まりあ「うさぎの役なんてイヤ」
愛香「アリスの冒険がはじまるための大事な役でしょ。十人の白雪姫より、ママはうさぎの方がやりがいあると思うけどなあ」
まりあ「まりあ、アリスがやりたい」
愛香「大人になるとね、全員がアリスや白雪姫はできないよ」

愛香とまりあ、ベンチに座る。
目の前には海が広がり、サーファーが波とたわむれている。
イベントスタッフが愛香にチラシを差し出す。

スタッフ「今週末、全国優勝したダンサーのタヒチアンステージがあるんです。よかったら来てください」

チラシを受け取る愛香。
チラシには『吉川舞・タヒチアンソロステージ』というタイトルと、衣装をまとった美しい吉川舞(28)の写真。
まりあ、チラシをのぞき込む。

まりあ「この人、きれい。まりあ、フラダンスやりたい」
愛香「これフラじゃなくてタヒチアンダンスって言うんだよ」
まりあ「でも映画で見たもん」
愛香「フラガール?でも、あれタヒチアンなんだよね」

まりあ、首をひねって不思議そうな様子。

愛香「ママね、小さい頃、この人と一緒に踊ってたの」
まりあ「うそー、ママが?」

愛香、ウッドデッキを見つめる。
ウッドデッキにオーバーラップして、すすきが生い茂る空き地になる。

○イベントでにぎわうビーチ(回想)
入口には『二十世紀最後の湘南アロハサンセット』と書かれた看板。
屋台には厚底サンダルで砂浜を歩く細眉のギャルもいる。
遊歩道に石畳はなく、砂に埋もれたアスファルトの細い道。
空き地にはすすきの大群がゆれている。

○ステージ裏のテント(回想)
子供から大人までのダンサーが衣装を着け練習している。
子供時代の愛香(11)と舞(8)もいる。
舞はまだ小さく、愛香は高学年のお姉さん。
二人の体格で年齢差がはっきりわかる。

先生「ソロで踊るのは愛香ちゃんから、舞ちゃんに変わります」
愛香「え?」

子供たちはざわつき出す。

先生「愛香ちゃん、二番の最後に腰を回すファラプをちゃんと回さないでサボっちゃってるでしょ。舞ちゃんはきれいに回せてる。だから今日のソロは舞ちゃんね」

愛香、目に涙をためてうつむく。
舞は愛香を心配そうに見ている。

先生「頭の羽飾りは舞ちゃんがつけるから、愛香ちゃん、渡してあげて」
愛香「…おうちに忘れてきました」

先生たち、ざわめく。
舞が空き地へと走り出す。

先生「舞ちゃん、どこに行くの?もうすぐ出番よ」

舞はすすきをむしり、両手いっぱいに抱えて戻ってくる。
舞はすすきをはさみで切ってガムテープで止め、花飾りをあしらって作った羽飾りを自分の頭につける。

先生「舞ちゃん、素敵!さあステージに上がりましょう」

タヒチアンの音楽が流れ、ステージ上には舞と愛香以外の子供たち。
舞のソロダンスに拍手喝采が沸き起こる。
愛香は泣きながら、ステージに背を向けて走っていく。

○海辺の遊歩道(夕) 
ベンチに座る愛香(31)とまりあ。
海に日が落ちてオレンジ色にきらめいている。
サーファーたちは自転車に、サーフボートをくくりつけている。

愛香「ママね、嘘ついちゃったの。ほんとは羽飾り持ってきてた。そのままタヒチアンもやめちゃったの」
まりあ「その先生ひどいよ。ママだって踊るの楽しみにしてたんでしょ。その日に言うなんてひどい」
愛香「ママに実力がなかったの。舞ちゃんは小さかったけど、いっぱい練習して一番上手だったからね」

