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おせっかい→セリフは嘘つき【シナリオ・センター 20枚シナリオ_本科課題→新井一賞応募作】

オフショアR134

登場人物

成瀬隆哉(44)ボディボード店オーナー
葉山樹(22) 大学生
松岡凛(24) 雑誌記者
体験客A・B
カメラマン

○海岸
ウエットスーツを着た成瀬隆哉(44)が、若い女性数人にボディボードをレクチャーしている。
成瀬は日焼けして、年齢を感じさせない体型。
髪型も若作り。

成瀬「今日は可愛い子ばかりだから、波もコンディションいいですね」

女性たち、楽しそうに笑う。

○オフショア R134・外観
『オフショア R134』という看板がある海沿いのショップ。
店頭にボディボードが並んでいる。

○同・店内
ボディボード用品の販売コーナーと、カフェスペースが併設されている。
体験客A、Bがスムージーを片手に、店を出ようと成瀬に声をかける。

体験客A「初めてのボディボード、すっごく楽しかったです」
成瀬「よかったら、また来てくださいね」
体験客B「おじさん、また来るね」

成瀬、一瞬ガクッとして笑顔を作り、手を振って体験客たちを見送る。

成瀬「おじさん……だよな。やっぱ」

葉山樹 (22)が店内に入ってくる。

葉山「おじさーん」
成瀬「甥だからって、おじさんって言うなよ」

葉山、チラシの束を出す。

葉山「これお店に置かせてくれる?」

成瀬、渡されたチラシを見る。
モノクロの写真に『茅ヶ崎館・小津安二郎映画祭』と書かれている。

成瀬「小津安二郎って、戦前の映画監督だろ」
葉山「戦後も活躍したよ。東京物語とか晩春とか代表作は戦後の作品だし」
成瀬「……樹の趣味は相変わらず渋いな」
葉山「小津監督は、そこの茅ヶ崎館で脚本書いてたんだって。僕、映画祭のボランティアしてるんだ」
成瀬「なあ樹、若者らしくボディボードやったらどうかな。来年から社会人なのにマニアックな趣味ばかりで、女の子とつきあったことないんじゃ心配だぞ」
葉山「母さんは僕に彼女ができないことより、おじさんに嫁が来ないことを心配してるよ」
成瀬「俺は楽しくやってるんだから大きなお世話だって、姉さんに言っておいてくれ」

成瀬、おしゃれなフライヤーをどけて、映画祭のチラシを置く。

葉山「置いてくれるんだね。明日茅ヶ崎館で仮上映があるから、おじさんも見に来てよ」
成瀬「明日は雑誌の取材が来るんだよ」
葉山「おじさん雑誌に載るの?すごいじゃん」

○同・店内 (朝)
成瀬がいる店内に、松岡凛(24)とカメラマンが入ってくる。

凛「(名刺を出して)本日、取材でうかがった一色出版の松岡と申します」
成瀬「(名刺を受け取り)成瀬です。松岡凛さん、美しいお名前ですね」
凛「……名前負けで恥ずかしいです」
成瀬「イメージにぴったりですよ。まずは体験しましょうか」

成瀬、ウエットスーツを凛に渡す。

○海岸
成瀬が凛にボディボードをレクチャーし、カメラマンが撮影している。
成瀬は凛に密着し、身体を支えている。

カメラマン「写真は進呈しますのでお店のホームページやSNSに使ってくださいね」
成瀬「いい写真がなかったので助かります」

○オフショア R134・店内
凛が成瀬にインタビューしている。
その様子をカメラマンが撮影。

成瀬「サーフィンよりも年齢や技量を選ばず、誰でも楽しめるのがボディボードの魅力です。小学生から60代の方まで、初めてでも
気軽に楽しんでいらっしゃるんですよ」

凛、頷きながら、メモを取っている。
葉山が店内に入ってくる。

葉山「おじさん、映画祭のポスターもできたんだ。貼ってもいい?」

凛、葉山が貼ったポスターを見る。

凛「小津安二郎映画祭? 来月なんですね」
葉山「小津監督が脚本書いてた旅館で上映するんです。茅ヶ崎館は有形文化財なんですよ。ぜひぜひ、取材に来てください!」
成瀬「樹、雑誌のテイストもあるんだから、そんな強引に……」

成瀬、凛に頭を下げる。

成瀬「すみません。私の甥なんですが、若いのに昔の映画が好きで……」
凛「いえ、ぜひ取材させてください。趣のあるイベントを探してたんです」
葉山「今から茅ヶ崎館でスタッフ向けの事前上映やるんです。よかったら来ませんか?」
凛「いいんですか? ぜひ行きたいです!」

