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僕が靴磨き屋さんとして働くまでの話2

180度

現在この記事を打ち込みながらも
こうした発信をすることも
普段の言葉遣いや所作、考え方
その全てがガラリと変わったのが
洋服屋に入ってからだな..と改めて感じました。
生き方を180度変えたお話。

衝撃のオファーから数日


熊本、阿蘇山の山頂での衝撃的なオファー(前回記事参照)から1ヶ月後
晴れて正社員として、アパレル業界に足を踏み入れることになります。
小売業、という部分では経験はあるのですが
アパレルは未経験どころか、知識すら皆無。
いやなんで洋服屋に入ろうと思ったん!?て言えるくらいの知識で
尚且つ、セレクトショップにそこまで思い入れや興味も少なかったという状態。
あるのは、謎に自信のある接客経験と少しばかりのやる気。
そう、僕は洋服屋としても販売員としても
あまりにもレベルが足りていなかったのです。

入社当時は22歳。
人生経験としても、仕事の経験としてもまだまだ未熟なのに
バンド経験のとがっていた頃が邪魔していて
斜に構えるような、不出来な新入社員がしっかり出来上がっていました。

洗礼

入社前に店頭で着用するものを見繕ってもらうのですが
今までそこで買ったものは何一つとしてなく(そもそもその時点でやばいです..)
一式を購入することになります。
そして、早くも洗礼を受けます。
高い。洋服が。
一式買うとなると、そらそうなのですが
今までそんな買い物をしたこともないので
その時点で恐怖でした。
給与天引きなので、目の前で支払うわけではないのですが
初任給が果たして残るのか..というレベル。
初任給は両親に何かしらプレゼントを..なんて人間でもなかったのですが
実家に帰ってきてて良かったと心から思ってしまいました。

着用する洋服に関しても、これが着たいです!とは言えず
知識や経験のない自分にとっては
まずはこのブランドで働くには、これを着用してください。
と言われるがままに数着を見繕ってもらいます。
着丈の長い、白いボタンダウンのシャツとギンガムチェックのボタンダウンシャツ。
チノーズと、グレーのフランネルのトラウザーズ。
靴はクラークスのネイビーカラーのデザートブーツ。
これが最初に買った洋服です。

もう、それが全然かっこよく見えなくって。
しかもタックインして着用しないといけないって。
え、全然アパレルの店員さんっぽくないやん。
それが最初に感じた印象。

上司に見繕ってもらったのですが
その方はめちゃくちゃかっこよくって
雑誌から飛び出てきたようなスタイリング。
ネイビーのジャケットにグレーのトラウザーズ。
ブルーストライプのシャツにシルクスカーフをサラり。
足元はめちゃくちゃかっこいいローファー。
すぐに真似したい!!てなったのですが
方や僕は白シャツにチノパンタックインですよ。
体型も相まってずんぐりむっくりです。

このどこにおしゃれを感じれたら良いんだと。
まずはベーシックから着用してください。と言われたものの
心の奥では全く納得できず
いやいや、お店立つんだったらもっと華やかな格好した方が良いでしょ。
ただでさえ新入社員なんだから、見た目だけでも良い感じの方が良いでしょ!
てなるわけなんですよ。

そんなモヤモヤを抱えたまま、初日を迎えるわけです。

日持ちしない感情

改めていいます。
僕は洋服屋で働くまで、人生経験も少なく
常識の欠けた、未熟な人間でした。

1日の流れを説明していただきながら
洋服の畳み方を教わる。
アイロンの当て方を教わる。
ネクタイの締め方を教わる。

いつになったら接客ができるんだ。
接客経験なんてずっとやってきていたんだから
販売するものが洋服なんだから
すぐできるに決まっているだろ。と。

いらっしゃいませの言い方を教わる。
言葉遣いを教わる。
立ち方や足音を鳴らさないような歩き方を教わる。
お店のルール、ブランドのルールを事細かく
ひとつひとつ、教わる。
白シャツをタックインした、自分的にはダサい格好で。

1週間経った頃
辞めよう。そう思いました。

自分が今まで経験してきたことを全否定されているような気がして
やってきた行動ひとつひとつを正され
もはや息するだけでも怒られるんじゃないかっていう気分になってました。
息苦しい。辛い。辞めたい。
働いている方全員が敵にすら見えてしまってました。

原動力

辞めなかった理由、二つあります。
正社員になったから
ただただ悔しかったから

ずっと面接や書類で落ち続けて
ようやく決まった正社員の仕事。
次はもう雇ってくれるとこなんてないかもしれない。
後戻りするのはもう嫌だ。という気持ちと
否定されたまま、何も結果も残せていない状態で
逃げるように辞めていくなんて
そんな惨めなことがあるかと。
悔しい、認めてもらいたい。せめて認めてもらえるまでは
絶対辞められない。

辞めなかった理由は頑張りたい、とかそんなポジティブな理由でもなく
苛立ちにも似た悔しい気持ちと
惨めな生活に戻りたくないという自分への負の感情です。
負の感情がエネルギーになって、踏みとどまることができました。
今までなかったこの原動力
実は今でもこのマインドは存在していて
怒りや悔しさ、苛立ちや悲しみ
負の感情が原動力です。
綺麗事が苦手だからこそ、ここは隠さずに言いたかった。

変化のグラデーション

辞めることをやめてから
そこから変わりました。
とことん変わってやろう、今までの自分を変えてやろう。
自分自身で全否定してやる。

洋服の辞典や接客の参考書
”チームワークとは”みたいな本。
今まで触れたことのなかったものに触れて
それが楽しくなってきて
毎日が勉強の日々。
数ヶ月が過ぎた頃、ボタンダウンのシャツしか着ていなかった自分が
ジャケットを買わせてもらえるようになりました。
白シャツタックインが様になっていて
通勤する背筋も伸びていて。
ネクタイを身につけられるようになりました。
鏡を見てネクタイを締めて
ディンプルを作る時がワクワクするように。
日々向かい合ってきていた結果、いつの間にか変わっていたことに気づきます。
人の変化って、グラデーションなんですよね。
変わったタイミングなんて分かっていなくって
分かるのはきっかけだけ。
でもそのきっかけに気づくかどうかが大事なんだって
今もその気づきには、常にアンテナを張ってます。

次の180度

ようやく洋服屋にも慣れてきた頃
革靴を買わせてもらえるようになります。
ALDENの黒のカーフレザープレーントゥ。
本格革靴との初めての出会いです。
そしてこの靴がきっかけで
僕の人生が、また大きく変わることになります。


初めてみたピカピカの靴。


まだ続きます。

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