まりあ、黙っている。

愛香「ママね、後悔してる。みんなと一緒に舞ちゃんの後ろで踊ればよかったって」
まりあ「まりあ、うさぎの役、頑張るよ。アリスやるヒナちゃんの後ろで頑張る」

愛香とまりあ、手をつないで歩き出す。
海に日が沈み、夕暮れが二人の後ろ姿を照らしている。

○イベントでにぎわうビーチ
入口には『令和初の湘南アロハサンセット』と書かれた看板。
屋台はにぎわっている。

○仮設ステージ
ステージ上では可愛いうさぎの衣装を着たまりあが元気に飛び跳ねている。
客席は盛り上がり拍手喝采。
愛香と夫は、まりあを見守っている。
タヒチアンの衣装を着た子供たちが小走りに通っていく。
子供たちを見つめる愛香。

ウッドデッキがオーバーラップして、すすきが生い茂る空き地になる。

○海辺の遊歩道(回想)
タヒチアンの衣装を着た子供たちが歩く。
子供の愛香と歩もいる。
小さな舞は転んで泣いてしまう。
愛香が舞を抱き起こし、舞をおんぶして皆に追いつく。
歩道の脇にはすすきがゆれている。

○仮設ステージ
遊歩道を見ている愛香。

まりあ「ママ、まりあ、うさぎやったよ」

現実に戻る愛香。

愛香「すごくよかった。アリスよりおいしい役だねってパパと言ってたの」

オテアのリズムが響き、ステージ上に舞(28)が登場。
華麗にタヒチアンダンスを踊る舞。
ひときわにぎわう観戦席。   
愛香とまりあもステージに見入る。
舞がポーズを決めると、大きな拍手が沸き起こる。

スタッフ「全国大会優勝の吉川舞さんのステージでした。舞さん主宰のタヒチアン教室では生徒さん募集中。3才から大人の方まで、もちろん初心者の方も大歓迎です」

愛香とまりあ、目を合わせてうなずくと走り出す。

○ステージ裏のテント
愛香がまりあを連れて、スタッフに声をかける。

愛香「あの…娘にタヒチアンを習わせたいんですけど」
スタッフ「はい!ありがとうございます」

スタッフ膝を曲げてまりあに目線を合わせる。

スタッフ「お名前は?」
まりあ「甲斐まりあです」
スタッフ「まりあちゃん、よろしくね」

スタッフ、子供たちに声をかけて

スタッフ「みんな、新しいお友達だよ。まりあちゃん、仲良くしてね」

子供たちが笑顔でまりあを取り囲む。
リゾートワンピースを着た女性が振り向く。
舞だった。

舞「もしかして…愛香ちゃん?」
愛香「舞ちゃん、覚えててくれたの?」
舞「当たり前だよ。小さくて泣いてばっかりだった私に優しかったお姉ちゃんで…あんなに一緒に踊ったじゃない」

舞、まりあを見る。

舞「愛香ちゃんの娘さん?似てるね」
愛香「舞ちゃん、ごめんなさい。私、あの時…」
 
タヒチアンのメロディが流れる。
舞、うなずいて愛香の話を聞くと愛香をハグする。
まりあは早速教わったステップで子供たちと一緒に笑顔で踊っている。

○ビーチサイド(夕) ※イメージシーン
海の水面が夕暮れに照らされてオレンジ色に輝く。
砂浜には子供時代の愛香と舞。
夕陽を浴びながら、二人並んでタヒチアンを幻想的に踊っている。

〈Fin〉


今見ると読みにくい。やっぱり書いて上達するものですね。
ダンスと同じ。

基礎科から20年以上も経っていて20枚シナリオのサイズ感も、「回想が禁じ手」ということすら忘れていた。
20枚の中で回想やイメージシーンまでフルコース。

8週間を終えたばかりの生徒さんからは「回想使っていいんですか?!」「NGですよね」とまあまあの混乱ぶりと若干糾弾気味。私が「アンチ回想論」が今でも苦手なのはこの経験かもしれない。

先生とNさんという推定40才くらいの男性生徒さんだけが「それは置いといて、よかったよ」と言ってもらえたおかげでシナセン続けられたと言っても過言じゃない。
その後、毎週コンスタントで課題出したのは、ほぼNさんと私だけだった。
Nさん元気かな。研修科の時は時々、廊下とかで会ったけど。
私が曜日変わっちゃったし。


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