○茅ヶ崎館・外観
年季の入った趣ある和風旅館。
『茅ヶ崎館』と書かれたのれんがある。

○同・大広間
成瀬、葉山、凛とスタッフ達がいる。
スクリーンにはモノクロ映画が流れる。
昭和30年代のオフィスのシーン。
スクリーンの中の原節子が、上司から、お見合い写真を渡されて困っている。

成瀬「……大きなお世話だな」
凛「……あんな綺麗な人でも、嫁き遅れみたいに言われちゃう時代なんですね」
葉山「でも小津監督って、生涯独身だったんだよ。おじさんと一緒で」
成瀬「俺はまだ44だよ。勝手に生涯を終わらせないでくれ」

○オフショア R134・事務室(夜)
雑誌記事のゲラを見ている成瀬。
華麗にボディボードをする成瀬の写真をメインに、インタビューで熱く語る成瀬、笑顔の体験客に囲まれた成瀬の写真が載った4ページの特集記事。
成瀬はパソコンでメールを送る。
メールの文面は「松岡凛様 素晴らしい記事を有難うございます。掲載を楽しみにしています」
成瀬、嬉しそうな表情。

○同・店内(朝)
コード、フィンなど商品を並べる成瀬。
掃除を手伝う葉山が、カウンターに置かれたスマホに気づいて手に取る。
葉山は画面を見て驚き、成瀬に気づかれないようにそっとカウンターに戻す。

葉山「今度、凛さんとデートなんだ」

成瀬、並べていたフィンを落とす。

葉山「逗子の海岸映画祭に誘ったら来てくれるって。僕、女性とあんなに話が盛り上がったの初めて」
成瀬「本当に盛り上がってたのか? 樹に話を合わせてくれてるだけじゃないのか?それに凛さんは取材だよ。デートじゃない」
葉山「……いくらおじさんでもひどいよ」

成瀬、はっと我に返る。

成瀬「樹、ごめんな。俺が悪かった」

葉山、涙ぐんで出ていってしまう。

○同・店内
テレビを見ている体験客A、Bにカウンターからスムージーを出す成瀬。
テレビ画面の映像では、中年のお笑い芸人がロケで若い女性をナンパしている。

体験客A「20代と結婚したいとか言う独身のおっさんって、マジきもいよね」
体験客B「課長が独身なんだけど、上司だから愛想よくしてたら告白されちゃって」
体験客A「うわー、ホラーじゃん」

成瀬、無言で食器を洗っている。

○海岸(夕)
華麗にボディボードを滑らせる成瀬。
滑った後、成瀬は砂浜に寝転がる。
スマホの着信音が鳴る。
画面を見ると「松岡凛」の表示。
成瀬は肩で息をしながら受電する。

成瀬「はい、成瀬です」
凛の声「樹くんと海岸映画祭に行くんです。お時間あれば成瀬さんも……と思いまして」
成瀬「映画も詳しくない私と行っても面白くないですよ。樹と楽しんできてください」
凛の声「そんなことないです! 私、成瀬さんともっとお話したいですし……」
成瀬「……私は海を離れたら、ただのおじさんです。凛さんの買いかぶりすぎですよ」
凛の声「成瀬さんは私に興味ないですか?」
成瀬「……素晴らしい雑誌記者さんで……尊敬しています」

通話を切る成瀬。
スマホの待ち受け画面には、成瀬が凛を支えているボディボードの時の写真。

○逗子海岸
巨大スクリーンと小屋が設置され、映画祭が繰り広げられている。
賑わう来場客の中に、凛と葉山がいる。
凛は話しかける葉山に無反応。

葉山「凛さん?」
凛「 ご、ごめんなさい」
葉山「……凛さん、おじさんのスマホの待ち受け画面見たことある?」

凛、きょとんとした表情。

○オフショア R134・外(夕)
成瀬が戻ると店の前に凛が立っている。
成瀬「凛さん、どうしたんですか?」
凛「あの……また今度、私にボディボード教えていただけますか?」
成瀬「……はい。いつでもお待ちしてます」
笑顔で見つめ合う成瀬と凛。

<Fin>


本科の「おせっかい」をブラッシュアップして新井一賞に応募した習作。
珍しく中年男性と若い女性の恋愛…以前を描いてます。
おじさんが可愛がってる甥っ子との三角関係込みで。
当初、おじさんは身を引く想定でしたが、本科の先生が「今までの作品で一番主人公がイキイキしてる」と褒められ、これは主人公とこれから…で期待を持たせる方がいいのでは?とアドバイス頂いておじさんエンドになりました。
先生、おじさんだったからなあ(笑)

20枚シナリオなのに、R134沿いのビーチ、茅ヶ崎館で小津安二郎上映、逗子の海岸映画祭と某月9ばりにあちこち移動しすぎですが、気に入ってる作品なので再生させたいなと思ってます。


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